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第二十話「銀の薔薇が色褪せる謎と、紋章の本当の意味」

 王城全体に、不穏な空気が漂っていた。


 なぜならエルデンベルク王家の紋章、銀の薔薇と翠の葉が、城の複数の場所で、急速に色褪せるという怪現象が発生していたからだ。特に、玉座の間へと続く廊下の大きな紋章は、銀色がくすみ、翠の葉はまるで枯れたように茶色くなっていた。


 第一王子アルベルトは、紋章職人とマリアンネを呼び出し、深刻な顔で尋ねた。


「これはどういうことだ。王家の威信に関わる問題だぞ。紋章職人、原因はなんだ」


「恐れながら、王子殿下。使用した染料は最高級のもので、これほどの速さで色褪せることはあり得ません。何らかの呪いや、魔力的な干渉としか考えられません」


 マリアンネも、分析魔法を試みるが、明確な悪意のある魔力の痕跡は見つからず、頭を悩ませていた。


「不思議ね。色褪せているのは間違いないけど、紋章そのものに魔法的な損傷はないわ」



 シャルロッテは、兄たちの深刻な様子を見て、心配になった。モフモフを抱いて、色褪せた紋章の前に立つ。


「うーん……色が薄くなってるだけだね」


 シャルロッテは、紋章の表面にそっと触れた。すると、指先にわずかにベタつくような感触と、微かに甘い香りが残った。彼女は、その感触と香りが、マリアンネが研究室で使っていた「古代の染料の特性」に似ていることに気づいた。


「ねえ、お姉様。これって、ただの色が抜けたんじゃなくて、溶け出してるんじゃないかな?」


 シャルロッテの鋭い指摘に、マリアンネは驚き、すぐに染料の残留物を採取して分析した。


「すごいわ、シャル! これは、単なる染料じゃない。水に非常に溶けやすい、古代に使われていた特殊な顔料の痕跡よ!」


 二人は、すぐに初代国王エーリヒ1世の古い記録を調べた。すると、図書館で見つけた日記(第十話参照)の隅に、一枚の設計図が挟まれていた。そこには、紋章の染料に関する極秘の記述があった。


『紋章の「銀」は、より鮮やかに見せるため、特殊な顔料を使用する。ただし、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そして、その顔料は、初代国王が自身の「可愛いもの好き」を隠すため、紋章の見た目の華やかさにこだわって極秘に使用したものだったと推測された。



 原因は判明した。

 誰かが意図せず、紋章の近くで強力な水属性魔法を使い続けているのだ。


 マリアンネが、紋章の近くの地下の水道管を辿ると、紋章の真下を通る治癒魔法士訓練所の水道管に、異常な魔力の痕跡を発見した。犯人は、心優しく、毎日熱心に治癒魔法の訓練をしている、若手の治癒士だった。彼は、水属性の治癒魔法を大量に使い、その余剰魔力が水道管を通じて紋章に影響を与えていたのだ。


 アルベルトは、その治癒士を呼び出し、厳罰に処すことを検討した。


「紋章を汚した罪は重い。彼の魔力制御の甘さが原因だ」


 しかし、シャルロッテは、アルベルトの腕をそっと引いた。


「アルベルト兄様、だめだよ! あの人は、一生懸命、みんなを治そうとしていただけで、悪意なんてないよ」


 シャルロッテは、アルベルトに、初代国王の残したメッセージを解釈して伝えた。


「ねえ、銀の薔薇が色褪せたのは、外見(銀の薔薇=王家の権威)よりも、心の翠の葉(=民の幸せ、治癒士の優しさ)を大切にしなさいっていう、()()()()()()()()()()()()()()()()! だから、あの人を責めたら、初代国王様のメッセージに反することになっちゃう!」


 アルベルトは、妹の純粋な洞察力に、再び心から感服した。


「……そうか。硬い紋章の裏に、そんなにも温かい真実が隠されていたんだな」



 シャルロッテは、治癒士を責めることなく、優しく問題の解決に乗り出した。


 彼女は、マリアンネに協力してもらい、水属性魔法の応用で、地下水道管を通る水の流れに、治癒士の魔力の波長を打ち消す逆波長の魔法をかける「紋章守りの結界」を考案し、設置した。これにより、水属性の魔力は、紋章に届く前に無害化される。


 そして、紋章職人には、初代国王が使用した「水に溶けやすい染料」ではなく、現代の安定した染料を使うよう助言し、紋章を修復させた。


 紋章の色褪せは止まり、若手治癒士も誰にも責められることなく、治癒の道を続けることができた。


 シャルロッテは、修復された紋章を見上げながら、にっこり微笑んだ。


「紋章も、綺麗になったね! これで、初代国王様も安心だね」


 アルベルトは、優しく妹を抱きしめた。硬い王家のシンボルの中に隠された、初代国王と、妹の「可愛い心遣い」が、この国の威信と優しさを守ったのだと、彼は改めて確信した。

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