3…異 何者 常
は?
何が起こった?
「ちっ、ハズレか」
オレとそいつしか居ない河川敷の中で、日本刀を構えた黒装束の男がそう呟いた。
オレは腰が抜けて、ただ震えることしかできない。
その男がゆっくりと反対側へと歩き去っていく。振り返ったその男と目が合った。ニヤリと歪んだ笑みが、オレの記憶に焼き付く。
「ここで、死ぬのか……」
そう思った瞬間、意識は遠のいた。
「おい」
「おい、おい、ツバサー」
誰かが呼ぶ声で、意識が戻る。
「え?お前おしっこ漏らしてんじゃん。急にどうしたんだよ大丈夫か?」
目の前には見慣れない男がいた。なぜかオレの名前を知っている。そして、オレの足元を見て笑っている。
「パトカー、110に連絡して」
動揺しながら、そう口にした。
「何言ってんだよ頭でも打ったか?」
男はその言葉を訝しげに受け止める。
「友達が死んで……」
「何言ってんだよ2人で買い物行った帰りだろ?」
男はそう言って、オレは背後を見る。そこに横たわっていたはずの死体は、跡形もなく消えていた。まるで最初から何もなかったかのように。
「あのすいません、助けて頂きありがとうございます」
「なんだよその言い方、俺ら友達だろ?俺だよ俺。福田優希」
この男は何を言っているんだ?オレはこいつに会ったことがない。オレは携帯を開き、ペンギンに電話をかけようとする。だが、連絡先リストにペンギンの名前はない。代わりに「福田 優希」という見知らぬ名前が登録されていた。
「フクダさん?ちょっと待っててね」
一旦ペンギンこと福田優弥に電話をかけるために電話番号を知ってるであろうリュウに電話をかける。
「もしもし、ペンギンに連絡取ってくれない?おれ連絡先無くしちゃってさぁー」
「無くすってなんだよ?まぁ分かった。あっちから連絡するように言っとくわ。だけどお前ら一緒に買い物行ってなかったか?」
電話口の向こう、リュウの声に違和感を感じた。いつもの喋り方だが、どこか不安を感じる声色だった。
「それが、いなくなっちゃったんよ。しかもオレ、道で寝てたっぽいんよ」
「なんだよそれ」
リュウは小さく笑った。ペンギンはきっと無事だ。夢の話は明日しよう3人で。そう信じて、オレは電話を切った。
残る問題は、目の前のこの男だけだ。
「えっと、ユウヤのお兄ちゃんですか?」
その問いに、福田優希はキョトンとした顔で首を傾げる。
「ほんとどうした?、ユウヤって誰だよ、俺はユウキだって」
こいつは福田優弥の兄ではないようだ。ではなんなのだろうか
「つかさっき電話してたのリュウだろ?」
そう言って、福田優希は不思議そうな顔でじっと見つめている。オレはこいつに「鑑定」を使い、情報を見た。
> 名前⋯福田 優希 (フクダ ユウキ) Lv0
> 通称⋯アシカ
> 身長⋯172cm
> 体重⋯70kg
> 性格⋯明るい、お調子者
> 性癖⋯足、ふともも
> 趣味⋯ゲーム(ピャルテナの鏡)
> 悩み⋯好きな子に告白したい
> ギフト⋯なし(付与可能)
なるほど、アシカか。こいつのことは全く思い出せない。適当な嘘でその場をやり過ごすことにした。
「ごめん、今日歯医者の定期検診だったわーじゃあ
また今度」
「おう、また明日な!」
明日?何言ってんだこいつ。明日から会うことはあるのか?……。
翌日。学校の教室に入ると、当たり前のように福田優希がペンギンの席に座っていた。周りの生徒たちは誰も何も疑問に思っていない。
「なぁ、ペンギンの席に座ってる人誰か分かる?」
その問いに、クラスメイトは不思議そうな顔で見てくる。
「ペンギンて誰?元々あそこはユウキの席だったじゃん。仲良くしてたのに忘れたの?」
何が起こっているんだ?別の奴にも聞いてみた。
「ペンギンのこと知ってる?」
「誰だよそれ、ツバサのニックネームは分かりにくいからな」
誰も、ペンギンのことを覚えていない。昨日までそこにいたはずの友達が、まるで最初から存在しなかったかのように消えていた。そこに、リュウがやってきた。
「リュウはペンギンのこと覚えてるよな?」
リュウは一瞬俯き、そして顔を上げて答えた。
「ペンギン?鳥類のやつか?」
おかしいのはオレなのか。いや、違う。昨日までは、ペンギンはいた。オレは正しい。昨日、リュウと電話で話した記憶もある。
「昨日電話で話しただろ!みんなしてふざけんなよ。」
オレが叫ぶと、福田優希が近づいてくる。
「ツバサ疲れてんだよ。今日は帰って休みな」
こいつ誰だよ。オレがおかしいのか?悔しさと恐怖で、涙が込み上げてくる。誰も信用できない。そんなオレに、リュウが何かを言おうと口を開く。
「お前ら席に着け朝のショート始めるぞ」
先生の声で、リュウの言葉はかき消された。一体、この世界で何が起こっているんだ?