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第十四話「エマの秘密と、シャルロッテのロマンス応援魔法」

 エルデンベルク王国は、年に一度の春の花祭りの準備で、城下町も王城も浮き足立っていた。


 シャルロッテは、花祭りで着る新しいドレスを試着していた。お揃いで作ってもらった淡い水色のドレスと、パステルピンクのドレス。どちらも可愛くて、一つに決められない。


「エマ、どっちが可愛いと思う?」


「どちらも、シャル様の可愛らしさを引き立てる、最高の出来ですわ」


 専属メイドのエマは、いつものように優しく微笑んだが、その瞳はどこか上の空だった。最近のエマは、以前にも増して手が震え、時折窓の外をそわそわと見つめている。


「エマ、どうかしたの?」


 シャルロッテが尋ねると、エマは慌ててごまかした。


「い、いえ、なんでもございません! 花祭りが近づいて、城下町が賑わっているのを見て、つい……」


 シャルロッテは知っていた。エマには、城下町のパン屋で働く、想いを寄せる青年がいることを。そして、エマは極度の内気な性格のため、その想いを伝えられずにいるのだ。



 その日の午後、シャルロッテはイザベラ王女の部屋を訪れた。


「イザベラお姉様! エマを助けてあげて!」


 シャルロッテは、エマの秘密の恋と、花祭りでその想い人が別の女性と親しげに話しているのを目撃してショックを受けているエマの様子を、熱心に説明した。


「まあ、エマが恋? 素敵だわ!」


 イザベラは目を輝かせた。


「でもね、シャル。エマは内気すぎるの。想い人に、自分の魅力を伝えられていないだけだわ」


「そうよ! だから、お姉様! エマを、世界で一番可愛い女の子にしてあげて!」


 イザベラは、妹の純粋な願いに心を動かされた。彼女のファッションへの情熱が、メイドの恋のために燃え上がった。


「わかったわ、シャル。私とあなたの力で、エマを社交界の華に負けないくらい輝かせてあげる!」



 翌日、エマには内緒で、「エマ改造計画」が始まった。


 イザベラは、エマの体型と控えめな性格に合う、優雅だが動きやすいデザインのドレスを仕立て屋に依頼。色も、エマの栗色の髪と瞳に映える、優しいクリーム色を選んだ。


 そして、花祭りの前夜。シャルロッテとエマは、薔薇の塔で最後の準備に取り掛かった。


「エマ、今日のお洋服は、わたしのお気に入りのお揃いだよ! 似合うかな?」


 シャルロッテは、先に仕立て上がっていた淡い水色のドレスに着替え、エマにクリーム色のドレスを渡した。


「まあ、可愛い……ですが、私にはもったいなくて」


「いいの! エマは世界で一番可愛いメイドさんなんだから!」


 ドレスに着替えたエマは、鏡の前で戸惑った。いつもの地味なメイド服とは違い、レースの襟元と、ふわりと広がるスカートが、彼女の秘められた美しさを引き出していた。


 シャルロッテは、鏡に向かうエマの背後に回り込んだ。


「ね、エマ。もっともっと可愛くなる魔法をかけるね」


 シャルロッテは、風属性魔法をエマの髪に優しくかけた。風が髪の毛一本一本を立ち上がらせ、栗色の髪に柔らかく、ふわっとしたウェーブを加える。


 さらに、シャルロッテは、エマの髪に飾る小さな銀の薔薇のブローチに、光属性魔法を込めた。


「これはね、エマを応援する魔法だよ! 自信を持って!」


 ブローチから、エマの周りを包むように、ほんのりとした、温かい光が溢れ出した。


 エマは、自分の変化に驚き、そして、シャルロッテの純粋な応援の気持ちに、胸が熱くなった。


「シャル様……ありがとうございます」



 春の花祭り当日。城下町は大勢の人で賑わっていた。


 シャルロッテとエマは、お揃い(※色違い)のドレス姿で、祭りの会場へと向かった。シャルロッテの周りからは、虹色の魔力がきらめき、エマの周りからは、優しいクリーム色の光が溢れている。


 エマの想い人である青年フランツは、パンの屋台で忙しく働いていたが、二人の姿を見て、思わず手を止めた。


「なんて……美しいんだ」


 フランツは、輝くエマを見て、今までずっと見慣れていたはずの彼女の美しさに、初めて気づいたようだった。


 シャルロッテは、チャンスを逃さなかった。彼女は、モフモフを抱いてフランツの屋台に近づいた。


「フランツさん、こんにちは! エマが作った、この特製クッキー、とっても美味しいから、疲れた時に食べてね!」


 シャルロッテは、エマが作ったクッキーを渡し、小さな声で付け加えた。


「エマね、いつもフランツさんのことを考えて、お菓子を作ってるんだよ」


 フランツの顔が、一気に赤くなった。彼は、エマが自分に好意を寄せていることに、初めて気づいたのだ。


 夜になり、祭りのクライマックスであるダンスの時間になった。


 フランツは、意を決してエマの元へと歩み寄った。


「エマさん。もしよろしければ、私と、一曲踊っていただけませんか」


 エマは、顔を赤くしながらも、勇気を出して手を差し出した。彼女の周りを包む応援の光が、一層強く輝いた。


「はい……喜んで」



 二人がダンスを踊る姿を、シャルロッテはイザベラと一緒に、嬉しそうに見つめていた。


「やったね、お姉様! エマが幸せそうだよ!」


「ええ、シャル。あなたの魔法は、本当にロマンチックね」


 その夜、薔薇の塔に戻ったエマは、シャルロッテを強く抱きしめた。


「シャル様、本当に、本当にありがとうございます! こんなに素敵な日は初めてです!」


「えへへ、エマが幸せなら、わたしも幸せだよ!」


 シャルロッテは、大好きな可愛いドレスと、自分の魔法が、大好きなエマの幸せを運んだことに、心からの喜びを感じた。女の子の幸せとは、自分だけでなく、大切な人の幸せを応援することでもあるのだと。

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