第百話「月光の湯船と、三姉妹の『秘密の香り』」
その日の夜、王城の最上階にある、王族専用の浴室は、特別に準備されていた。大理石の広い湯船には、光属性魔法で温められた、ハーブと薔薇の花びらが浮かび、湯気は天井のドーム型の窓から差し込む月の光を優しく拡散し、幻想的な空間を作り出していた。
シャルロッテは、長女イザベラと、次女マリアンネと共に、優雅な湯浴みの時間を楽しむことになっていた。
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湯船に身を沈めたシャルロッテは、目を輝かせた。
「わあ! お姉様たち、まるで人魚のプリンセスみたいだよ!」
イザベラは、湯船の縁に寄りかかり、優雅な仕草で髪をかき上げた。
「ふふ。シャルにそう言われると、嬉しいわ。社交の場では、完璧なドレスで武装しているけれど、こうして素肌になると、一番心が安らぐの」
マリアンネは、湯船の中で、そっと湯に手をつけた。
「この湯の温度、神経を鎮静させるための特定の魔力波長を保っているわね。オスカーの気遣いかしら」
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湯浴みの中で、三姉妹の話題は、自然と「美の秘密」に移った。
イザベラは、シャルロッテの銀色の髪を撫でた。
「シャル。あなたの髪は、どうしてそんなに輝いているの? 王妃様の治癒魔法かしら」
シャルロッテは、秘密を打ち明けるように、声をひそめた。
「ううん。これはね、『可愛い』って、毎日たくさん自分に言う魔法だよ! そうするとね、髪も、『可愛くならなきゃ!』って、頑張ってくれるの!」
マリアンネは、その言葉を、研究者の視点で分析した。
「なるほど。自己肯定感の増大が、魔力生成器官の活性化を促し、毛髪の細胞分裂を促進している。これは、『美の自己暗示効果』として研究できるわ」
「もう、マリアンネ! 難しい理屈はなしよ!」と、イザベラはそう言って微苦笑した。
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イザベラは、湯船に浮かぶ薔薇の花びらを集め、シャルロッテの銀髪に、そっと散らした。
「シャル。あなたには、この優雅な美しさが一番似合うわ。でもね、私も、あなたから教わったわ。私の美しさも、豪華なドレスではなく、『自分を愛する心』にあるのね」
マリアンネは、妹の湯船に、そっと手を伸ばした。そして、湯船の底に沈む、ごく微細な泥の粒子を、水属性魔法で、静かに浄化した。
「私は、あなたのように美しいものは作れない。でも、私には、あなたを包む『水』を、最も清らかにする力があるわ。これが、私なりの、あなたへの愛よ」
シャルロッテは、二人の姉の、異なる形での愛情表現に、心から満たされた。
「お姉様たち、ありがとう! みんな、世界で一番優しくて可愛いお姉様だよ!」
三姉妹は、月光が満ちる湯船の中で、優雅な香りと、温かい愛情に包まれ、静かで、親密な時間を分かち合ったのだった。




