3-1 終わりは本当にないのか
秋の風が吹いている。
年々上昇する夏の気温もこの数日でやっと和らいだのか、道行く人達の服装に変化が見られる。色合いも随分と柔らかくなった様に思う。
大きく溜息を吐き、空を見上げる。いつの間にか空も雲も遠くなった。
怖い位にオレンジの空が頭上に広がっている。
夕焼けは嫌いだ。嫌でもあの日の事を思い出す。
ずっと人の記憶に留まらない様に生きて来たのに。
数日間しか過ごしていないのに、離せなくなってしまった大切な人を思い出してしまう。
唯一共に生きたいと切に願った人。
終わりは本当にないのか、自分でも解らない。
ただ気が遠くなる程の時間を独りで歩んで来ると、永遠に傍に居て欲しいと願う気持ちと、永遠の孤独を彼にまで強いる事は出来ないという気持ちが反発した。
愛しているからこそ、彼には限りある時間を過ごして欲しかった。
あの頃、彼は十八年しか生きていなかった。
人の一生の内、一番幸せな時期がいつなのかは、本人次第だと思う。
彼は「今が一番幸せ」と言った。そしてずっと傍に居たい、と言ってくれた。
一度はその手を取った。本当の意味で「生きて」いけると思った。けれどある時、ふと怖くなった。
いつか彼にも悔やむ時が訪れるのではないだろうか。
何故あの時永遠を手にしたのかと、苦悩する日が来るのではないだろうか、と。
彼の為に、というのはただの言い訳だと解っている。
自分が怖いから手を離したんだろうと言われたらその通りだと答えるしかない。
でも限りある時間の中では、あの出逢いはほんの一瞬の夢に過ぎない。
結婚し子を生し、人は記憶を少しずつ削ってゆく。
「どこにも行くな」と言ったのに目が覚めたら居なくなっていたという裏切りは、もうとっくに彼の記憶の奥底に封印されているだろう。
もしかしたら記憶だけでなく、その記憶を保有する彼自身が、もう、この世には居ないのかもしれない。
そんなことを考えては無性に不安になり、あれは間違いではなかったと自分に言い聞かせて、ただ流れていく時を過ごしていた。




