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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第三章 神獣激突

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其の九十九 太公望な猿と魚群単于

 


「…………疲れた」



 一步、二歩、クマの死体から離れる。



「ほんと…疲れた…」



 血溜まりから離れ、背を大地に寄り添える。



 快晴、空が綺麗だ。



 視界を邪魔する雲はなく、どこまでも蒼が澄み渡る。吹き抜ける風が無性に心地よい。



 急速に回復する体力だが、一方で、心地よい疲労感をも感じる。


「あぁ、眠い」




 ━━━━━━━━━━━━━



 時は流れ、気づけば夕暮れ。傾く太陽が世界を赤く染めていた。


「う〜…んっ!」


 あまりの心地よさにこのまま寝てしまいたいと思ったが、流石にまずいと飛び起きる。


 慌てて辺りを見渡すが、特に他の神獣は来ていないらしい。


「助かった…」


 見れば、クマの死骸が未だに何一つ変わること無くある。


「誰も食べに来てないのか…死体漁りする神獣はいない…のか?」


 それともたまたまか。


 ま、どっちでもいいだろう。わかったところで私にできることなんてないし。


「うーん。流石は神獣、近くで見るとまだまだ生きてるみたいな威圧感………生きてないよね!?」


 思わず距離を取ってしまったが特にそんなことはなく、動き出すこともなかった。


「ほっ…ヨカッタ、これ以上の戦いはもう無理だったし」


 なにせさっきまで妖力完全ゼロだったからね!今は少しだけ回復してるけど…日付が変わって妖力量がリセットされるまでは無理!


「妖力切れたらほとんど回復手段ないの厳しいって…」


 私もよくはわかってないのだけど、一度妖力についておさらいしておくこととする。


 妖力。言い換えれば世界への干渉力。その最大量は当人の存在格、つまりどれほど世界から認知されているかによる。


 存在格の上げ方はシンプル。目立てばいい。例えば強い敵を倒す。例えば世界初の試みをする。例えば世界的に知名度を上げる。やり方は複数ある。


 けれど、多くの場合は敵を倒すことで存在格を上げていくこととなる。なぜならそれが楽だから。


 でも一番楽なのは世界からの知名度が高い人の側にいること。魔王とか、勇者とか、神とか、国王とか。そういう有名人は基本いつでも世界から見られてるからね。


 何度も何度も犯罪してるやつがまた犯罪するだろうと思われるように、何度も何度も目立ってるやつはどうせまた目立つ行為するだろうと見張られてるってわけだ。だからそいつらの近くにいれば自然と目に止まる機会が増えて認知されやすくなったりする。


 ま、それは置いといて。


 私の場合は “龍” “転生者” “魔王” “精霊” “精霊の妻” “神の友達” “魔王の知り合い” “勇者の知り合い” “怠惰の迷宮攻略者” とかで見ちゃ認知されてる…と思う。


 あ、あと今回ので “神獣討伐者” とか。


 だから当然存在格も高くて、妖力は馬鹿みたいに多い。それこそ今まで尽きることがなかったくらいには。尽きる未来が見えなかったくらいには。


 だけどまぁ、今回は尽きたんだけどね?


 いやぁ、流石に使いすぎた。常時形態変化しつつ、自分に強化かけつつ、回復しつつ……まぁここらへんはいつも通りと言えばいつも通りなのだけど。


 アレね。〈精霊の遊び場〉がやばかった。


 支配下に置いた空間を何百何千に区画分けして好き勝手転移させるんだもん。そりゃあヤバイよ。転移自体がコスト重いもん。それをそんなバカスか使ってりゃそうなる。


 あと〈絶対領域〉。


 支配下に置いた空間内だけとは言え、実質自分の世界を作るわけだからね。オカシイくらいに妖力食うのよ。


 範囲極小で、時間かけて作って、大したルールつけてないのにコレだから。あれ一つで全妖力の2割は消し飛んだね。正直いつかやりたい魔王城の領域一帯全てを支配下に置くなんてこといつになったらできるのかって話。


 ま、気長にやるけども。あれ、というかそういう意味じゃここってすごい修行に適した場所だよね。だって確実に存在格を上げるのに効果的な“神獣”がうじゃうじゃいるもん。


 感覚的には倒すために空になってた妖力が全体の1割くらい回復してるからね。自然回復なんてほとんどないんだから実質1割分最大値が増えたってことよ。


 あ、そうそう。妖力の回復は魔力と違ってじわじわ回復するんじゃないんだよね。日付が変わるタイミングできっちりリセットされる。


 妖力は世界への干渉力だからね。一日ごとに最大使用量がリセットされます。最大値が途中で増えたらその分は補充されます。


 こういうのも悪くはないかな。実際私は今魔力を使えず困ってるわけで。どれだけ使おうがリセット全回復はありがたい。



 ま、そんなわけだから。


「おやすみなさい」


 すでに夜。良い子は寝る時間だ。ということで寝る。寝場所はさっき回復した妖力で生み出したシャベルで掘った穴の中。余った妖力は無くなるまで〈罠〉とかに変えといたから安心して眠れる…はず?




