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Everlasting...  作者: たけうちなる


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12/26

2-6 テレビの観過ぎだよ


「八百比丘尼と友達だった」

 如月は笑いながら言った。

 あ、そ。と俺は言う。

 烏帽子被った事もあるし、実は蹴鞠が得意でさ、と彼は楽し気に話す。

「烏帽子なんか被ったら二メートル越して不気味なんじゃないの」

 適当に交わしてやろうとする俺に、

「そうそう、鴨居によくぶつかってさ」

 手をひらひらさせて苦笑する彼。あの頃は吸血鬼じゃなくて鬼と呼ばれていたな、と頷く。

 一体どういう反応を返せば良いのやら。



 又明日、と言われたからではない。別にもう一度会いたいと思ったわけでもなかった。

 朝登校する時に視線を感じ、振り返ると今度は隠れる事なく如月が居て、ひらひらと手を振っていた。

 その時俺は言ってしまったのだ。

「こそこそ見るのはやめて欲しい」

 言いたい事があるなら放課後昨日の場所に行くから付いてくるな、と。

 如月は素直に頷き、じゃあ放課後と言い残してさっさと背中を向けて去ってしまい、俺の方が取り残された気分になったわけなんだけど。

 そして約束したからと放課後我ながら律儀に公園に向かったら、中央のベンチに如月がキッチリ座っていたわけだ。


「大体、吸血鬼って言ったらルーマニアじゃないの」

「トランシルバニア? そんなぁ。俺のどこにそんな血が流れてるように見える?」

 人差し指を頬に当てて、ニッと笑顔を作る如月を横目で見て、俺は彼に会ってから数え切れない程に吐いた溜息を、又吐く。

「何でそんなに陽気なんだよ」

「君の隣に居ると嬉しくてつい」

「俺の『匂い』だろ」

「うんっ」

「……」


 詳しい説明は受けていない。

 彼は「どうだったかな、もう忘れた」と言うのだ。そういう設定を考えてないんだな、と内心思ってしまう。

 吸血鬼は長生き、なのだそうな。

 長生きというより永遠。自分に寿命があるのかも解らない。

 彼は独りで、数日に一回、「喉の渇き」を覚えた時に人の血を吸い、生きているのだと語る。


「で?」

「『で?』?」

「血を吸うのと長生き以外に、何が出来るわけ」

「何って」

「蝙蝠に変身するとか。超音波出して手下の蝙蝠を呼び集めるとか」

 素朴な疑問を口にした俺を、情けない表情で如月は見詰め返す。

「友達に狼男とかフランケンシュタインは居ないの?」

「……イマセン」

 彼はカクンとわざとらしい程に首を落とした。そして俯いたまま口を開く。

「百八十を越す身長の俺が、体長二十センチの蝙蝠に変身出来ると本当に思う?」

「出来ないの?」

「デキマセン」

 なあんだがっかり、と彼が俯いているのを良い事にこっそり舌を出す。

 それが見えていたのではないと思うけど、不意に彼は首を落としたままこちらを向いた。

 覗き込むような視線が妙に俺を落ち着かなくさせる。

 慌てて視線を外し、視線を遮る様に前髪に手をやる俺に、テレビの観過ぎだよ、という声が聞こえる。



 如月は生まれた時から吸血鬼だったのかという問いに、元は君と同じだったと言った。

 では誰かに吸血鬼にされたのだ。

 どういう経過でそういう体質になったのかと訊いたら、忘れた覚えてないを繰り返す。

 何年生きてるの、という質問に対しての答えが「烏帽子」と「八百比丘尼」である。


 この突拍子もない話が真実かどうかを見極めるのは至極簡単だ。

 俺が血をやると言えば良いのだ。

 俺の返事に対する彼の反応で、彼の本当の目的は明らかになるだろう。

 でも、その一言を言うのが怖いというのが本当のところ。

 恥ずかしい話、俺は、この話を半分信じてしまっている。

 馬鹿じゃないの、と思う反面、初対面でこんな作り話をする必要性を感じないからだ。

 話が本当で、俺が承諾した場合、彼は俺の血を吸うのだ。

 未知との遭遇というフレーズが頭を駆け巡り、消えて行く。

 献血だ、と思える様な簡単な行為には思えない。



 夕焼けを見上げながら俺は立ち上がる。

「帰る」

 又明日、と言い掛けて口を噤む。余りにも無防備にその言葉を吐きそうになった自分に驚いた。

 これでは懐かれているのではなく、俺の方が如月に懐いているみたいではないか。

「じゃあ」

 自分自身に戸惑い、そのまま彼に背を向けた時、あ、待ってという声が追いかけて来た。

 数歩歩いたところで足を止めた。一呼吸置いてから、ゆっくりと振り返る。


 如月はベンチに座ったまま、身を乗り出して、俺を見詰めていた。

 なに、と応える。

「名前、教えて」

 如月の微笑みに胸がざわめく。

 何だ、これは。

「知らないの?」

 俺の問いに如月は頷く。あれだけ付け回していたくせに、名前も知らないなんて。

 本当に匂いだけで寄って来たのか、という考えが沸き起こり、俺は軽く首を振る。


 彼に背を向ける。

 腕を上げ、人差し指を立てて空中に字を書く。

 秋一。

 簡単な文字だ。解っただろうと思い、そのまま足を踏み出した時、

「あき、はじめ?」

 と呟きが聞こえた。


 やっぱりただの馬鹿なのかもしれない……



お読み頂き有難うございました。


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