2-7 独り者同士
如月はその日から(正確にはその次の日から)俺の事を「アキ」と呼ぶようになった。
学校では苗字でしか呼ばれないし、母親は「シュウちゃん」と呼んでいたので、何だかとてもくすぐったい気持ちだった。
でも念の為と思い、
「俺、ハジメって名前じゃないよ」
と言ってみる。如月は解ってる解ってるってと手をひらひらさせる。
まさかなあと思って、アキカズでもないからね、と念押ししたら、如月は笑顔を凍りつかせて「え」と止まってしまった。
つまり彼が俺を「アキ」を呼ぶのは「アキカズ」だと思ったからという訳だ。
「昨日からもうすっかりアキカズだと思って、流れ星探してはアキが血をくれますようにってお祈りしてたのにっ」
「……まあ、別に好きに呼んでくれたら良いけどさ」
苦笑して言いながら、そう呼ばれるのも悪くないと思う自分が居る。
彼は冗談ばかりだ。
いや、真実を言っているのかもしれないけど、どこまで本当の事を話してくれているのか、今ひとつ読み取れないところがある。
それでも彼が傍に居ることを受け入れてしまうのは、全てが嘘ではないと感じるからだ。
烏帽子を被っていたという話を全面的に信じるわけじゃない。
でも彼は多分独りなんだろう、と思う。
背が高くて目を引くし、明るくて適度に洒落を言える社交性もある。
そんな彼が、夕方の公園で高校生とぼんやりベンチに腰を掛けているなんて、やはりどこか人とは相容れない昏い部分があるのではないか、と思うのだ。
そして。俺も、独り。
俺には誰も居ない。お前にも誰も居ない。では誰も居ない者同士で仲良くやろう。と。
そんな風に馴れ合いたいわけではないけど、お互い独り者同士だと、気を遣わなくて良いと心のどこかで思ってしまうのか、何だか一緒に居るのがとても楽だった。
一日に一回、試しに如月の過去を訊く。
何をしていた。
以前はどこに居た。
吸血鬼の友達は居ないの。
海外には行ったが事はあるの。
「俺、パスポートなんて持ってないから」
如月は言う。
「昔は船蔵に隠れたら行けたらしいけど、試した事はないんだ」
「ふーん。じゃあ、トマトジュースは好き?」
「はい?」
「吸血鬼って、血の代わりにトマトジュースを飲むっていうのは、定番じゃないの?」
「ノミマセン」
「……血だけでそんなに大きくなるの」
横目で見る俺に、大きくなったのはこんな身体になる前だと思うよ、と苦笑する。
「じゃあ、俺が吸血鬼になったら、このまま?」
「そう、小さいまま」
「……」
「……あっ。コンパクトで良いと思うよ」
「うるさいよ」
お前がでか過ぎるんだよ、と呟く。好きで一六五センチで成長を止めたわけではないのだ。
彼は「普通にご飯も食べマス」と、小さくなって言った。
燃費悪いんだねと嫌味を言っておいた。
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