表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/35

03 裁判

その後は琉人さんと遊んで過ごした。

枕投げ、しりとり、腕相撲、等々。多分僕達は体の大きさからして中学生か高校生あたりだろう。


そんな僕達がやる遊びとしては子供っぽすぎると思われるかもしれない。


だが、ここでは本当にやることがない。部屋の中で手軽にできる暇つぶしとなると、このような小学生低学年がやるような遊びしか思いつかない。


 昼になると昼食を食べに行った。だが、朝食と大して変わらずつまらなかった。

そして、部屋に戻る。部屋に話し相手がいるからまだましだが、僕が寝ていた五年間は琉人さんにとって退屈以外のなんでもなかったのではないだろうか。


そしてまた同じようなことをして遊ぶ。結果的に一日中遊ぶこととなり、僕たちは疲れ果ててベットの中にうずくまることとなった。


 夜になると今度は夜食。

ここで僕は思った。


「あれ、何か忘れてないでしょうか。」


「ん? どうしたんだ?」


ええーと。夜になったら何かをするように言われていたような気がするのだが、いったい何だろう。

なぜか、思い出さない方がいいような気がする。


そんなことを考えていると、視界がグニョンと曲がった。

「はぇ?」

体がフワッと浮かんだように感じた。

琉人さんの驚いている声が聞こえたように感じた。


「おーい。」

何か声がした。

「おーい。聞こえているか?」

どこかで聞いたことがあるような声だった。

確か名前は…

「綾さんですか?」

「うわぁっ」驚いている声が聞こえた。


「きゅっ、急にしゃべりだすな。あほう。びっくりしただろう。」


ゆっくりと目を開けると、見覚えのあるハリネズミが僕に向かって威嚇をしていた。


……綾さんで間違いないようだ。

「えーっと。ここどこですか。」


ここ最近目が覚めたら変な場所にいた展開が多すぎないだろうか。


「まったく、夜になったら来るよういったではないか。どうしたんだ?」


「はあ。それで、なんで僕連れてこられたんでしたっけ?」


「お、ま、え、は~。忘れたとは言わせぬぞ。」


「ひゃああ。」怖い。本当に怖い。すごく睨まれている。


「裁判を執り行うといっただろう。同じ説明を二度もさせるな!」

「ご、ごめんなさい‼」

「まったく。」


「そういえば、先ほど急に視界がグニャンと曲がった気がするのですが、いったい何だったのでしょう。」

「ああ、それについての説明はまだだったな。今のは、瞬間移動の異能で移動させたのだ。」

「異能…ですか?」

「お前が来るのがあまりにも遅くて、時間に間に合わなそうだったからな。ここにいる菊に転移を頼んだのだ。」


綾が差す方向を見ると、一人の女性が窓際に立っていた。


月明りの影となって、顔はよく見えなかった。彼女は驚くほど静かで、存在感が薄かった。


まるで虚無の世界に一人佇んでいるように見えた。


「急に仕事を頼んで悪かったな。菊。もう下がってくれ。」


「かしこまりました。」


彼女は僕の正面にあった扉に手を重ねた。


その指先は驚くほど白かった。


「あっ。待ってください。」僕は言った。


彼女はまるで何も聞こえなかったかのように部屋を出て行った。


「どうしたのだ?」

綾は僕が急に彼女を呼び止めたことを不審に思ったようだ。


「いや、どこかで彼女に会ったことがあったような気がして。」

「? そうか。」


綾は不思議そうな顔をして顔を傾けた。

「取り敢えず、早くいくぞ。」


「どこにですか?」


「教会だ。裁判を受けに行く。」


「裁判所とかではないのですか?」


「ああ、裁判所は五年前の爆発でもう残っていない。」


なんと。僕のせいだったようだ。


「うう。申し訳ないです。」

「まあ過ぎたことは良い。では行こう。」


彼女は扉の方を向いて手を鳴らした。

すると、十人ほどの黒い服を着た人たちが部屋に入って来た。


その瞬間、すぐさま僕は拘束される。

驚いている間もなく、彼らに担ぎ上げられた。目隠しも付けられる。


「うわぁ。じ、自分で歩けますよ。」

担がれるようにして連れていかれる。


 何時間歩いたのだろう。外に出たと思ったら、車に乗せられ、数時間たった。すると、車から降ろされ、何か建物の中に入っていった。


しばらくして、目隠しが外された。周りを見る。

そこは広い宮殿の中だった。


ピアノの音が静かに流れていた。


そして、俺の横に、男の人が二人たって、俺を見下ろしていた。


床に赤いカーペットが敷かれ、その先には王冠を被った人が優雅に椅子に腰かけて、口元を派手な扇で隠していた。

そして俺を見るなり、小さく微笑んで、話しかけてきた。


「おはようございます。」彼は子供に話しかけるように、小さな声で言った。


「お…おはようございます。」よく分からないが、とにかく返事をしておいた。

彼女はまた小さく微笑んできた。


「あの…質問をしてもよろしいでしょうか。」

「なんでしょう。」


「ええっと……ではまず、これは一体どういう状況なのですか?」

手には手錠が掛けられていて、その手錠の先は後ろのある壁につながっていた。


そして、僕の首が断頭台にかけられていた。

これでは、どう見ても裁判所ではなく死刑所だ。


僕の隣に男性が二人、逃がすまいとするかのように僕に剣を突き立てている。

「その質問には、私がお答えしましょう。」


後ろに立っていた銀色の髪の男性が小さく手を挙げた。光るような長い銀髪を、数珠のようなもので一つに束ねている。歩くたびに髪が小さく揺れる。


「五年前に建物がすべて崩れ去った世界的なテロの犯人が、あなただという可能性があるのです。

