久々の仕事
私は朝食を食べ終えた後ルーシアの指導役はイーヤさんになって暇になったのでセイナちゃんの家に行った。
家を出る前にイーヤさんからガーデン家へのお土産として家に保管していたレダリア地方の田舎で作られた有名なぶどう酒とそこで一緒に作られているジュースを持たされた。
私が扉に付いている輪を叩くとガーデン家の家政婦さんが出てきたので私が用件を伝えると私を中へ上げて下さり客間へと通された。
少しするとジェードさんの奥さんとセイナちゃんが部屋に入って来た。
「白ちゃん、久しぶり。」
とセイナちゃんは事件の事は忘れたような挨拶をしてきたので私は少し表情が緩んだ気がした。
「以前はお世話になりました。」
「いえいえ、ジェードさんの協力があって出来た事なので。あとこちらをつまらないものですが。」
そう言って私はイーヤさんに託された物を渡した。
「どうもありがとうございます。」
そう言いながらセイナのお母さんは中のジュースを見つけて。
「せっかくだし、セイナと白ちゃんで飲んだら。」
と勧めて来たので私はお言葉に甘えて頂くことにした。セイナのお母さんがコップを取りに行ってる間私はセイナちゃんと二人きりになった。そして私からセイナちゃんに話を切り出した。
「最近何やってたの?」
そう聞くとセイナちゃんは少し考えてから言った。
「最近は算術や馬術、語学、魔術なんかを習っているかな。そう言う白ちゃんこそ何をやっていたの?」
「う〜ん、レダリアで魔獣狩りをした後に王都に戻ってルーシアって言う女の子に剣術を教えてたかな。あまり上手くはないけど。あと国王陛下に謁見したりしたかな。」
「へ〜、白ちゃんも色々とやってたんだ。そう言えばイーヤさんはどうしたの?」
「イーヤさんは今ルーシアに稽古を付けてて今忙しいの、あと1週間後に十二怪の大会があるから、セイナちゃんは出ないの?」
「私も出たかったんだけどね。お父さんに止められちゃって、『駄目、セイナちゃんがいくら魔力量に優れていても剣術も魔術も人並みよりちょっと上程度では危険すぎる、セイナちゃんにいくら嫌われても良いから出ないでくれ。』なんて言われちゃった。」
セイナちゃんはジェードさんの真似をしながら言ってきたので私は思わずクスッと笑ってしまった。
「白ちゃんはなんで出ないの?」
「私はイーヤさんの、魔獣の後継者で後継者は大会に出なくても十二怪になれるんだって、でも私はイーヤさんと一緒に肩を並べたかったのに。」
私は口を尖らせながら言った。
「じゃあ、言えばいいじゃない。」
簡単そうに言うセイナちゃんに私は
「もう、推薦状出しちゃったから無理だよ。」
「そう、じゃあまた今度ね。」
「そうだね〜。」
話に区切りが付いたタイミングでちょうどセイナちゃんのお母さんが入って来た。
「じゃあ、私はこのへんで御暇します。あとは二人で仲良くね。」
なんて言って透明な硝子のコップを置いて行ってくれた。。
「ねえ、白ちゃん最近鍛えてるの?」
「え?なんで。」
私は思わずそう答えてしまった。
「だって、いつも色々な所に行ってるけどそれだけじゃ強くはなれないし、魔獣の名前を襲名する時に弱かったらイーヤさんの顔に泥を塗るわけじゃない。」
そう言われて私はハッとした、確かにここ数日ルーシアの稽古ばかりしかしておらず自分の技術を磨く事を怠っていたと思った。
「確かにそうだね、私自身も鍛えないと。ありがとう、セイナちゃんちょっと私仕事受けてくる。」
私は焦るように言った。
「白ちゃんが行くなら、私も行って良い?」
そうセイナちゃんは私に言ってきたが私は首を横に振った。
「だーめ、私一人でやんなくちゃだしセイナちゃんはもうちょっと技術を磨いてからね。」
そう言って私はセイナちゃんの家を飛び出し家に帰って装備品を整えた後、王都のギルドに行き掲示板に貼られている魔獣狩りの仕事を選んで申請し仕事に出た。
今回の仕事の現場は王都付近に魔獣の群れが発生したから処理して欲しいとの依頼だった。ただし証拠として魔獣の尻尾を持って帰って来なければならなかったので近くの鍛冶屋でナイフを一振り買い背中側の腰に着けた。
私は王都を出てレダリアにある森の中に入った。森の中には大人一人が身を隠せる程の岩がゴロゴロと転がっていた。
私は森の中を歩いていると目的の魔獣を見つけた。その魔獣は大きさは私の目線と同じくらいの大きさで見た目こそ赤黒い体毛の生え目は血の様に真っ赤な猪の様で、気性が荒く目に入った生き物をすぐに攻撃して来る。そして、その攻撃の中でも一番厄介なのは突進だ。巨体でその上足が速いとなるととても危険で木々の陰に隠れても木々を打ち砕いて来るのだ。
