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第十八話「酷暑の夏と、シャルロッテの魔法製氷機」

 エルデンベルク王国を、建国以来の記録的な猛暑が襲った。空は青く澄み切っているが、大地からは熱気が立ち上り、城の石壁さえも熱を帯びていた。


 王城の温度調整魔法は稼働していたが、城全体を冷やすには膨大な魔力が必要で、国費を圧迫するほどだった。市民はもちろん、王族でさえ熱中症に苦しむ者が増えていた。


 特に、第二王子フリードリヒは、騎士訓練場で倒れてしまった。


「くそっ、この暑さでは、剣もまともに振れん!」


 フリードリヒは、冷やしたタオルを額に当てながら悔しがった。騎士団の任務である魔物退治や災害救助も、この暑さでは命懸けだ。



 国王ルードヴィヒ3世は、緊急の家族会議を開いた。


「この酷暑は異常だ。国庫の魔力消費も限界に近い。よって、王族全員を避暑地の山荘へ移動させ、公務は一時的に遠隔魔法で行うことを検討する」


 エレオノーラ王妃も、国民の健康を案じて同意した。


 しかし、シャルロッテは、その提案に反対した。


「パパ、だめだよ。みんなが暑くて苦しんでいるのに、私たちだけ、涼しいところに逃げるのは、全然可愛くないよ!」


 ルードヴィヒは、愛娘の言葉に心を痛めた。


「だが、シャル。王族の健康維持も責務だ。それに、城全体を冷やすほどの魔力は……」


 シャルロッテは、前世の知識をフル回転させていた。この世界の冷却魔法は「空間全体の温度を下げる」という、極めて非効率的な方法をとっている。


「ねえ、パパ。違うよ! 空間全体を冷やすんじゃなくて、必要な場所だけを、ちょっとだけ冷たくすればいいんだよ!」


 彼女は、前世で学んだ「気化熱」と「冷却パイプ」の概念を、魔法で実現することを思いついた。



 シャルロッテは、マリアンネに協力してもらい、厨房の隅に小さな魔法実験場を設けた。


「お姉様、水属性魔法で、氷の粒を作って! できるだけ小さく、パウダーみたいに!」


「パウダーアイス? 効率が悪そうだけど……」


 マリアンネは首を傾げながらも、妹の願いに応えた。


 シャルロッテは、マリアンネが作り出した微細な氷の粒に、今度は風属性魔法を強く当てた。


「風属性で、氷を乾燥させながら、一方向に思いっきり飛ばすの!」


 氷は、空気中で一気に昇華(気化)する際、周囲の熱を奪う。この「気化熱」の原理を、魔法で極限まで高めたのだ。結果、小さな製氷機から噴出された風は、周辺の空気をごく少量ではあるが、驚くほど効率的に冷やした。


「わあ! すごい! これなら、少量の魔力で、ピンポイントに冷たい風が作れるよ!」


 マリアンネは、その科学的応用力に驚愕した。


「まさか、水属性と風属性の組み合わせで、空間魔法を超える効率を出すなんて……! これは、魔法版の気化熱冷却装置だわ!」



 シャルロッテの「魔法製氷機(=簡易クーラー)」は、すぐに騎士訓練場に設置された。


 フリードリヒは、その冷却効果に歓喜した。


「涼しい! これなら訓練ができる! シャル、お前は本当に国の救世主だ!」


 さらに、シャルロッテはフリードリヒのために、特別なアイデアを実行した。


「フリードリヒ兄様は、訓練場の地下に、水属性の冷却パイプを埋めよう! 地面の下からゆっくり冷やせば、訓練場全体が自然と涼しくなるよ!」


 騎士団総出で、訓練場の地下に水属性魔法を帯びたパイプが埋設された。その効果は絶大で、訓練場はまるで春のような快適さになった。



 国王ルードヴィヒは、避暑地への移動を中止した。


「我が国の王族は、国民と共にこの試練に立ち向かう。そして、シャルロッテの発明したこの冷却技術を、国家事業として、まず城下町の病院や孤児院に普及させる!」


 国王は、娘の発明に誇りを感じ、その技術を「民の幸福」のために活用することを即座に決定した。


 シャルロッテは、クーラーの発明よりも、国王の決定が嬉しかった。


「やった! これで、みんなも涼しくなるね!」


 そして同時に、彼女にとって、最大の女の子の(※主にシャルの)幸せも実現した。


 低コストで大量の氷が手に入ったため、大食堂には、エマが特製のシロップをかけたふわふわの山盛りかき氷が並んだのだ。


「かき氷! ピンク色で可愛い~!」


 シャルロッテは、モフモフと一緒に、冷たいかき氷を頬張りながら、にっこり微笑んだ。


 猛暑の中でも、大切な家族と、愛するモフモフと、可愛いものに囲まれて、誰かの役に立てる。それが、シャルロッテの最高の幸せだった。

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