 ━━━━━━━━━━━━



「おはようございます」


 スッキリと目覚めた朝。天井は土だ。


 ちょっと力を込めて天井をパンチ。土が吹き飛んで光が差す。


「うん。いい天気」


 地上にでたらまずはストレッチ。土埃とかの汚れを落としつつ、体をほぐしていく。ついでに妖力量も確認。うん、最大値。


「さぁ!今日も元気に神獣狩り!」


 昨日の感じからして相性が悪くなければ一日一体は倒せるはず!倒せなかったら…全力で逃げる!全力なら…逃げれるよね?


「むむむ、できると信じてレッツゴー!」




 と、いうことで。本日の獲物が決まった。


 すぐそこで釣り糸を垂らしている猿である。


 ……神獣って何かしらの武器とかツール使えるのがデフォルトなの?


 熊は鉞。猿は釣り竿。鬼は銃。あれ、一人だけ系統おかしくない?


 ま、それは良いとして。まずはそうだなぁ。あの猿が敵かどうかから?


「ヘイユゥー!調子はどうだい!釣れてるかーぁああっ!?」


 声をかけた瞬間釣り竿がこちらに飛んできた。針には餌が何も付いていない。


「へ、へへ。餌なしで釣りするなんて、お茶目だなぁ!?」


 また、飛んできた。今度は顔面めがけて。ふむ。これ、もしかして…。


「キキッ!キキキッ!」


 うん。あの眼と声をみればわかる。お前を餌にして釣ってやるとか思ってるやつだ。


「川釣りって餌なしでも釣れるんじゃないのぉ!?」


 知らないけど!でも絶対人肉で釣れるもんでもないことはわかるよ!?


「いや、私龍だしなんか釣れる気もする…」


 ってちがーう!!


「私は餌じゃない!むしーろお前が餌!」


「キキッ!?」


 何を驚いてるのか。


「お前は私の経験値になるんだよぉ!」


「キキッ?キキキッ!」


 む、なんかムカつく。バカにされた感じして。


「よーし、私最初から本気出しちゃうぞー」


「キキ?」


「〈龍門開門〉!〈喰らい尽くせ、オロチ〉!」


 この前考えたオロチ。私の尻尾をヤマタノオロチみたくするのも考えたけど、それだと使いにくそうだからペット枠にした。門を開いて呼び出すイメージ。そしてついでに八岐どころか百岐くらい大量にしてみた。


「キ、キキキッ!?」


「ハーハッハッハ!そんな釣り竿で何匹釣れるかなぁ!?」


「キーキッキッ!」


 ウッソだろお前!


「門を、釣り上げるなぁ!?」


 あれ、これどうなんの?門は釣り上げられたけど、中からはまだまだオロチ出てきてるしこのまま物量で押し切れるの…で…は?


「そんなのあり〜!?」


「ウッキー!」


 門が消えた。というかよく見たらあの竿で釣られたオロチが消えてる。つまり、この猿の能力は…


「釣り上げた時点でアイツの所有物になる!?」


 ってことは…!?


「ウッッキッーー!!!」


「しょ、将棋かよぉぉおおお!?」


 猿の前に現れた門。そして、そこから当然のようにオロチがでてくる。



「ふ、ふふふ、ふざけた能力持ちやがって!許さん!」



 ………とは言ったものの。


「どうやって攻略する?」


 今まさにオロチとオロチがぶつかり合い、入れ食いとばかりにオロチが釣られていくのだが。


 ……その様はすごくムカつく!


 なんだよアイツの鳴き声。ウキウキキキキッて、バカにしてんのかって感じ!


「とりあえず、やってみてから考える!」


 まずは開幕挨拶と行こう。


咆哮(ロア)ッ!」


 殺意を込めた咆哮。純粋なエネルギー放出、これならば当たるだろう。倒すには威力が足らないだろうが。


 そう思っていたら。


「ウキッ?キー、キッキッ!」


 そんな浅知恵効きませーんとばかりに釣り竿で咆哮が釣られた。


「キキッ!」


 そんで返された。


「ムムッ…」


 一つ、思いついたことがある。


 返された咆哮、それを特に避けることもなく受ける。


「キキ?」


 それを見た猿が不思議そうにしているが、勘がいいな?


