7…戦 臆病 闘
バゴーン!
ドアを蹴破る音で、オレは一気に目が覚めた。ミナトか……?
「おいクソ女、これはさすがに許さねぇーぞ!」
いくら叫んでも反応はない。無言のまま足音は近づいてくる。足音は部屋の前で止まり、ゆっくりとドアが開いた。そこに立っていたのは、見慣れない男だ。
「誰?」
オレが尋ねても、男はニコニコと笑うだけで答えない。少しの間見つめ合った後、男は口を開いた。
「君を殺しに来たよ^^」
「アハハ、ふーあーゆー?」
「^^」
男は笑いながらナイフを取り出し、オレに突きつけた。あ、これはマズいやつだ。
入口は塞がれている。ここは2階だが、窓から外に出るしかない。窓の外に出たものの、そこそこ高い。ニコニコ笑う男がゆっくりと近づいてくる。もう時間に余裕はない。飛び降りるか。
「痛ってぇ!」
着地は失敗したが、骨に異常はなさそうだ。とりあえず遠くを目指して走る。ニコニコ野郎はもう下に降りて、オレを追いかけてきている。
「やばい、あいつ早い!追いつかれる!」
スマホは家に忘れた。交番に逃げ込むしかないが、無理だ。ここから交番まで約2キロ。そこまで逃げ切れる気がしない。
「おーい、逃げるなよー。戦おうよー^^」
「バカ言うな!ナイフ捨てたら戦ってやるよ!」
「わかった^^」
「え?」と後ろを振り返ると、ナイフを振りかぶって遠くに投げたニコニコ野郎の姿が見えた。
「これで逃げるなよ?^^」
「知るかー!」
無視して走り続ける。もしかしたらナイフを2本持っているかもしれないしな。
ボンッ!
音がして、オレの頭すれすれに炎が飛んできた。なるほど、超能力者か。じゃあ説得できるな。
どうせ狙いは――。
「おい!オレを倒してもレベルは上がらないぜ。まだ能力使えるようになったばかりだからな!」
「ん?違うよ!僕は人を殺すのが好きなんだよ^^」
まあ、人間も多いし、たまには変わったやつもいるよな。
「ふぅー、逃げるか」
走り出そうとした瞬間、「戦場^^」という声とともに空間が広がる。
「おい、なんだこれ!壁みたいなのができてるじゃねぇか!」
壁を叩くが、びくともしない。コンクリートのような硬さで、ガラスのように外が透けて見える。
「さっ、始めよ?^^」
戦うか?いや、勝てないだろ。オレの能力じゃ……。相手は炎を出していたし、他にも能力があるかもしれない。
「『鑑定』」
失敗という文字しか見えない。
「『鑑定』」
またもや失敗と表示される。
「ごめんね、僕の隠蔽のレベルが高くて君には見えないんだ^^」
「無理ゲーだろ、なんかハンデくれよ!」
オレが叫ぶと、ニコニコは少し悩んだ顔をする。
「うーん。いいよ。じゃあ1人助けを呼んでいいよ。誰がいい?^^」
誰だ?今助けに来て役に立つのは?リュウ?いや、普通の人間じゃ勝てない。
ミナトか……。
最悪怪我しても心があまり痛まないし。あ、結局オレ、連絡手段ないじゃん!
「ミナトってやつ呼びたいんだけど、スマホ忘れたから取りに帰っていい?」
いいわけないよな。いいって言ったら警察呼ぶし。うん。
「わかった^^」
「マジで?」
ニコニコがスマホを取り出し、どこかに連絡している。家に戻ろうとしたが、普通に壁があって出られない。
「あのー、壁があったら出れないんですけどー」
ニコニコはスマホをしまい、こちらを見ている。その数十秒後、ミナトが現れた。
「超能力って便利だな」
オレが言うと、ミナトは首をかしげた後に「あー」と言わんばかりに頷いた。
「私に頼ったんだから、貸しひとつね」
なんか言ってるけど、どうでもいい。生きて帰れてから考える!
「じゃあ、はじめようか^^」
ニコニコが炎を連発してくる。オレが走ってよけるのに対し、ミナトはバリアのようなものを張り、微動だにしない。
「うーん、やるねぇ^^」
ニコニコはミナトの方を見ながら言う。
オレはもう眼中になさそうだし、帰っていいか?
「ねぇ、ちょっと攻撃しなさいよ、ツバサくん!なんで避けてばっかりなの?」
「ゼェゼェ、お前、はぁはぁ、こっちは避けるだけで、ゼェゼェ、精一杯、はぁ」
「じゃあツバサくんにも『防衛』使ってあげるから、このナイフであいつを刺してきて」
バリアみたいなのを張ってくれるなら、近づけるな。
「わかった、刺してくる」
「じゃあ、3、2、1でいくわよ」
「3」
(相手はこっちを殺そうとしてるんだ、正当防衛だよな)
「2」
(殺しても平気だよな)
「1」
(行くぞ行くぞ)
「行って!」
ミナトの掛け声と同時に、オレは走ってニコニコに襲いかかる。その時、炎が何発か飛んできたが、『防衛』のおかげで無傷だった。
目の前にニコニコがいる。
「やばいね^^」
この距離なら当たる。
ナイフで刺すぞ。
オレはナイフを構える。
「うぉぉーーー!」
叫びながらナイフを……。
刺せなかった。
直前で怯んでしまった。
「もう無理だね^^」
オレはニコニコに蹴り飛ばされる。その時、ナイフを落としてしまった。
ニコニコはナイフを拾い、オレの元に近づいてくる。
「じゃあね^^」
オレはナイフで切りつけられた。