18 寒い
私は奥の暗闇の中ある血痕をじっくりと観察した。
触って確かめてみる。
本物の血液に間違いはなさそうだ。
この感じからして、恐らく数年前についたものだろう。
よく見ると、ふき取られたような血液がその近くにもついていた。
さらによく観察していると、壁に弾痕が隠されていた。
ここで何があったんだ?
「どうしたの?」横から声が聞こえてきた。
「あっ。いや、なんでもない。」私は慌てて誤魔化す。
だが、この血痕が気になってしょうがない。いったいこれはなんだろう。私は琉人の方を向いてみた。
「……。」琉人は見たくないのか、目をそらしていた。
「ねえねえ。早く行こう。」
「ああ、すまない。」
私は慌てて彼についていく。
長い廊下を音を立ててゆっくりと歩いていると、彼が突然立ち止まった。そして、横にある部屋を開く。
「二人の部屋はここだよ。」
彼は寝室の扉を開いて言った。
「おい! 今二人の部屋と言ったが、まさか二人で一緒の部屋を使うのではあるまいな。断固として拒否するぞ。」
彼は私の顔を見てニコッと笑った。
いたずらが成功して喜んでいるときのような顔だった。
「ほらほら、二人とも早く中に入って。」
「同じ部屋なんて嫌に決まっているだろ。そうは思わないか、琉人?」
私は助けを求めて琉人を見た。
「……時間の無駄だ。行くぞ。」
私の必死の抵抗はむなしく、私は琉人に引っ張られて部屋の中に入る。
このようなことになった張本人は引っ張られる私を見て、楽しそうに手を振っている。
うぅ。くやしい。なんだか騙された気がする。
中に入ると琉人が鍵を閉める。きっとあいつが中に入ってこないようにしたのだろう。
「一応言っておくが、布団はしっかりと離すからな。」
琉人は何も言わずに虚空を見つめていた。
「聞いているのか?」
「……おい。」
突然、琉人がいった。
「なんだ?」
私は少しふくめっつらになりながら答えた。
「あいつとあまり関わらない方がいい。」
「なぜだ?」
確かに少し不気味ではあるが、まだ実害はないだろう。
「さっきの壁にあった弾痕を見ただろ? あれは……俺の母が撃たれた時の弾だ。」
「……何⁉」
「隠れ家があると言われてついていったら、そこがたまたま母が撃たれた場所だった。そして、あいつは七年ぶりと言っていただろ。……七年前は、俺の母が死んだ年だ。こんな偶然あると思うか? どう考えても怪しい。」
「じゃあ、あいつが琉人の母親の死に関わっているかもしれないということか。」
「ああ。まだ確証はないが。……綾、あいつにうまい具合に探りをいれてくれないか。何か有益な情報を搾り取れるかもしれない。」
「おい、さっきあいつには関わらない方がいいといっていただろ。矛盾しているぞ。」
「ああ、だから、あいつに話しかけず、部屋の中でじっくりと情報を入手してくれ。」
「おい、それは不可能だろう。危険だから外に出るなと言っているようなものだぞ。」
「ああ、そういうことだ。」
「はぁ⁉ どういうことだ?」
「とにかく、お前はあいつと関わるな。向こうから近づいてきたときは仕方がないから情報を探っておいてくれ。」
「おい、さっきから私がやることばかり話しているが、お前がやればいいだろう。」
「俺は無理だ。今から仕事に出るからな。」
「ハァ⁉ 仕事とはなんだ?」
すると、琉人は呆れた顔してこっちを見た。
「食料を買うにも部屋を借りるにも金が必要だろ。今から近くの街に行って適当な仕事を探してくる。お前は部屋から出ずにじっとしてろ。あと、俺が外にいることはあいつには言うなよ。お前は早く布団に入ってじっとしてろ。」
「ハァ⁉」
そんなことを言っている間に琉人は窓から飛び降りて走っていく。
「おい⁉」
琉人は建物と建物の上を走っていく。
少ししたら、影も形も見えなくなった。
「何がなんだか……。」私は琉人に言われた通り布団の中に入ってじっとした。
「寒い……。」一人で入る布団はすごく寒かった。
私は隣に置いてあった枕をぎゅっと抱きしめて眠りについた。




