04 過去
今回は琉人の過去編を少しだけ載せます。
俺は夜が嫌いだ。
夜になるとあの日のことを思いだして、自分が嫌いになる。
牢獄の夜は寒い。窓にガラスがついていないから、風が直接入ってくる。
雷がすぐ近くに落ちて、部屋の中が一瞬光った。
その光に続いてすぐに落雷の音が鳴る。
確か、あの日もちょうどこんな天気だった。
母が妹を探しに行った日。
妹の顔はよく覚えていない。
うちの家では妹二人は母が育てていて、父に育てられた俺は、妹にはほとんどあったことがなかった。
それに加えて、俺が五歳ぐらいの頃だったから、記憶が曖昧だ。
妹は良く外に遊びにいっていたから家の中でも存在感は薄かった。
それでも三日に一度ぐらいは家に帰ってきていたそうだ。
だが、ある日を境に急に家に帰ってこなくなったのだ。
妹がいなくなってから一か月ほどたったころ、母はさすがに心配だと言いだした。
その頃はちょうど梅雨で、毎日のように雨が降っていた。
母は土砂降りの雨の中一人で探しに出かけた。
けれど、何時間たっても母は家に帰って来なかった。
あの日俺は、母のことを心配して、妹と母がいなくなった場所に忍び込んでいた。
本当は久しぶりに母に会いたかったのかもしれない。
父に育てられるようになってから、母や妹達とはほとんどあっていなかった。
すると雨の中、母が小さな子供の手を引いて出ていくところが見えた。
影になって顔はよく見えなかった。
だが、俺はその子供はきっと妹だと思い、こっそりと母の後を追うことにした。
その子は妹と同じ背の高さで同じ青い髪をしていたからだ。
俺は母を追って必至に駆けた。すると、母は薄暗い建物の中に入っていった。
俺は雨宿りをするのだろうと思って、扉の外で母を待っていた。
風が吹いて来た。
いつもは気持ちがいいその風が、今日は恐ろしく不気味に思えた。
下を見た。
月明りで、薄暗く自分の影が光って見えた。
中から音が聞こえてきた。
俺は聞き耳を立てるようにして壁に耳を当てた。
そして母が何を話しているのか聞こうとした。
だが、母の声は永遠に聞こえてこなかった。
聞こえてきたのは銃声だった。
稲妻の音をかき消すようにして、その音は鳴った。
聞きたくなかった音だった。
その音は空虚に、だけどはっきりと俺の耳に響いた。
俺は建物の中を除いた。
いつの間にか手が震えていた。
中には黒い服を着た男たちが暗闇に潜んで並んでいた。
彼らの手には銃が握られていた。
その時、あることに気が付いた。
下に、何かが流れている。
床に赤い液体が滴っていた。
その奥に倒れているのが誰なのか、考えなくてもわかった。
奥に一人の子供が見えた。
その子供は妹に似ていた。
だが違う。
そこにいる子供は、妹の皮を被った化け物だった。
妹ではないことは一目で分かった。
その子供は顔に面布をつけていた。
彼女は俺に背を向けて、ゆっくり、そして静かに歩いていく。
「待て。」
彼女は一瞬止まった。
「絶対に許さない。お前のことを絶対に許さないからな。」
彼女はまた歩き出した。
その後ろ姿が今も胸の奥から離れない。
建物の窓から月明りが俺を差していた。
俺はその光から隠れるように闇の中に紛れた。
雨がいつまでも降っていた。
皆さん気づいているかもしれませんがいまだに恋愛要素がありません。
一応恋愛に発展させようと思っているキャラが一人いるのですが、片方がまだ出てきていません。
古都はにぶいのでおそらく恋愛に発展することはないでしょう。