2-13 当然の成り行き
ずっと傍に居るという言葉を交わしたからと言って、すぐに血をくれるわけではなかった。
彼は何度も俺に問いかけた。
この身体になったら時間が止まってしまう。本当に良いのか。本当に後悔しないのか。
その問いに対し、俺は返す。ずるいと思いながらも。
俺が同じになったら、如月は困るの。傍に居たら迷惑に思う時が来ると思う。
そんな事は絶対ない、と彼は言う。それはお前の方だろうと返されて、俺だってそんな事は絶対ない、と答える。
心の準備期間が要るだろうから、と言って、如月はその儀式を中々実行しようとしなかった。
やはり嫌なのだろうか、とたまに心配になるけど、そんな事はない。
「血が欲しい、血が欲しいと目で訴えかけたら、相手が催眠術にでも掛かるみたい」
などと血の吸い方をレクチャーしてくれたりするのだ。
でも俺は内心焦っていた。
傍に居るのに、不安になる。
ある日居なくなってしまうのではないかという不安。
だから早く彼と同じになってしまいたい。そうすればこの不安から抜け出せる。
学校も、父親と名乗る男の事も。何もかもがどうでも良かった。
今後どうするかなんて考えない。如月が傍に居てくれる事。
どうしてこんなに執着しているのか、自分でも不思議に思う程に、頭の中は如月でいっぱいだった。
如月は週に一、二度、俺の血を欲しがる。本当は二週間に一度でも平気な時もあるらしいけど、
「秋の血は最高だから」
言っては、欲しい欲しいとせがむ。
首元を緩めて、彼が吸いやすいように、首を傾げる。
さすがに貧血になる程吸われる事は、あれ以来無い。ちくりと走る痛みも、求められる幸せの一環だと思う。
シチュエーションは様々だった。
学校から帰宅するなり言われる事もあったし、キッチンに立っている時急に、という事だってあった。
その日はたまたまベットに腰を掛けていた。
彼に血を吸われた後、襟を正そうとした時、彼の視線に気付いて、手を止めた。
「何」
「今ので、最後」
言葉の意味が解らず、怪訝な顔をする俺に、
「秋から血を貰うのは、最後」
彼は、そう言った。
「それって」
どきんと心臓が鳴る。彼の手が俺の頬に伸びる。
「まあ、同じになっても血の味は変わらないから」
最後じゃないかな、と彼は笑う。
本当に? と見詰める俺に、如月は頷く。
ずっと傍に居てくれるんだね、と声が震えた。
彼はもう一度頷いた。
俺は、それを信じた。連れて行ってくれるんだ、と。本当に幸せを感じた。
後々、彼の「血を貰うのは最後」という言葉だけが真実だったと知る事になる。
でもその時は嬉しくて、幸せで。
彼に飛びついてキスを交わした。好きだ、と何度も何度も言った。
どちらからともなくベットに横になり、当然の成り行きとして俺たちは肌を重ねた。
当たり前だけど初めて男を受け入れる俺は、血を吸われる時の何十倍も緊張し、そして痛みに耐えた。
如月は、優しかった。
熱い熱い砂漠の中に居る様な息苦しさ。
「秋」
如月の呼ぶ声がして、重い目蓋を開く。
「大丈夫か」
言葉にならず、首を左右に振る。熱くて熱くて死にそうだった。
ただの知恵熱だよ、と呟く。
優しく額を撫でられた。布団から手を出すと、如月が手を握ってくれた。
寝込んでる場合じゃないのに。
やっと如月がその気になったのに。
そう思いながら、俺は手を握られた事に安心し、眠りに落ちた。
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