3-5 スタート地点
血が欲しい、と言ったのは秋だった。
「もしもう一度会えたら、絶対如月の血を吸ってやろうと思ってたんだ」
血を吸われるという体験は、もういつの事だったのか忘れてしまった。一瞬怯んだ俺に、秋は微笑む。
お前と同じなんだって証明したいんだ、と言う。
別れた時から何も変わらない姿で俺の目の前に現れて、同じじゃない訳がない。
でも彼が俺の血を吸う事は、今後の俺達の「未来」を示しているかの様に思われた。
俺は彼の要求を受ける。
少し身を屈めると、彼は背伸びをして首筋に近付く。
ふっと息が掛かり、俺の身体は無意識に力が入ってしまう。
いつも自分がしている事を人にされるというのは、何とも不思議な感覚。かなり緊張した。
ちくんと、ほんの少しだけ首筋に走る痛み。
目を閉じ、その痛みに意識を集中させる。
今度は本当に彼を離さなくて良いのだと、考えながら。
「人に吸われる感想はどう」
俺から離れ、秋は微笑う。血の滲む唇を舐め、下唇を少し噛んだ。その可愛い仕草を見て、何だかとても照れ臭さを感じた。
どうしたのと訊く秋に、言う。
まだ信じられないよ、と。
秋が右手を差し出した。俺はそれに左手の指を絡める。
手を繋ぎ、寄り添い、歩き始める。
秋が言った。
もう過去を見ないで良いね、と。
「俺はずっと過去を見てた。永遠は手にしても、如月が居ないと、未来なんてなかったから」
首を傾げる様にして、俺を覗き込む。優しい微笑み。
「俺も。あの日秋と別れた時から、ずっと時間が止まってた様に思うよ」
言って顔を寄せる。彼は瞳を閉じる。
俺達は永い時間を経て、やっと本当の意味で気持ちを一つにした。
キスは、少し血の味がした。
「どこに行く?」
独りの時は、誰かの記憶に残るのが怖くて。誰かと関わるのが怖くて、歩き続けていた様に思う。
でも秋が傍に居るなら、立ち止まってゆっくり景色を見渡すのも良いと思うのだけど。
「そうだね」
秋は俺の肩にコツンと頭を当てる。
「全国津々浦々」
「本気?」
「勿論」
繋いでいた手にぎゅっと力が込められる。
「時間はたっぷりあるんだから。俺を独りにした埋め合わせをして貰うよ」
「うん」
俺は秋の手を握り返す。
「色んな景色を、これからは全部二人で見よう」
北から行くか、南から行くか。
どの街に行った、どの街が良かった。
そしてどれだけ会いたかったか。
ぽつりぽつりと話し、微笑み合う。
夢の中に居るのではないかとたまに疑うと、握っている手に力を込める。
温かな手が応える様に握り返してくる。
彼と初めて出逢ったこの街で、又彼と巡り逢った。
結局この街で会えるのなら、探し回らなければ良かったと秋は言う。
再会出来た今だから言える事だけど、と前置きしてから秋に「永い間会えなかった分、感動も大きかっただろ」と言うと、「再会出来ると思ってなかった奴がよく言うよ」と苦笑された。
繋いでいた手を引き寄せ、彼の手の甲に唇を当てる。
言うと気障なので、口にはしない。
もう離さないよと心で呟く。
唇を離し秋を見ると、秋はそのまま俺の手を引き寄せ、目を閉じて同じ様に俺の手の甲に口付けした。
離れないよ、と秋は言った。
そして俺達は、秋のリクエストで北へと向かう。
どこという目的はない。
出逢ったその場所をスタート地点に。
ただ二人で、永遠に。
俺達は旅立つ。
完
随分前に同人誌を発行したものに、加筆・修正をして今回掲載させて頂きました。
三部構成で、それぞれの間に時間の経過がありますが、
極力新旧を大きく感じさせない様にはしてあります。
(さすがに公衆電話とスマートフォンとか、ポケットに小銭と電子決済とかを
比較して時代を描くのは、視覚的負担(謎)が大きくて…)
主人公を男女ではなく同性で考えるようになった初期の作品なので、
思い入れがあり、今回こういう形で掲載出来てとても嬉しく思っています。
ちなみにタイトルに関して、
「Everlasting」の後には、Dreamだったり、WayやLife、そしてLoveなど
続けたい単語が選べなかったので、「...」で表現することにしました。
同人誌には絵師様に描いて頂いた小ネタの漫画が載っていました。
それをいつかショートストーリーとして掲載出来ればと思っています。
お読み頂き、有難うございました。