私は遠くから魔獣を見つけそっと近づいた。魔獣達は地面を鼻先で掘り返しながら木の根を食べていた。私はチャンスだと思い群れから離れていた個体に石を投げつけた。
「その子だけ気づいて。」
そう、心の中で願いながら石を投げた。石は見事にお尻の上側に当たった。魔獣は周囲を見回し石が跳んできた方向に歩いてきた。
薄い石壁を挟んで私と魔獣は向き合った。心の臓がいつもよりも強く魔獣にも聴こえる程に脈打っていた。周囲に響くのは風が梢を揺らす音と「グルルル、、、」という魔獣唸り声だけだった。そんな空気をはじめに破ったのは私の方だった。
「りゃー!」
私は魔獣の頭に向かって剣の峰を打ちつけたが魔獣の骨は厚く硬かったので魔獣は何事もなかった様にそのまま私に向かって突進をしてきたが幸い助走距離が短くあまり速度が出ていなかったので大して痛くはなかった。しかし、私は岩と魔獣に挟まれた。
「痛い、潰される。」
そう思いながら私は骨が軋んでいく音を聞き焦った。
私は魔獣の体にしがみつき左腕で腰の後ろに着けたナイフを苦戦しながら取り出し魔獣の左目に突き立てた。
「プギャー!」
魔獣の左目から赤い噴水が出来た。魔獣はあまりの痛みにもがいて私はそのまま振り飛ばされた。
「うわっ!」
幸いにも柔らかい地面がクッションになってあまり痛くはなかった。
片目を潰された魔獣と身体を押し潰されかけた私、互いに満身創痍の状態で再び向き合った。次に仕掛けたのは魔獣の方だった。
魔獣は私に向かって、一直線に走って来たので私は満身創痍の身体を引っ張って避け、過ぎ去り際に魔獣の顔を剣で殴った。
私は反動によって大きく腕を持って行かれ、剣を手放してしまった。しかし、魔獣も少し走った後に力なく地面に倒れそのまま起き上がる事はなかった。
私は自分の腕が折れてない事を確認した後に剣を拾った。
少し遠くに今さっき苦戦して倒した魔獣よりも体格が大きい魔獣があと4匹残っていた。しかも次は4匹がまとまっていて無闇に手を出せない状況だった。私は剣を納めて狩った魔獣を近くの村に運ぼうと思ったが脳裏にイーヤさんとの稽古をしているルーシアの姿が映った。私はこのまま逃げてはいけないと思い剣を納めようとした手を止めて、再び剣を構えた。さっき使わなかった魔術を使い全ての魔獣を狩ると意気込みドランさんとの決闘の時の様に背の後ろに空気を圧縮して、剣には明く滾る炎を纏わせた。それに魔獣も気づいてこちらに顔を向けて走って来た。
「フゴフゴフゴフゴフゴフゴ。」
私も魔獣に切りかかった。
さっきまで魔術に感じていた不安は杞憂と言うが如く安定していた。背中の風は私を親の様に優しく押して、炎は熱くなくどこか心地よかった。
私はただその優しいものにこころを預けた。
魔獣の体毛に炎が燃え移り魔獣を焼いていき、背中の風で速さを底上げし素早く歯切れ良く動いた。擬音を付けるとするならば、ピタッ、ピタッと言える具合だった。
そうして私は魔獣を全て倒した。こんなに大きい魔獣を一人で運ぶのは骨が折れるため、魔獣達の尻尾を切り取り残りは近くを通った商人に銀貨二十枚で全て売ってしまった。
王都の入口付近のギルドに依頼達成を報告しにいった。
受付のカウンターから顔だけ出して話しかけた。
「依頼達成を報告しに来ました。」
そう言って私は依頼書と魔獣の尻尾をカウンターに出した。
受付の人は依頼書と魔獣の尻尾を見比べてから言った。
「はい。ご依頼の通りですね、お疲れ様です。どうぞ、報酬金の銀貨三十枚です。」
私は報酬金を受け取ると帰路に帰った。
ギルドは依頼人から依頼料を貰い、その何割かを報酬金として払うと言う仕組みだったので今回の依頼人は結構な金持ちだったと言えるだろう。
私は家に帰る途中に痛み止めを買い身体中の傷跡に塗った。
「ただいま帰りました。」
そう言って家に入るとイーヤさんとルーシアの稽古は既に終わっていてルーシアはベットで横になっていた。
イーヤさんは庭の植物に水を撒いていた。
「イーヤさんただいま戻りました。」
私がそう言うとイーヤさんは私の身体を見るととても驚いた顔をした。
「どうしたのその傷。」
「ちょっと仕事を受けに行ったら怪我しちゃって。」
そう言う私は照れくさそうに言った。
「もお、本当に気を付けてね。ちょっと中に入って、薬持ってくるから。」
イーヤさんにそう言われて私は室内に入った。
魔獣について可愛く描けたかな。