「プレゼント、今度は返却するなよ?」


「キキ?キッ!?」


 歪んだ空間、あらぬ場所へと向かい、戻ってきた咆哮が猿の背後に転移する。


「キッ、キィィーーー!!!!」


 釣り竿をぶん回し、地団駄を踏む猿。なんと気分がいいことだろうか。



 さて、倒し方はわかった。十分な火力を持った攻撃を〈精霊の遊び場〉、あるいは今見たく廉価版の〈精霊の悪戯〉によって複数回転移させ当てる。


 あとは十分な火力を出すだけだが…ちょうどいいのがあった。


「キキィ!!」


 先程までより怒りをにじませた声で釣り竿が迫る。そして、ついに向こうの龍門から出てきたオロチがこちらに迫りだした。


 むぅ。仕方ないことではある、さっき私は無制限に吐き出し続けるように〈龍門〉に設定したから。こちらは補充なし、向こうは物量無限ともなるとこれも致し方なし。だが。


「ひとの技パクっといていい気になられるのもムカつく!」


「キィ?」



 回避、回避、回避、全ての攻撃を回避しながら準備する。


「〈土葬(ランデッド)〉」


 かつて、何処かの精霊が使った技。向かうがパクるなら、こっちは借りるのだ。


「キキ? キッ!?」


 大地が隆起する。この場のすべてが大地に閉じ込められ、まとめて大地に沈む。


「んじゃ、お先。大地を釣り上げられるなら釣ってみな?」


 少し予定とは変わったけど、これはこれでよし。倒せるならなんだっていいのだ。


「だけどまぁ、倒せないとは思うけど」


 あの頃の私ですら逃げれたんだ。あの猿が逃げれないわけないだろう。


「だから、準備する。〈絶対領域〉━〈ルール〉━〈釣り禁止〉、〈精霊の遊び場〉、〈魚群単于(ぎょぐんぜんう)〉」


 釣り禁止の領域に、大量の魚が群れをなし一匹の魚の王となって精霊の遊び場を駆け巡る。


「さぁ、そろそろか」


 その言葉を合図にか、足元の地面が消失する。


「ウッッキッーー!!!」


 馬鹿みたいに釣り竿を振り回し、こちらを睨む猿。


「マジで大地ごと釣りやがったコイツ…」


 いや、するとは思った。思ったけどさ。


「想像するのと実際見るのとじゃ違うよね」


 てかそもそもこんな広範囲に釣り上げると思わなかったし。せいぜい数十メートル四方だと思った。そしたら周辺一キロが消えた。


「やっぱ神獣って桁違いだわ」


「ウ、キッ?」 


 飛んできた釣り針をつかみ、こちらに引き寄せる。向こうはなぜ私が釣り上げられないのか不思議なようだ。


「ま、釣りし名乗るならさ、釣り禁止かどうかくらいは確認しようや?」


「ウッ…キ? キッキィィ────」


 怒りのままに竿を捨て、こちらに来ようとした猿。


「ま、足元注意ってことで」


 歪んだ空間に飲み込まれ、何一つ自由にさせてもらえないままに〈魚群単于〉に喰われていく。体を一部ずつ、恐ろしいくらいに細かく。


 ピラニアとかの魚群に飲み込まれるとああなるのかな…こっわ。


「魚を釣る釣り師が魚に食われて終わる、何ともまぁ皮肉的な末路でしょうか」


 ご冥福をお祈りしません。おとなしく自分のことを飼っていた神を選んでください。


「そういや単于(ぜんう)ってなんだっけ?王様的な意味だった気がするけど、何処で聞いたんだろ?」


 ………まっ、いっか。


「さぁて、このままあの猿が喰われて今日の神獣狩りはおしまい!寝床の準備だ!」 


 なんて、余裕ぶっこいてフラグ的なの立てたけど。フツーに猿は食われて死にました。


 妖力は意外と昨日と同じかそれ以上に上がった。凄ー、なんでだろ?


 まぁでも、予想以上に理不尽能力持ってたしそんなもんかな?



「やっぱ神獣ってずるー」



“釣り猿”

───釣り師。かつては名高い釣り師であり、どんな場所にあるどんなものでも釣った。たとえ概念であろうとも、彼に釣れないものはなかった。神と離れたことでその釣り能力は劣化し、概念を釣ることは難しくなった。釣ったものは自分のものとして好きに取り出し、扱える。

地上にいた理由───釣りがしたくて自分の意志で地上に残った。神は釣り仲間との別れを悲しんだが、最後には受け入れた。

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