もし貴方が本当にその犯人であったのなら、この場で死刑にするべきだという意見が出ました。

それにより、こうして断頭台にかけておいているのです。

当時あなたは九歳でしたが、五年前のあの事件のことを覚えてますか?」


昔のことを思い出そうとした。だがやはり何も出てこない。

「すみません。覚えていません。」


「おい、嘘つきやがれ。どうせ、とぼけてやがるんだろ。」

右隣で剣を突き立てていた少年が、俺の首元に剣を少し差し込む。


僕の首元から小さく血が滴った。

すると、左隣に立っていた藍色の髪の少年が声を出した。


「ちょっと落ち着きなよ、一颯。ねえ君、本当に記憶がないの?」

僕は小さく頷いた。


「僕、ちょっと今日用事があって、早く帰りたいんだよね。だから、本当に記憶がないのか、脳みそ解剖して見てみてもいいかな?」


「てめーこそ落ち着きやがれ。」

その時、後ろの扉が小さく開いて、白衣を着た男の人が入ってきた。


「失礼します。彼の頭を検査して調べてみた結果、脳細胞の一部が破損していることが分かりました。おそらく、五年前の爆発の時の傷だと思われます。」


「……じゃあ、本当に記憶なし?」

謎の沈黙。


「記憶がないんじゃ、確かめようがないですね。逃がしてあげてもいいんじゃないですか?」

茶色い髪の子供が髪についた鈴をシャリンと鳴らしながら言った。


「おい、ちょっと待ちやがれ、くるみ。こいつのせいで怪我したやつが二百万人もいるんだぞ。俺たちが許しても二百万人がこいつを許してねえんだよ。」


「別にこの人が犯人だって決まったわけじゃないんでしょ。」

ピアノの上に座っている子供が饅頭のようなものを食べながら言った。


「馬鹿かお前、こいつ以外に考えられねーんだよ。こいつは爆発した場所のど真ん中にいたんだぞ。しかも、飛行機から落ちてくるこいつを見たってやつもいる。そのうえ能力が爆発する系のやつだ。こいつ以外に容疑者なんていると思うか?」


「それはそうだけど……」

「いつこいつが爆発してもおかしくねーんだぞ。今すぐに処分するべきだろ。」


その瞬間、後ろから大声が聞こえてきた。


『待て!』

全員が声のした方向を見る。

僕もそっちを向いた。その声に聞き覚えがあったからだ。


「琉人さん⁉」

すると僕に剣を向けていた一颯という人が琉人さんの方に剣をずらした。


「誰だお前。どこから入って来た?」


「どこからも何も、普通に正面から入って来たが?」


「質問に答えろ。…表にいた警備員はどうした?」


部屋の中にいた護衛が、一斉に琉人さんに銃を向ける。


しかし、弾丸が琉人さんに届くことはなかった。


琉人さんに銃を向けた護衛が、数秒もせずに倒れたからだ。


琉人さんは、指一つ動かしていなかった。


一颯はそれを見て小さく笑った。

「バケモンか? てめえ。」


「古都は罪なんて犯していない。絶対に。」

「お前は何を根拠に言ってんだ?それとも、お前があいつの代わりに死刑になるとでもいうのか?」


「それでも構わない。」

「ああ? 何をいってやがる?」


「だから、俺は死刑でも構わない。だからあいつをここから出せ。」

「はあ?」

あたりのざわめきが大きくなる。


その時、王冠を被った人が口を開いた。


「静まりなさい。」

その瞬間、辺りが突然静まり返った。

「いつ爆発するのか分からないというのであれば、いつ爆発しても大丈夫な場所に送ればいいだけです。」


「『雅 古都』君、あなたを裏社会に送ろうと思います。」


その瞬間、周りにいた人が全員ざわめき立った。


こだまするようにざわめきが広がっていく。

「異論がある人はいるでしょうか。」


またしても周りが静かになった。

すると、彼女の隣に立っていた銀色の髪の男性が手を挙げた。


「異論というわけではないのですが、一つ質問をさせていただいてもいいでしょうか、亜羽様。死刑ではなく、裏社会送りにするのには何の意味があるのですか? それを実行することはかなり大変だと思われます。第一に、裏社会に行った人間が国外に逃げる可能性も十分にあります。これからのことを考えると死刑をした方が面倒事も少ないように思われます。」


「確かに、そうですね。生かしておく理由などないでしょう。けれど、利用価値のあるものを捨てる理由もないはずです。」


「確かにそうですが…。彼が逃げないように見張るのは誰にするのですか? 弱い人間をつけてしまっては、重罪人に逃げられてしてしまう恐れもあります。」


彼女は少し考えるそぶりをした後、言った。


「見張りとして、綾をつけましょう。それならば構わないでしょう?」

僕は自分の後ろに立っていた綾を見上げた。


彼女は少し息を飲んだ後、少し震えた声で「かしこまりました」と言った。


その顔が今にも泣きだしそうに見えたのは気のせいだろうか。


「では、これで裁判は終わりです。琉人君だったでしょうか? これで構いませんか?」

「ああ、構わない。だが俺も古都と一緒に行く。それでも構わないか?」

彼女は小さく微笑んだ。


「ええ。構いませんよ。では、改めて裁判を終わらせます。皆さん、退室してください。」亜羽という人がそう言った。すると、部屋にいた人が一斉に退室していった。


 退室する直前、銀色の髪の人が僕の横を通った。

亜羽という人の隣に立っていた長い銀髪の人に似ているように見えた。

一瞬、目が合ったような気がした。


夜になると、僕はまた牢屋の中に入れられた。昨日と違う部屋に入れられたようで、琉人さんがいない。当然のように足に鎖がついている。


(琉人がいたら外してくれたのに。)

僕は少し寂しくなった。

琉人さん、今どこにいるんだろう…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