第百四十六話「薔薇の棘と、王妃の『愛の持続時間』」
その日の午後、エレオノーラ王妃は、薔薇園で愛用のハサミを手に、咲き誇った深紅の薔薇を見つめていた。その薔薇は、激しい情熱と、鋭い棘を持っている。
王妃は、娘のシャルロッテが、その薔薇のそばに立っているのを見て、静かに微笑んだ。
「シャル。この薔薇は、なんて美しいのでしょう。でも、この強すぎる情熱は、長くは続かないのよ」
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シャルロッテは、その薔薇から放たれる、激しく、短命な魔力の波動を感じ取っていた。それは、まるで一瞬の幸福を追い求める中毒のような、不安定な輝きだった。
「ねえ、ママ。この薔薇はね、一瞬の夢の匂いがするよ」
王妃は、娘の言葉に、深く頷いた。彼女が語ろうとしていたのは、まさに、情熱的な愛の「持続時間」という、大人の真実だった。
「情熱は、人を燃え上がらせるけれど、その熱は、いつか必ず冷めるものよ。王族の婚姻も、情熱だけでは、国を支えられない。それが、大人の知恵です」
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シャルロッテは、その情熱的な薔薇を摘むことはせず、その隣に咲く、小さな、しかし根強く大地に張った、地味な白薔薇に目を向けた。
シャルロッテは、土属性魔法を応用し、白い薔薇の根に、「永遠の安らぎ」という、温かい魔力を流し込んだ。
「ママ。愛はね、熱い情熱じゃなくて、この土の温かさだよ。熱いと、すぐに冷めちゃうけど、土はね、ずっと、同じ温度で、支えてくれるの」
そして、シャルロッテは、光属性魔法を応用し、白い薔薇の花びらに、ごく微細な、七色の虹の光を纏わせた。
「この白薔薇はね、『情熱が冷めた後の愛』の匂いがするの。静かで、深くて、そして絶対に裏切らないよ」
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エレオノーラ王妃は、娘の行為と、その言葉の深さに、心を打たれた。彼女が、娘に教えようとしていた「愛の知恵」は、娘の純粋な感性によって、「安定した愛着は、情熱の後の悲しみではなく、愛の成熟である」という、最も美しい結論に達していた。
「シャル……。あなたの言う通りね。私たちの愛は、燃え尽きることのない、根を張った穏やかな光よ」
王妃は、娘の純粋な哲学に感謝した。情熱的な愛が脳内物質の中毒的な反応であっても、その後の安定した愛着こそが、長期的な絆と、王国の安定を支える真のメカニズムなのだ。
シャルロッテは、白い薔薇を、王妃の胸元にそっと飾った。
「えへへ。ママの愛はね、永遠に続くから、一番可愛いの!」
その日の薔薇園は、情熱的な赤い光から、静かで、しかし深い愛に満ちた、温かい白い光へと、その色を変えたのだった。




