第百六十一話「冷たい病室と、王女の『体全体で笑う魔法』」
その日の午後、王城の医療棟は、重く冷たい空気に包まれていた。一人の老貴族が、長引く病に苦しみ、現代の治癒魔法をいくら施しても、一向に回復の兆しが見えなかった。
治癒士たちは、病の原因を特定し、排除しようと試みていたが、老貴族は、「病は、私自身の一部ではあるが、私を常に責め続けている」という、深い自己否定の念に囚われていた。彼の精神は、病を「敵」と見なし、戦い疲れていた。
◆
シャルロッテは、モフモフを抱き、その病室を訪れた。彼女は、病の原因が、「病と戦いすぎていること」、そして、**「生命全体の喜びを忘れていること」**にあると、感覚的に察した。
「ねえ、おじい様。病気はね、悪い子じゃないよ」
老貴族は、驚いてシャルロッテを見た。
「姫殿下。病は、私の命を奪おうとしている敵ですぞ」
「ううん、違うよ!」
◆
シャルロッテは、老貴族の手を取り、光属性と風属性の魔法を融合させた。
彼女の魔法は、老貴族の体全体に、「小さな風の銀河」のような、微細な光の波動を作り出した。その波動は、病を攻撃するのではなく、病の場所も含めた、体全体のすべての細胞に、「あなたたちは、皆、宇宙の一部で、愛されている」という、無条件の肯定のメッセージを送った。
「病気はね、『もっと、体全体で、笑って!』って、おじい様に教えてくれている、先生なんだよ!」
◆
そして、シャルロッテは、老貴族に、「体全体で笑う」という、ユーモラスな「治療法」を実践させた。
「さあ、おじい様。体全体で、『私は、生きてるのが、楽しい!』って、笑ってみて!」
老貴族は、戸惑いながらも、妹の純粋な願いに応え、顔だけでなく、手足や、背中の筋肉、そして心の底から、「生への喜び」を表現するように、笑おうと試みた。
すると彼の心の中にあった、病への「敵意」が徐々に消え始めた。病は、もはや敵ではなく、「自分自身を大切にすること」を教えてくれる、友人となったのだ。
◆
マリアンネ王女は、病室の外部から、その様子を解析装置で観察していた。彼女は、老貴族の体内の魔力パターンが、「病を排除する」のではなく、「病も含めた、体全体と調和する」という、劇的な変化を示していることに、驚愕した。
「これは……。病を否定しない、全体性の治癒だわ!」
老貴族は、その日以来、急速に回復した。彼は、病を克服したのではなく、病を「自己の歴史」として受け入れ、「生命全体の喜び」という、最も高貴な治療法を見つけたのだ。
シャルロッテは、モフモフを抱き、にっこり微笑んだ。
「えへへ。だって、身体全体で割れっている方が、みんな、一番可愛いんだもん!」
シャルロッテの純粋な愛の哲学は、冷たい医療の論理に、「治癒とは、自己の存在の無条件の肯定にある*という、温かい真理をもたらしたのだった。




