第二百二十九話「訓練場の『ドジな一歩』と、幸運の銀貨が降る雪」
その日の午後、第二王子フリードリヒは、騎士訓練場で、新しい剣術の型を練習していた。彼は、完璧なフォームを追求していたが、その日、彼は珍しく単純な足運びを誤ってしまった。
フリードリヒは、剣を大きく振りかぶった勢いで、地面に埋められていた古く、出っ張った石につまずき、見事に豪快な前転を披露してしまった。
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「うおおっ!」
フリードリヒは、泥にまみれ、恥ずかしさからすぐに立ち上がろうとしたが、彼が足を滑らせたその瞬間、地面に埋まっていた古い石が、彼の衝撃でポロリと割れた。
割れた石の奥から、キラキラと光る、大量の銀貨が、雪崩のように噴き出した。
「な、なんだこれは!」
騎士団員たちは、突然の銀貨の洪水に、騒然となった。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、その騒動を見ていた。彼女の目には、フリードリヒの「失敗」が、「幸運」という名の、ユーモラスな結果を招いたことが見えていた。
「ねえ、フリードリヒ兄様。兄様は、ドジなところが、一番可愛いね!」
アルベルト王子とマリアンネ王女が現場に急行し、銀貨の出所を調査した。その銀貨は、王城の古文書にも記録されていない、遥か昔の、忘れられた王家の隠し財産であることが判明した。
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マリアンネ王女は、興奮気味に、その現象を解析した。
「兄様の不器用さが、地盤の微細なバランスを崩し、その結果、古代の構造の脆弱な部分を突いたのよ! これは、純粋な偶然が引き起こした、論理的な必然だわ!」
アルベルト王子は、銀貨の山を見て、思案した。
「この銀貨は、国の財政を潤すが、フリードリヒの『不器用さ』がこの宝を掘り当てたということが、真の鍵だ」
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フリードリヒ王子は、銀貨の幸運に浮かれることなく、妹の隣に座った。
「シャル。俺のドジが、こんな大金を生むとは……。でも、俺は、銀貨よりも、おまえの笑顔の方が価値があると思う」
シャルロッテは、兄の純粋な愛に、にっこり微笑んだ。
「ね、兄様。ドジってね、『もっと可愛くなれるチャンス』なんだよ! だってドジな方が、みんな、『助けてあげたい』って思うでしょう?」
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ルードヴィヒ国王は、この銀貨の発見を、「第二王子フリードリヒの功績」として、国中に布告した。
「勇気ある騎士の不器用さが、王国に富をもたらした! 失敗を恐れるな!」
王国の哲学は、「不器用さも、愛嬌と勇気があれば、最高の富を生む」という、ユーモラスな真理へと変わった。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。「不器用さ」という、人生の欠点も、愛という名の魔法で、最高のユーモアと幸運へと変えられることを、証明したのだった。




