2-8 信じてるの?
学校帰りに公園へ行き、如月と話し、夕焼けを見ては家に帰る。
そんな日が続く。
如月のどこまで本当か解らない話に、思わず笑ってしまう。
いつの間にか彼に気を許していると気付く。以前感じた「騙されている」という印象は自然と消えてしまった。
実際騙し続けていたとしても、久し振りに笑い、楽しい時間を過ごせているから良いのではないか、と思うようになっていた。
如月は、初めて会った時以降、「血を吸わせて欲しい」とは一言も言わなかった。
ただベンチに座り「吸血鬼」の話や、ちょっとした日常会話をして、じゃあと別れる毎日。
でもそれで良いのだろうか、とこちらの方が少し心配になる。
俺の血を吸う為に毎日会っているのではないのか?
催促もしないで、ただ一緒に居るだけで良いのだろうか。
こちらから率先して「そろそろどうぞ」と言わなければならないのか。欲しかったら欲しいって言えよ、等と思う。
別に血を吸って欲しいわけではない。命を取られる訳じゃないのは解っているけど、やはり心のどこかで怯む自分が居る。
でも「俺は吸血鬼なんだ」と言い続けるのであれば、それを証明して貰いたいという矛盾した気持ちもあるのだ。
正直なところ。
その日、如月は溜息が多かった。
ベンチに深く身体を埋め、溜息を吐いては瞳を閉じる。
「体調悪いの」
「うん、そんなとこ」
瞳を閉じたまま、答えが返って来る。
吸血鬼は病気なんかしないんだろうか。体調が悪いってどんな時だろう。
そう考えていて。
「血を吸ったら、元気になるの」
思わず口からそんな言葉が漏れて、ハッとして俺を見た如月以上に、自分自身に驚いた。
意識して口にした言葉ではなかった。まさか自分から口火を切る事になるとは思わなくて、俺は、余計な事を言った、と視線を逸らす。
如月は身体を起こし、座り直した。
前屈みになり膝に肘を置く。手で顔を覆い、そのまま髪を掻き揚げる。
「信じてるの?」
その言葉に少し意地悪な響きを感じて、俺はむっとして彼を見る。如月は今までに見た事がない表情で俺を見返していた。
苦しそうだ、と思った。少し眉間に皺が寄り、いつもの陽気な彼からは想像もつかない憂いを帯びた瞳。
「それは」
言葉に詰まった。どう答えれば良いものか。
きっと本当だと思う反面、信じてると言い切る自信はなかったから。
数秒間の沈黙の後、
「元気になるよ」
低い声が、耳元でした。
その近さに驚いて振り向くと、俺の耳に触れそうな程近く唇を寄せ、彼は微笑んでいた。
その妖しい笑みに、俺は確信を得る。
彼は。彼は本当に。
「秋」
如月の手が伸びて来る。ゾクリとして思わず立ち上がる。
一瞬心の奥に生じた恐怖。
如月がゆらりと立ち上がり、俺の顔に向けて手を伸ばす。
伸ばした手が俺の頬を掴んだ。ぐいとその手に力が入り、俺は上を向かされる。
「き」
氷の様に冷たい手。
視線が絡む。
彼の目を見た途端、射られた、と思った。
頭の中の何かが凍ってしまったかの様に。
思考が、凍る。
如月の顔から視線が動かせない。変色する彼の瞳。
彼は本当に吸血鬼なんだ、と凍る意識の中で俺はぼんやりと思っていた。
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