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Everlasting...  作者: たけうちなる


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1-2 間の抜けた質問

 

 大欠伸をする。

 勉強のし過ぎじゃないのかとクラスメイトに揶揄われ、その通りだと言っておく。普通は謙遜するものだと言われて、冗談だよと笑う。


 実際勉強をする為に遅く迄眠らずに居たのは事実。でも先日異様なものを目にして以来、それが目に焼き付いて勉強が手に付かない。


 勉強に集中しようにも、気を抜くとあの夜のことを思い出し、あれは何だったんだろうと考えてばかり。

 人に話すにも、余りにも突飛過ぎて「ノイローゼじゃないのか」と言われるのが関の山だと思い、自分の胸に仕舞っておくしかない。


 そんなこんなでこの一週間で、塾のテストの点がぐんと下がった。

 勉強勉強とそれ程言われているわけではないけれど、これからが追い込みの時期なのに急激に成績が下がった所為か、母親に何があったのだと大層嘆かれた。

  中学、高校迄はともかく、最終学歴になる大学はイイトコロに行って欲しいという願いを叶えるのも、親孝行の一つだと言われた。



 どこに居てもあの光景が頭から離れない事に変わりはないけど、それでも家で一人で閉じこもるよりは気分が切り替わるだろうと思い、自転車で図書館へ向かう。


 秋の風が気持ち良い。

 最高の運動会日和だなあと思いながら、木の生い茂る公園を通り抜けようと道を曲がる。

 子連れで散歩に来ている人、ランニングをする人、木陰で見詰め合うカップル。

 そんな人達を横目に自転車を走らせる。遊歩道沿いには等間隔にベンチが置いてあり、それを視界に入れながら軽快にペダルを踏む。


 ……と。

 一つのベンチを通り過ぎ掛けた時、胸がどきんと高鳴った。

 目の端に黒いコートが映り、無意識にブレーキを思いっ切り握っていた。

 スピンするかの様にタイヤが鳴り、道から九十度曲がった格好で停止。転倒するのではないかと思ったので、ペダルから足を下した時は、黒いコートを目にした瞬間以上に鼓動が早くなっていた。

 息を吐きゆっくり視線を上げると、ベンチにはあの夜に見た、あの男の人が座っていた。



 その人は、ゆっくりこちらに視線を向け、微笑んだ。

 どうしろと言うのだ。通り過ぎ様に急ブレーキをかけて、スピン状態で止まってしまったのだ。まさか何事も無かったかの様に、自転車の向きを変えて走り去るわけにもいくまい。

 固まっていた俺に、その人は「やあ」と小さく手を上げた。


 自転車の向きを変え、押しながら彼の方へと向かう。

「こん、にちは」

 恐る恐る声を掛けると、にっこりと微笑み、こんにちはと丁寧に返して来る。

「えっと」

 条件反射でブレーキをかけてしまっただけで、別に話があるから止まった訳ではないのだ。こういう時、何を言えば良いのか解らない。


 自転車を支えたまま俯く俺に、彼は隣どうぞ、とベンチの端へと身体を動かす。

 ほんの一瞬迷ったけれど、自転車を止め、失礼しますと言いながら彼の隣へ腰掛ける。

 ………緊張。

 何か話すべきなんだろうけど、何を話したら良いのか解らない。

「良い天気ですね」

 なんてどうしようもないお決まりの台詞が口から勝手に飛び出す。彼がくっと小さく笑う。

「大丈夫。襲い掛かったりしないから、安心して」

 こちらを向いた気配があり、どきどきしながら彼の方を向くと、やはりこちらを向いて微笑んでいた。

 視線がぶつかり、どきりとして慌てて首を元の位置に戻す。

 その時初めて、この人意外と小さい、と気付く。あの時はそんな風には思わなかったけど、意外と小柄。それに優しい瞳。

 あの時は、冷めた視線に思えたのに。


「怖い?」

 微笑を絶やさず、彼が訊く。

「いえ、その」

 怖い、のではないと思う。確かに自分とは違う何かを感じるけど、血を吸われたらどうしようと焦ったりするのではなく、何だか解らないけど、とにかく緊張してしまう。

「誰かに、言った?」

「いえ」

「何故」

「だって」

 信じて貰えないから、と言うと、彼はやっぱりねと笑う。

 膝の上に置いた手に注いでいた視線を、もう一度彼に戻す。

 そう、怖くなんかない。それどころか、綺麗だと思うのだ。この男性を。


「見られたのは驚いたけど」

 彼は視線を前方に移す。前に広がる並木道を見ているのではない。もっとどこか遠くを見ている気がする。

「言いふらされたら困るけど、君は大丈夫かなって。意味もなくそう感じたんだ」

 そして彼は思い出し笑いをするかの様に、くすっと笑い俯く。そして俯いたまま、何か質問は、と訊いて来る。


 あの日の、あの夜の。あの女性。

 彼の言葉に従い、でも彼の事を認識していないかの様な、夢を見ている様な表情だった。

 あんな風に記憶が曖昧になる術があるのかもしれない。

 俺もそんな風にされるのかも。

 それより本当に血を吸っていたのだろうか。


 頭の中をぐるぐると訊いてみたい事柄が回る。けど言葉にするのはストレート過ぎて難しい。

「質問コーナーは今日一日限り」

 よいしょ、と彼は立ち上がる。

 両手を上げて伸びをし、こちらを振り返る。

 もう一度、何か質問は、と繰り返す。


 俺は。

 吸血鬼なんですか、と。我ながら直球だと思いながらも訊くつもりだったのに。

 口から出た言葉は、

「あなたの名前が知りたいです」

 という間の抜けた質問だった。


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