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27 試験ー2

 この前の海岸へと向かい、しばらく歩く。


最初は海の上がガラス張りになっていることに違和感しかなかったが、今では普通に上を歩くことができる。

しばらく歩くと入口が見つかった。

僕は思いっきり扉を引っ張って中に入った。


「あ、古都。久しぶり。元気にしてた?」


中に入ると、リアムさんが待っていたのように入口の前に立っていた。


「リアムさん。久しぶりと言ってもまだ一日しか経ってないじゃないですか」


「ふふ。僕、二日も連続で誰かに会いに来てもらったことが嬉しくって」


 それを聞いて僕は首をひねらせた。

この部屋には花柳さんがいるのだが。まあ、側近は別なのか。


「そういえばリアムさん。今、何時だか分かりますか?」


「ふふ。もうすぐ試験が始まるからね。琉人達が心配なの?」


「えっ? 知っていたんですか?」

綾さんたちが従事試験を受けることはついさっき決まったはずだ。なぜ知っているのだろう。

「うーん。あの子が悪江家の情報を欲しそうだったから」


「あの子って、綾さんのことですか?」


「あ、綾って名前だったんだ。知らなかった。あ、今は9時54分だよ。」

リアムさんは部屋の片隅にかけられていた時計を見ながら言った。


「もうそんな時間ですか。」

二人は無事試験会場についたのだろうか?


「うん。僕も琉人が心配だな~」

リアムさんは楽しそうな声で言った。


「リアムさん、琉人さんと仲がいいんですか?」


「ふふ。昨日、ちょっと仲良くなったんだよね」


 そういえば昨日の夜、琉人さんがいなかったような気がしたが仕事に行くと言ってリアムさんに会いに行っていったのか。なんだかすごく、綾さんが怒りそうなのだが……


(琉人さん、大丈夫でしょうか……)

僕が琉人さんのことを心配していると、リアムさんは別の意味で僕が琉人さんを心配しているように見えたようだ。


「琉人、本当に心配だねぇ……見に行ってみようかな」


「えっ? 見に行けるんですか?」


「ふっふっふっ。僕を誰だと思っているの? 僕はこれでも悪江家の一人だよ。試験会場に潜り込むぐらい、簡単だよ」


「すごいです。リアムさん。僕も見に行ってみていいですか?」


「うん! もちろん」


(やったぁ!)僕は心の中で叫んだ。

 僕も本当は行ってみたかったのだ。見送りを断られてしまったから行かないでおいたが、まさか試験会場に直接行けるだなんて。さすがリアムさんだ。


「じゃあ、ついてきて」


そういうと、海の中から五メートルを超えるような、巨大魚が出てきた。リアムさんはその魚の上に座って僕の手を持つ。僕も魚の上に乗ると、猛スピードで動き出した。


「うわぁ。すごいです。楽しいですね」


海の中をこんなに速く進めるなんて最高だ。


「多分後五分ぐらいでつくと思うよ」


このスピードで五分掛かるということは結構遠い場所にあるんだろう。琉人達は間に合ったのだろうか?


すると、リアムさんが僕の心を読んだように言った。

「大丈夫だと思うよ。海から行くと遠回りになるだけで、陸から行けば数分で着く場所にあるから。」


さすがリアムさんだ。僕が考えていることを完全に読んでいる。

「すごいですね。人の心を読むの、得意なんですか?」


「うん。……昔から、周りの人の顔を呼んで生きて来たからね」


「……そうなんですか」


「あ、そろそろ着くよ。古都」

リアムさんは慌てて話題を変えるように言った。


「もう着いたんですか? 早いですね」


「……うん。それと、古都は誰か聞かれたら僕の友達だということ。そうすれば大体のことは何とかなる」


「えっ? あ。はい」


「あと、何か絡まれたら僕を呼ぶこと」


「はい!」


「僕の近くにいてくれたら何があっても絶対守るから」


「はい!」


「……本当に大丈夫?」


「心配しすぎです。大丈夫ですよ」

そう言って笑うとリアムさんはもっと心配そうな顔をしたので、僕は「過保護すぎますよ」と笑っておいた。


「……着いた」

 話をしている間にいつの間にか着いていたようだ。

僕は身を乗り出してリアムさんの視線の先をたどった。


すると、水の中に宮殿のような不思議な扉があった。



「ここからが悪江家の入り口。こんなものつけなくていいのに、いつの間にかあいつが付けてた」

リアムさんは苦い顔で言った。


「あいつって誰ですか?」


「僕の父親」

普通は父親のことを「あいつ」とは呼ばないだろう。だが、リアムさんが思い出したくないような顔をしていたのでそれ以上は深堀しないでおいた。


「じゃあ、開けるね」

リアムさんが手をかざしただけで扉が開いた。


「ここが、僕が昔暮らした場所。そして、この裏社会の地下であり、悪江家の本館」


僕はゴクッと唾を飲み込んだ。


僕は羅紗という人に(悪江家を滅ぼせ)と言われた。つまりここは敵地のど真ん中。

僕はゆっくりと中に入った。


 血で染めたように真っ赤な部屋だった。

赤いカーペットが張り巡らされている。


まるで舞踏会の入り口のようだった。


中は思ったより騒がしく、黒い服を着た人たちがせわしなく歩き続けている。

だが、彼らは僕とリアムさんが部屋に入った瞬間、全員が静まり返り動きを止めてこっちを見た。


一人の人があり得ないとでもいうように口を開いた。


「……リ……アム様?」



 その声で、再び部屋は騒然となった。


「まさか、リアム様?」

「いや、そんなはずないだろう」

「だが、あそこの扉から入ってこれるのはリアム様ぐらいしか」

「何か能力で成りすましているのでは?」

「いや、だが魔力量が桁違いだぞ。あれでリアム様でないのだとしたら……」

「本物だとしても、なぜ急に来たのだ? あれだけ本館に来るのを敬遠していたのに」

「おい、やめろ。本当にリアム様だったら無礼極まりない発言だぞ」



だが、リアムさんが中へ入るとともに全員静かになり、頭を下げた。

それも、体をすごい角度まで曲げて最敬礼している。


(なんだか、一人だけ場違いな場所に迷いこんだような気がする……)


なぜだか、全員僕を睨んでいるようにも見える。


だが、リアムさんは彼らのことを気にせず歩いていく。


「モニター室へ」

 リアムさんが一言そう言うと、部下のような人が一人、前へ出てきて歩き出した。


リアムさんは彼に着いて行く。

だが僕も一緒に着いて行こうとしたら、睨まれてしまった。


「おい、リアム様に近づくな。無礼者」


(ぴぇっ……)僕は慌てて叫びそうになり口元を抑える。

だが、リアムさんがかばってくれた。


「黙って」


リアムさんが彼に向ってそう言うと、彼は途端に優しくなった。

「はい。かしこまりました。リアム様」

だが、時々ちらちらと僕の方を向いて睨んでいる気がするのは気のせいだろうか。


(悪江家、怖い。)

僕が今日心底実感したことであった。

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