第百四十八話「王子の夜の病室と、小さな光の『自己赦しの力』」
その日の深夜、第二王子フリードリヒは、極秘裏に王城の医療棟にいた。彼は、訓練で負った小さな怪我が、精神的な過労からくる免疫力の低下により、治癒魔法が効きにくい状態になっていた。彼は、「騎士としての不完全さ」を、誰にも知られたくないと、強く願っていた。
彼の病室は、薄暗く、彼自身が持つ「自己否定」の重い影に覆われていた。
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シャルロッテは、モフモフを抱き、兄の病室を訪れた。彼女は、フリードリヒの体よりも、彼を覆う「自己否定の影」という、精神的な苦痛が、治癒魔法を拒んでいることを感知していた。
「ねえ、フリードリヒ兄様。その病気はね、体じゃなくて、心が痛いのよ」
フリードリヒは、妹の鋭い指摘に、驚いた。
「シャル……私は、騎士として、完璧でなければならない。こんな小さな傷すら治せない私は……」
フリードリヒは、自分の「弱さ」を許すことができないという、最も深刻な病に侵されていた。
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シャルロッテは、兄の隣に座った。彼女は、兄を責めることも、励ますこともしなかった。
彼女は、兄の病室の、最も暗い隅に、闇属性魔法を応用した。その魔法は、驚くことに闇を払うのではなく、「部屋の闇を、そのままの濃さで、しかし、ごく穏やかに、美しく表現する」ことに使われた。
薄暗い病室の隅に、「絶望」を象徴するような、深い漆黒の闇の塊が、彫刻のように浮かび上がった。
「ね、兄様。これがね、兄様の悲しい気持ちだよ」
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そして、シャルロッテは、その闇の塊に、光属性の魔法を放った。しかし、光は、闇を打ち消すことはしなかった。代わりに、闇の塊の周囲に、温かく、柔らかい虹色の光の輪を創り出した。
「悲しい気持ちはね、消さなくてもいいのよ。ここにあるって、認めてあげるだけで、いいの」
シャルロッテは、フリードリヒの手を握った。
「兄様。不完全でいいんだよ。完璧じゃなくても、あなたは、私の、世界で一番強い兄様なの。だから、自分を赦してあげて」
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フリードリヒは、妹の魔法によって、自分の「自己否定の影」を直視し、それが、妹の愛によって、優しく肯定されているのを感じた。彼の心の重みが、一瞬で溶け去った。
その瞬間、彼の身体の傷は、治癒魔法が効き始めるように、劇的に回復した。病の原因は、魔力的な耐性菌ではなく、自己否定の精神的な呪縛だったのだ。
フリードリヒは、妹を抱きしめた。
「シャル……君は、私に、『生きる上での、最も大切な赦し』を与えてくれた」
シャルロッテの純粋な愛と聡明さは、人間の尊厳を脅かす「自己否定」の病を、優しく、そして根本的に治癒したのだった。




