第二百十三話「居室の回転と、王城全体を揺らす『愛の遠心力』」
その日の午後、薔薇の塔の居室は、奇妙な静寂に包まれていた。シャルロッテ姫殿下は、お気に入りの円形の居室の中で、モフモフを抱き、ただひたすらに「その場で、可愛らしく、くるくると回転する」という遊びに夢中になっていた。
「ねえ、モフモフ。まわるって、楽しいよ!」
その単純な回転は、シャルロッテ姫殿下の純粋な幸福感を、遠心力に乗せて、王城全体へと無自覚に放出し始めた。
◆
アルベルト王子は、執務室で、複雑な貿易協定の書類を前に集中していた。しかし、彼の集中は、突如として破られた。書類上のすべての文字が、まるで小さなコマのように、微細に回転し始めたのだ。
「おかしいぞ! 論理が、論理が定着しない! 世界が、ユーモラスな運動エネルギーで満たされている! これはいったい……!?」
アルベルト王子は、原因が妹の「純粋な回転」による、魔力的な遠心力であることを察し、頭を抱えた。
◆
フリードリヒ王子は、訓練場で、真面目に剣の型を練習していた。しかし、彼の体は、突如として、回転の衝動に駆られた。彼は、剣を収め、その場で、力強く、しかし優雅な「バレエのような回転」を始めた。
「うおおお! 体が勝手に回る! これは、純粋な生命の衝動だ! 止まらない! 止まらないぞ!?」
彼の周りの騎士たちも、連鎖的に回転を始め、訓練場は、巨大な、ユーモラスな集団ダンスの場と化した。
◆
エレオノーラ王妃は、この騒動を、テラスから優雅に見ていた。彼女の周りでも、空気中の光の粒子が、円を描いて回っていた。
「まあ、シャルロッテ。あなたの遊びの力は、本当に、いつも世界を動かしてしまうのね」
王妃は、ハーブティーを飲みながら、自らの銀色の巻き髪を、指先で、優雅に、ゆっくりと回転させた。それは、妹の遊びを、最も優雅な形で、受け入れたという、母の愛の表現だった。
◆
シャルロッテ姫殿下は、回転を止め、満足げな笑顔になった。彼女は、自分の遊びが、王城全体に、「ユーモア」と「生命の躍動」という、新しい法則をもたらしたことを知っていた。
「ねえ、モフモフ。まわるって、みんなを笑顔にする、最高の魔法なんだよ!」
姫殿下の純粋な遊び心は、王城の規律を破るどころか、「生きる喜び」という、新たな生命の活力を、王族と王城全体に満たしたのだった。




