第二百二十五話「王城の大きな麻袋と、姫殿下の『好奇心集合体』」
その日の午後、王城の裏庭には、穀物やハーブの運搬に使われる、巨大で、厚い麻袋が、山積みにされていた。その麻袋は、誰の目にも単なる「運搬道具」としてしか映っていなかった。
しかし、シャルロッテ姫殿下は、その麻袋の山を見て、強烈なインスピレーションを得た。ピーンと来てしまったのだ!
「わあ! モフモフ! この袋、誰かに入ってほしいって、言ってるよ!」
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シャルロッテ姫殿下は、さっそく、王城の最も好奇心旺盛な人々を巻き込んだ。
フリードリヒ王子は「袋の中で、騎士としての新しい訓練ができるぞ!」という、単純な動機。
マリアンネ王女は「袋の中の空気の流体力学を研究してみるのもいいかもしれないわ」という、科学的な動機。
アルベルト王子「王族として、国民と同じ環境を体験せねば……民草はこの麻袋とやらを常用しているのだろう?」という、公的な動機。
そして、シャルロッテ姫殿下は、モフモフと共に、その巨大な麻袋の一つに、全員で入ることを提案した。彼女は空間魔法を駆使して麻袋の中の空間を拡大したのだ。
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麻袋の中は、真っ暗で、土とハーブの匂いがする、奇妙な密室だった。
シャルロッテは、闇属性魔法を応用した。彼女の魔法は、袋の中の闇を、「誰もが、自分の本音を話せる、安全な空間」へと変貌させた。
「ね、みんな。ここはね、誰が誰だか、わからない場所だよ。だから、面白いことをしよう!」
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シャルロッテ姫殿下は、袋の中で、「王族の秘密の質問」という名の、ユーモラスなゲームを始めた。
「ね、お兄様たち。『もし、一日だけ、モフモフの体になったら、何をする?』」
アルベルト王子の答え:「庭園で、一番静かな場所を探し、丸くなって、政治の論文を書くかな」
フリードリヒ王子の答え:「城下町のパン屋に走り、焼きたてのパンを、優雅に全部盗んでくる!」
マリアンネ王女の答え:「シャルロッテの魔力の波動を、直接毛皮で解析しようかしら」
イザベラ王女の答え:「モフモフの柔らかい毛並みを堪能するとしようかしら」
真っ暗な袋の中は、兄姉たちの純粋な、しかし滑稽な本音で満たされ、袋全体が、ユーモラスな笑いの振動で揺れ始めた。
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その振動が、王城の規律を支配する執事オスカーに感知された。
「いかん! 王族が、密室で、何をされているのですか!」
オスカーが麻袋の前に到着したとき、麻袋は、ユーモラスな笑いの力によって、風船のように、大きく膨らんでいた。
オスカーが恐る恐る麻袋を開けると、そこにいたのは、笑いすぎて涙と汗でぐしょぐしょになった王族と、幸せそうに眠るモフモフだった。
「あ、アルベルト王子! 一体、何を!」
アルベルト王子は、涙を拭い、笑いながら言った。
「オスカー。これは、『究極の自己開示』という、新しい訓練だ。人間は、闇とユーモアの中でこそ、真の協調性を見つけるものだ」
シャルロッテ姫殿下は、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、みんなで秘密を教え合って、笑い合うのが、一番可愛いでしょう?」
姫殿下の純粋な好奇心は、王城の規律を、ユーモアと愛という、新しい協調性の法則で、優しく解体したのだった。
 




