2-12 俺の傍に居てよ
如月を受け入れてから、俺は変わった。
如月も変わった。
嘘か本当か解らないような、茶化した返答が無くなった。
にっこり笑うのではなく、穏やかに口元を緩める笑みを見せるようになった。
俺は学校へ行く。その間彼が何をしているのかは訊いていない。でも下校の時には必ず現れて、一緒に買い物をして一緒に俺の家に帰る。
不意にキスをされたり、俺の方がそっと彼の手を握る事もあった。
自分でも信じられないくらいに、そういうほんの少しの触れ合いが嬉しかった。
血も、拒む事はない。
俺を求めてくれる事が嬉しかった。
彼はあの日の事を何度も口にした。喉の渇きが押さえられなくて理性を失ってしまった、とすまなそうに何度も言う。
「ああやって、有無を言わせない状態でさっさと吸ってしまえば楽じゃない」
さらりと言う俺に、彼が目を泳がせて言った言葉。
「ストーカーやってる間に、惚れちゃったみたい」
随分笑ってしまい、彼は長い間拗ねていた。彼は俺を想う事により、他の血を絶っていたのだそうな。
「どうしても秋の血が欲しいからその願掛けと。何て言うか、浮気したくなかったから」
俺の気持ちが如月に向いているかなんて知りもしなかったくせに、如月はそんな事を言った。
俺は素直に、嬉しかった。
手を握る。寄り添う。キスをする。如月が傍に居る。
小学生や中学生の頃に、密かに想う子は居た。でも想いを告げた事は無かったし、告げようと思った事もなかった。
全てを曝け出せない上辺だけの友達と、俺を育てる為に一生懸命な母親。
俺の周りに居るのはその二種類の人間だけだった。
如月の様な存在は、今迄に居た事がない。
母親以外に俺を真っ直ぐに見て、好きだと言ってくれる人は居なかった。
初めての経験だから溺れているんだと、そんな風に言われたくはない。
並んで座り、彼にもたれ掛かる。こんなに近くに居るのに、涙が出そうになるくらい切ない。
この気持ちはそんな風に片付けられるものではないんだ。
「如月と同じになれないかな」
彼の耳に届かなければ、流してしまおうとした呟きだった。
え、とこちらを振り向いた彼の瞳は、驚きと恐れが入り混じっていた。
「冗談じゃないよ」
「秋」
「居なくなってしまいそうな気がする」
如月の手を取る。両手で彼の手を包む。
「俺には、誰も居ないから」
ぴくんと、俺の手の中で、如月の手が動く。如月しか居ないんだと言葉を続ける。
「俺の傍に居てよ」
長い間があった。
言うべきではなかったのかと、後悔し出した時、彼の身体が動いた。
空いている手でテレビを消す。部屋が静寂に包まれる。
俺の手の中にあった如月の手が動き、俺の手を握る。
はっとして振り仰ぐと、俺を見下ろした如月の口が動いた。
血を、と。
「血?」
飲みたいのかと思った。でもそれは違った。
如月は一瞬目を逸らし、顔を歪めた。迷っているのは明かだった。
「言って」
握り締める手に力を込める。飲むんだ。唇を見ていないと解らない程の、小さな擦れた声。
「誰が」
「秋が」
「誰の」
「俺、の」
「血を?」
如月は頷く。俺はそうだったから。如月はそう続けた。
俺の中に迷いは無かった。即座に言った。飲むよ、と。
手を放し、彼の首へと腕を回す。ぎゅっと抱き付くと、背中に彼の腕が回された。
「ずっと傍に居る」
お互いの声が重なって、相性ピッタリ、と二人で微笑み合った。
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