第二百二十一話「王立研究所の検査と、姫殿下の『愛の光の診断』」
その日の午後、王立研究所の検査室は、厳粛な空気に包まれていた。フリードリヒ王子が、訓練の効率を上げるため、「体の微細な疲労度を数値化する」という、最新の魔導検査を受けていた。
検査結果が出たが、担当の科学者の顔は、困惑していた。「おかしい……。数値上は、彼の生命力魔力レベルは最高だが、体の熱量が極めて異常に高い。これは、科学の常識では説明できません!」
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シャルロッテは、モフモフを抱き、その混乱を観察していた。彼女の目には、兄の体が、「愛と献身のエネルギー」で充満しすぎているために、過熱していることが見えていた。
「ねえ、お兄さんたち。難しい顔をして、何してるの?」
科学者は、シャルロッテに、検査結果のグラフを見せた。確かにフリードリヒの体は、規格外の熱エネルギーを示していた。
「姫殿下。彼の体は『燃え尽きる寸前』だと、論理は示しています。大変危険な状態です。しかし、彼は『疲れていない』と言い張る。我々の論理では、彼の病状を診断できません」
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シャルロッテ姫殿下は、科学者の論理と、兄の純粋な気持ちのミスマッチを、すぐに悟った。
「うーん、検査なんて、いらないよ!」
シャルロッテ姫殿下は、フリードリヒ王子の「体の熱」を、「愛の熱」に、頭の中で変換した。
彼女は、兄の燃えるように赤いグラフを指さし、にっこり微笑んだ。
「ねえ、お兄さん。この赤い数値はね、『お兄さんが、世界中のすべてのモフモフを抱きしめた』後の数値だよ!こんなに温かい愛の熱なのに、なんで病気なの?」
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シャルロッテ姫殿下は、科学者の論理を、「可愛い感覚の論理」で覆した。
「兄様はね、『体が燃えている』んじゃないの。『愛が溢れすぎて、光になった』のよ!だからね、普通の病気じゃなくて、いわば『愛情過多病』なの!」
シャルロッテ姫殿下は、兄の「燃えるような熱」を鎮めるため、モフモフを兄の腕に押しつけた。モフモフの「究極のふわふわ」は、兄の過剰な愛の熱を、優しく、心地よい温かさへと変換させた。
フリードリヒ王子は、妹の愛らしい診断に、心が軽くなった。彼の「熱」は、否定すべきものではなく、「妹への献身という、最高の勲章」へと変わったのだ。
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マリアンネ王女は、その光景を記録し、興奮気味に語った。
「これは、感情の優位性を証明する、素晴らしいデータだわ! 科学者が『危険な熱』と診断したものを、シャルロッテは『過剰なまでに豊かな愛』として定義し、その存在そのものを肯定したのよ!」
シャルロッテ姫殿下は、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、怖い病名より、『愛情過多病』のほうが、ずっと可愛いもん!」
王族は、科学とユーモア、そして純粋な愛が、人間の苦痛を和らげる、最も優れた治療法であることを再認識したのだった。




