表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/81

第十二話「モフモフのぬいぐるみと、夜のヒミツのお茶会」

 夜の帳が降りた薔薇の塔。王城の喧騒が静まり返る頃、シャルロッテの居室の秘密の小部屋では、「夜のヒミツのお茶会」の準備が始まっていた。


 天蓋付きベッドの横には、小さなテーブルがしつらえられ、そこには厳選されたぬいぐるみたちが整列している。虹色ユニコーン、手作りのテディベア、そして、ふわふわの姿に戻ったモフモフが、少し緊張した面持ちで一番大きな椅子に座っている。


「エマ、みんなのお茶の準備はいい?」


「はい、シャル様。ホットチョコレートと、小さなクッキーをご用意しました」


 シャルロッテの専属メイドのエマは、この「ぬいぐるみたちのお茶会」を、誰にも言えない秘密として守っている。彼女は、これがシャルロッテの、プレッシャーのない自己表現の場だと知っていた。


「よーし、お茶会、スタート!」


 シャルロッテは、一人一人のぬいぐるみに声をかけ始める。それは、彼女が前世で抑えつけていた感情や、この世界で無意識に感じている兄姉たちの悩みを投影した「お悩み相談」ごっこだった。



 まず、虹色ユニコーンの番だ。シャルロッテは、その小さな声色を変えて話し始めた。


「……私の悩みはね、王家の紋章を背負っていることのプレッシャーよ。皆は私を完璧だと思っているけど、もし失敗したら、失望されるんじゃないかって」


 それは、第一王子アルベルトの悩みに酷似していた。

 シャルロッテは、真剣な顔でユニコーンに語りかける。


「ユニコーンさん、大丈夫だよ! 王族としての威厳? そんなの、ふわふわの毛並みを褒めてあげれば、みんな笑顔になるよ! プレッシャーはね、可愛いものに触れば、溶けて消えちゃうの!」


 次に、手作りのテディベアが悩みを打ち明ける。


「私の悩みは、どうしたらもっと可愛くなれるかってことよ。流行のドレスも着られないし、地味だってみんなに言われるの」


 それは、外交官として活躍するイザベラが、自身の華やかさの影で抱える、自己肯定感の悩みと似ている。


「テディベアさん、違うよ! 一番大切なのは、心の優しさだよ! それに、あなたが持っているその可愛いリボンは、誰にも真似できないよ! 自分らしくいることが、一番可愛いの!」



 そして、最後にモフモフの番がやってきた。モフモフは、シャルロッテの悩みを聞くかのように、ゴソゴソと動いたかと思うと、突然、岩石のような警戒状態に変身した。


「グルルル……(いつまた誰かを傷つけてしまうか、怖いんだ)」


 それは、モフモフ自身の不安であると同時に、シャルロッテの前世の「完璧でいなければならない」というプレッシャーの具現化でもあった。


 シャルロッテは、モフモフの硬い体に、そっと両手を回した。


「モフモフ、大丈夫だよ。あなたは、もう誰も傷つけない。だって、わたしが知っているモフモフは、世界で一番ふわふわで、優しい子だもん」


 シャルロッテは、得意の光属性魔法(治癒補助)を、モフモフの硬い体に流し込んだ。硬い岩の層が、パラパラと音を立てて剥がれ落ち、モフモフは、いつものふわふわの姿に戻った。そして、すぐにシャルロッテに抱きつき、安心しきったように喉を鳴らした。


「ミィ……(ありがとう)」


 シャルロッテは、モフモフの柔らかい毛皮に顔を埋めた。


「ほらね。悩みなんて、抱きしめれば、ふわふわになって消えちゃうんだよ!」



 エマは、扉の影から、その全てを見ていた。


 王位継承権第五位でプレッシャーフリーなはずの三女殿下が、実は兄姉たちの悩みや、前世のトラウマを「ごっこ遊び」という形で浄化している。その優しさと賢さに、エマは再び涙ぐんだ。


「シャル様は、本当に……天使だわ。ごっこ遊びですら、周りの人の心を守っていらっしゃる」


 シャルロッテは、ぬいぐるみたち全員に、癒やし魔法をかけ終えた。


「よーし、これで、みんなの悩みは解決! 明日からも、可愛く、楽しく過ごすんだよ!」


 お茶会を終え、ベッドに入ったシャルロッテは、モフモフを抱きしめた。


「やっぱり、可愛いものが一番の相談相手だね!」


 この秘密のお茶会は、シャルロッテにとって、女の子の幸せを最大限に満喫し、自分らしく生きるための、最も大切な日課だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