一日遅れのメリークリスマス
柔らかい朝日に照らされて、白髪の老人は目を覚ました、空気は冷たく、布団から出るのを何度もためらいながら、冷たい地面を歩いて、支度をする。
「あー寒、布団の温もりが恋しいです。」
髪と長い髭を整え、赤い服とズボンをはき、赤い帽子を被れば完成、支度は完璧に整えられた。
今日は一年に一度の大仕事、この日の為だけに今まで頑張って来たと言っても過言ではない、失敗しないように、昨日のうちにプレゼントの用意も終わらせ、ソリにも乗せた、届け先の住所も確認し、下見にも行った、後は夜になるのを待って、出発するだけ。
「完璧だ、完璧すぎる。これで口うるさいトナカイに文句を言われることもない。」
窓から見える一面の銀世界、誰も足を踏み入れていないからこそ、より美しい。窓からの景色を見つめつつ、暖炉のそばの椅子に腰を掛け、ココアをすする、優雅な一時に浸っている時、その静けさをぶち壊す様な、ドカドカという足音が聞こえてくる。足音は大きくなり、ドアの前で一度止まり、次の瞬間今まで聴いたことの無い破壊音と共に、ドアが粉々に砕け散った。
「よぉ、老いぼれサンタ、てめぇ何ガキみたいにココア飲んでるんだ、あぁっ。」
サンタと呼ばれた白髭の老人は、一つため息を付き、ココアをテーブルの上に置き、今にも暴れだしそうな、極悪の顔をしたトナカイを見て、またため息をした。
「まったく君はいつもこうだ、その乱暴な言葉遣いと、何でもかんでも壊したがる、破壊衝動は改めるべきだよ、ちゃんとドアは直して置くように。」
誰が見ても分れほどトナカイの機嫌は悪化していた、その怒りの矛先が物ではなく、サンタに向くのではないか、というほどの威嚇をしていた、だがその事に気付いているのか、気付いていないのか、態度はさっきからまったく変わっていない、それもトナカイの怒りを頂点へと到達させようとしている原因の一つだ。
「相変わらずてめぇは嫌いなんだよ、用件は一つだ、今日は何日か分かってるんだろうな。」
サンタは少し誇らしげに、髭を摩りながらニヤニヤとトナカイを見た。完璧な支度をし、何処にも責められる所が無いと、確信していたからだ。
「もちろん、二十五日だ。」
「やっぱりお前はバカで、アホだ。」
今度ため息を付いたのはトナカイの方だった、肩を落とし落胆する様子に、サンタは疑問に思いつつも、気に入らない態度だったのか、眉をひそめ、態度も言動も少しきつくなった。
「何なんだい、その態度は。言いたいことがあるならはっきりと言いなさい、失礼だろう。」
トナカイの目は、サンタを哀れんだ目で見ていた。
「今日は二十六日だ。」
「そうだもちろん二十六日だ・・・・・・そう二十六・・・・・・にち。」
全身の血の気が引いた、今日は26日クリスマスはもう終わっている。
「どーすんだ、プレゼント。」
クリスマスプレゼントは、クリスマスに届けなくては意味が無い、一日前は許される事はあっても、一日遅れは許されない、今までを見ても例が無いため、どのような処分になるかも分からない。だがサンタの心はもう決まっているようだった、さっきまでの穏やかな雰囲気とは違い、テキパキと動き始める。
「どうするんだ。」
「私の失態です、処分は甘んじて受けましょう、ですが・・・・・・それは子供たちには関係無い事です、例え一日遅れだろうが三日遅れだろうが、プレゼントはしっかりと届けます。」
トナカイは自分の立場を心配もしないで、ただひたすら子供達のことを思って支度しているサンタを、じっと見ていた、だがこの行動は、トナカイが想像していた通り、朝起きて倉庫にまだプレゼントがあった時は、心臓が止まりそうになったが、このサンタのだと分かって慌ててこの部屋に来た。
「まったくお前は、その責任感が無かったら俺は見捨ててるぞ。」
「来なくて良いですよ、クリスマスが終わったら、サンタとトナカイは長い休みに入るでしょう、あなたもそうでしょう、私一人で行きます、それにあなたは私の配属のトナカイではないでしょ。」
「バカが、トナカイの仕事なめるなよ。」
部屋の外には、サンタが用意してあったソリがあった、後はサンタが乗りトナカイがそのソリを引けば完璧だ。
「まったく、その顔と態度と同じように、性格も悪ければ良いのに、苦労しますねそのお人よしは。」
「悪かったな、誰のせいだと思ってんだ。」
「褒めたつもりなんですけどね、ありがとうございます、さっそく行きましょうか。」
そう言いサンタがソリに乗ると、トナカイは壁を壊して、外へと飛び出した。
「相変わらずの力技ですね。」
「うるせー。」
その後、プレゼントはちゃんと子供たちのもとへ届けられました、プレゼントと共にサンタさんと、トナカイからの、遅くなってごめんねメッセージが添えられて。
子供達が許したかどうかは分かりません、人それぞれですから、ちなみに、このサンタさんは首は間逃れました、始末書は大量に書きましたが・・・・・・。