第二百十四話「王城のパンと、姫殿下の『奇抜な形の美食学』」
その日の午後、王城の厨房は、小さな困惑に包まれていた。パン職人……エマの弟カール……が、新作のパンを開発しようとしていたが、焼けたパンは、全て、奇妙な、いびつな形になってしまったのだ。
焼けたパンは、靴の形、帽子の形、モフモフの形など、食べるにはユーモラスだが、「パンの常識」からは逸脱した、極めて独創的なものばかりだった。
「姫殿下。これは、失敗作です。とてもお客様にお出しできません」と、カールは、申し訳なさそうに言った。
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シャルロッテ姫殿下は、モフモフを抱き、そのいびつなパンを見て、目を輝かせた。
「わあ! カール、すごい! これは、失敗作じゃないよ!*『夢のパン』だよ!」
シャルロッテ姫殿下の「可愛い」の基準は、常に、「常識からの逸脱」と「純粋な創造性」にあった。
彼女は、その奇抜な形のパンに、「新しい価値」を与えることを決意した。
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シャルロッテ姫殿下は、そのパンを、午後のティーパーティーのメインディッシュとして、王族と貴族たちのテーブルに並べた。
イザベラ王女は、帽子の形のパンを見て、優雅に微笑んだ。
「まあ、斬新だわ。これは、『被るパン』という、新しいファッションね!」
フリードリヒ王子は、靴の形のパンを見て、大笑いした。
「ハッハッハ! これは、『冒険に出るための、勇気のパン』だ! 食べたら、足が速くなりそうだぞ!」
マリアンネ王女は、モフモフの形のパンを手に取り、解析魔法をかけた。
「形が複雑なほど、熱伝導と風味の保持が優れているわ! これは、機能的な美しさよ!」
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誰もが、そのパンを「食べるもの」としてだけでなく、「遊び、想像を楽しむもの」として捉え始めた。パンは、食卓に、ユーモアと、創造的な会話をもたらした。
その光景を見ていた、カールは、涙ぐんだ。自分の「失敗作」が、王族の創造性を刺激する「宝物」として受け入れられたのだ。
シャルロッテ姫殿下は、カールに、にっこり微笑んだ。
「ね、カール。パンはね、真面目な形じゃなくても、いいんだよ。食べる人の心が、楽しくなるのが、一番美味しいの!」
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アルベルト王子は、妹の純粋な哲学に感銘を受けた。
「シャルロッテは、『価値』とは、『常識』ではなく、『創造性と、それを受け入れる心』にあると教えてくれたのだな」
その日以来、王城のパン屋では、奇抜で、ユーモラスな形のパンが、新しい伝統となり、城下町にも広まっていった。
姫殿下の純粋な創造性は、「多様な形こそが、最も美味しい」という、新しい美食学をもたらしたのだった。




