2-2 デカい男
趣味は散歩です。
新学期に新しいクラスで自己紹介をする時にそう言うと、必ず小さなどよめきが起こる。
犬を飼っているのかと訊かれる。いいえと答えると、どこからかクスクスと笑い声が聞こえる。
同じ道順を行くにしても、ランニングと言う者に対しては、別のどよめきが起こる。
前者は嘲笑、後者は尊敬。
生活の為にアルバイトをした。
一応学校では禁止だけど、特別に許可を貰ってファミリーレストランの裏方でひたすら皿を洗ったり、本屋の倉庫で返品の本を箱詰めしたり。
それを知って、俺の父親だと名乗る男が振り込む額を増やしてくれた。高校生は学業に専念すべきだ、と。
余計なお世話だ。
アルバイトの帰りにぶらぶらと公園を歩く。場所を選ばない趣味ではあるけど、やっぱり人込みではなく、人通りの少ない場所が良い。
公園の中央のベンチに座り、日が暮れるまで空を見上げる。
日が落ちたらまたぶらりと家へと戻る。
そんな日の繰り返しだった。
運命の出逢いは、衝撃ではなく、実は胡散臭かった。
久し振りに本でも読もうと思って図書館に行った時の事だった。
目的もなく書棚の間を歩いていると、ふと視線を感じた。
普段それ程敏感なわけではないけれど、確かに見られている、とその時感じたのだ。
首を巡らせてみても、該当する視線は見付からない。
歩く。視線も付いてくる。振り返る。誰も見ていない。
後頭部に手を当てて視線を遮ってみる。勿論そんなもので遮れるものではないのだけど。
考えた末、滅多に人通りがない医学書のコーナーに足を踏み入れてみた。
目に付いた本を手に取って開き、視線は左右を伺う。誰も追いかけてくる気配はない。
気のせいだったのか、と本を閉じたその時、書棚の陰にふっと人影が現れた。
瞬間視線がぶつかり、相手は驚きの表情を浮かべた。角を曲がった途端に視線が合うとは思ってなかった、という印象。
コイツか。
間違いなくこの視線だと思った。
相手は目を泳がせ、そのまま通り過ぎる事も出来ず、俺の居る方へと歩いて来た。この棚に用事があるんだという振りをしている様だけど、まさかそんな風には見えないぎこちない動き。
俺は持っていた医学書を棚に戻し、別の棚に移動する。
微かに腕が当たり、小さく会釈して擦れ違う。
デカイ男。
思わず口から出そうになった言葉はソレだった。
過去もてた覚えはない。女にも、まして男にもストーカーをされる覚えはないのだけど。
本棚の角を曲がる時、ふと振り返ると、相手も振り返っていた。
再度視線がぶつかる。
何故か解らないけど、胸が、ざわざわした。
お読み頂き有難うございました。




