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第十話「図書館の古い謎と、初代国王の可愛いヒミツ」

 その日の午後、シャルロッテは第二王女マリアンネと共に、王城の巨大な図書館を訪れていた。蔵書十万冊以上を誇るこの図書館は、マリアンネにとって宝の山だが、シャルロッテにとっては「可愛い」を探す冒険の場だ。


「お姉様、この本、ぜんぜん可愛くないよ」


 シャルロッテが指さしたのは、王家の歴史を記した重厚な歴史書だった。その表紙には、建国の祖である初代国王エーリヒ1世の肖像画が描かれている。金色の王冠を被り、口を真一文字に結んだ、極めて厳格で知的な表情だ。


「仕方ないわ、シャル。エーリヒ1世は『賢王』として語り継がれているのよ。威厳と知性を重んじた方だったから」


「でもね、お姉様。わたし、思うんだ」


 シャルロッテは、モフモフを抱き上げ、肖像画の前に立った。


「こんなに賢くて、みんなを幸せにした国王様が、一度も笑わないなんて、可愛くないよ! きっと、何か秘密があるはず!」


 シャルロッテの鋭い指摘に、マリアンネはハッとした。確かに、歴代の王の中でも、エーリヒ1世の肖像画だけは、異様に表情が硬い。


「面白いわ、シャル。では、その『可愛くない』謎を、私たち姉妹で解き明かしましょう!」



 二人は、図書館の隅々を探し始めた。マリアンネは魔法理論の知識を活かし、古い巻物や、使われなくなった文献を丁寧に調べていく。シャルロッテは、「可愛いの匂い」を頼りに、古い棚の奥や、埃を被った箱の中を覗き込んだ。


「ここよ、シャル!」


 マリアンネが、古い棚の奥から、羊皮紙で包まれた小さな木箱を見つけ出した。表面には、エーリヒ1世が用いた紋章が刻まれている。


「すごい! 鍵がかかってるけど、これ、初代国王様の日記の写しじゃないかしら」


 マリアンネは、すぐに分析魔法と変化魔法を応用し、鍵の構造を解析。シャルロッテが、得意の土属性魔法で、鍵の形を少し変形させ、箱を開けた。


 中に入っていたのは、古びた羊皮紙の束、初代国王の直筆による日記の写しだった。


 日記を読み進めるマリアンネの顔は、驚きに満ちていった。


「『今日も、厳格な王妃に、私のフリル付きの寝間着が見つかりそうになった。危ない危ない。王たるもの、軽薄な趣味を持つべからず、と何度も言われているが、フリルは正義だ』……なんですって!?」


 シャルロッテは目を輝かせた。


「ほら! やっぱり! 王様も可愛いものが好きだったんだ!」


 さらに日記のページをめくると、一つのスケッチが現れた。それは、少し汚れた紙に描かれた、耳の長いウサギのぬいぐるみの絵だった。


「『夜な夜な、王妃に隠れてこっそり作っている。早く、ふわふわの毛皮を手に入れたいものだ』……」


「わあ、可愛い……」


 シャルロッテは、そのスケッチに描かれたウサギに、親近感を覚えた。



 しかし、その日記には、不可解な点があった。


「お姉様、このインク、何だか魔力の残り香がするよ?」


 シャルロッテの指摘に、マリアンネは再び分析魔法をかけた。


「間違いないわ、シャル。これは隠蔽魔法の痕跡よ。そして、この日記が置かれていた場所にも、かすかに結界魔法が残っている……」


 初代国王エーリヒ1世は、自分の日記に、「可愛いものが好き」という真実を隠すための魔法をかけていたのだ。王としての威厳と、個人の趣味との間で、彼は苦悩していたのだろう。


 二人の姉妹は、日記を持って、第一王子のアルベルトの元へ向かった。


 アルベルトは、初代国王を深く尊敬しているため、妹たちの「可愛すぎる発見」に戸惑うかと思われた。しかし、日記を読んだアルベルトは、静かに微笑んだ。


「そうか。エーリヒ1世は、これほどの知恵を使って、自分の『好き』を守っていたのか」


「兄様、怒らないの?」


「怒るわけがないだろう、シャル。王とは、時に威厳を示す必要がある。だが、その影で、人間らしい感情や趣味を大切にすることは、精神的な安定に繋がる。プレッシャーの中で、自分らしく生きようとした、賢王としての知恵と、優しさの証だ」


 アルベルトは、初代国王の偉大さを、歴史書にはない、人間的な側面から再認識した。



 シャルロッテは、初代国王の「可愛いヒミツ」を、みんなに伝えたいと思った。


 彼女は、初代国王のスケッチを基に、マリアンネに協力を仰いだ。


「お姉様! このウサギを、虹色に光るウサギにして、初代国王様に見せてあげたい!」


 マリアンネは、得意の変化魔法で、最高級のシルクをウサギの形に縫い上げた。シャルロッテは、そこに、自慢の虹色の魔力(光属性)を込めた。


 完成したのは、初代国王が夢見た、虹色にきらきらと光るウサギのぬいぐるみだった。


 その日の午後、シャルロッテとマリアンネ、アルベルトは、王城の歴史展示室にある初代国王の肖像画の足元に、その虹色のウサギのぬいぐるみをそっと飾った。


「初代国王様、よかったね。これで、もう隠さなくていいよ!」


 シャルロッテは、肖像画の硬い顔を見上げながら、にっこりと微笑んだ。その瞬間、虹色のウサギのぬいぐるみが、一層強くきらめいた。


 マリアンネは、シャルロッテの隣で、研究ノートに書き記した。


「魔法は、真実を隠すためにも使われるが、優しさをもって真実を光らせるためにも使われる。シャルロッテの魔法は、やはり究極の応用だ」


 シャルロッテは、「昔の人も、可愛いは正義って知ってたんだね!」と大満足。


 こうして、王家の歴史に、賢王エーリヒ1世の「可愛いもの好き」という、温かい真実がそっと追加されたのだった。

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