第二百四話「王立研究所の帽子と、姫殿下の『好奇心実験』」
その日の午後、王立研究所は、厳粛な雰囲気に包まれていた。マリアンネ王女が、魔導具の極秘実験を行うため、外部の人間を一切シャットアウトしていた。
しかし、シャルロッテ姫殿下は、実験棟の窓から、マリアンネ王女が被っている、丸くて、赤い、奇妙な帽子に、強烈な興味を抱いた。その帽子は、実験中の魔力を安定させるための特殊な魔導具だった。
「ねえ、モフモフ。あの帽子、すごく楽しそうな匂いがしない?」
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シャルロッテ姫殿下は、実験棟に忍び込んだ。彼女は、マリアンネ王女に気づかれないよう、背後から、そっと帽子に手を伸ばし、それを奪い取った。
帽子を奪われたマリアンネ王女は、魔力の制御を失い、実験室全体が、虹色の光と、奇妙な香りのする煙に包まれた。
シャルロッテ姫殿下は、帽子を被ると、無邪気な好奇心に駆られ、研究所の廊下を走り出した。彼女は、通り過ぎる魔導具に、帽子から溢れる制御不能な虹色の魔力を、次々と浴びせた。
古い魔導時計に魔力が触れると、時計は時間を表示するのをやめ、「マカロンを食べる速さ」を表示し始めた。
魔導書に魔力が触れると、書物に書かれた文字が、「全部、可愛い絵文字」に変わり始めた。
肖像画に魔力が触れると、描かれた人物の顔が、ユーモラスな、大きな笑顔へと変わった。
研究所は、一瞬で、「無邪気な混乱」という名の、ユーモラスな騒動の舞台と化し、研究員たちは顔面蒼白になった。
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マリアンネ王女は、帽子を探し回るうちに、廊下で立ち尽くした。目の前には、ユーモラスな笑顔の肖像画と、顔中にインクをつけたモフモフを抱き、満足げに笑っているシャルロッテ姫殿下がいた。
「シャルロッテ!」
マリアンネ王女は、妹の名を呼び、強い口調で言った。
「あなたという人は!どれほどの迷惑をかけたか分かっているの!? この帽子は、単なる遊び道具ではないのよ! まあまあ肖像画の顔をこんなにしてしまって!」
マリアンネは、妹の無秩序な行動に、心底腹を立てていた。
しかし、シャルロッテは、叱られているにもかかわらず、全く悪びれる様子がない。彼女は、むしろ、自分の行為の成果を、姉に見てもらいたかった。
「でもね、お姉様! この肖像画のおじい様、本当は、こんな顔がしたかったんだよ! 真面目な顔より、こっちのほうが、断然可愛いでしょう?」
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その言葉と、シャルの純粋な笑顔を見た瞬間、マリアンネ王女の怒りの炎は、フッと消えてしまった。彼女は、妹の無邪気な行動が、「常識」という名の、硬い壁を打ち破り、「遊び心」という、知性の新しい法則を生み出していることを理解した。
「やれやれ……。この肖像画の修復は、知的な挑戦として受け入れるしかないようだわね」
マリアンネ王女は、そう呟くと、妹を抱きしめ、帽子を取り返した。彼女の怒りは、妹の「可愛い」という絶対的な哲学の前では、かくも無力だったのだ。
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その様子を、ルードヴィヒ国王とエレオノーラ王妃は、テラスから温かく見守っていた。
「エレオノーラ。あの娘の好奇心は、止められないな」と、国王は笑った。
「ええ、あなた。あの子は、常識を壊すことで、新しい愛の法則を生み出すのよ。私たちがすべきことは、ただ、その遊びが、あの子の心を傷つけないよう、温かく見守ることだけです」
シャルロッテ姫殿下の無邪気な好奇心と、それを受け入れる王家の愛が、王立研究所の混乱を、新たな教訓と、ユーモラスな思い出に変えたのだった。




