其の九十八 ある日、崖の上、クマさんに出会った。
幼女VSクマ。その第2ラウンドはクマの先手から始まった。
「───ッ!!!」
高速移動。サイドステップをするように動くクマ。しかしその実、マサカリから斬撃を飛ばしながら突進の機会を伺っている。
(おっもい!なんで斬撃数個でこんな動き制限されんのかなぁ!?)
斧で斬撃を相殺するが毎度毎度しっかりと構えて振らなければ威力負けをしてしまいそうだから恐ろしい。
この斧の一撃、一応この世の九割以上の存在をワンパンできるはずなんだけどなぁ。
この世界強者がとことん強者過ぎて困る。私の実力が低く見えるじゃないか。
そんなふうに考えていると目の前に現れたマサカリ。
「ヌゥッ!」
斧とマサカリがぶつかり合い轟音を轟かせる。たぶん鼓膜破けた。
一瞬フラッとしつつも斧と、腕と、尾と、全てを使って応戦する。
連撃を防ぎながら感じる圧倒的緊迫感。物凄く恐怖を感じる。否が応にも捕食者は向こうだと分からされるようだ。
斧とマサカリがかち合う度、今にも壊れるんじゃないかと思うほどの轟音が鳴る。
そして、遂にその時は訪れる。
「ぅるっ、らぁっ!!」
全力を込めた振り下ろしで斧が砕け、体重を乗せた一撃のまま、私は前に倒れゆく。明らかに、私が不利。だけど。
クマは退かない。マサカリを捨ててその歯で噛み砕こうと迫る。
それはもうわかっていた。わかっていたから、次の手は用意していた。
「〈燃えろ〉」
倒れゆく中、その言葉を口にする。すると迫るクマ、その正面に炎が点く。
「グゥ!?」
たとえ神獣であろうと、結局は獣。であるなら、本能として火は避ける。そのはずだろう?
クマの動きが僅かに鈍る。そうだ、その一瞬が欲しかった。
「〈槍〉、〈燃えろ〉」
槍を構築、穂先を炎が覆う。地面から生え出したそれはグングンと伸びていき、クマの下顎に突き刺さり、終には上顎を突き抜けた。
「グッアァァアァア!!!」
「ハハッ、ウルサイ」
足を前に、槍を抜いてそのまま振るう。クマの口が縦に裂ける、が、そこまでだ。
「ッ!」
槍を捨てて全力でバックステップ、間一髪その爪撃を躱した。
距離が生まれた。斧を作り直し、炎を纏わせて睨む。相手は口が縦に裂かれ随分とグロい。だがしかし、一切の戦意の衰えを感じさせずにこちらを睨み付けてくる。
「流石は神獣。この程度じゃ死なないって?」
バケモノが。
だけどこれでもうマサカリは使えない。噛みつきも使えない。ここからはその爪と巨体による体当たりに気をつけるだけ。十分むずい。
「って、まじかぁ?」
見て、学んだ。そういうわけじゃなさそうだ。
「妖術も使えるクマとかクマじゃないでしょ!?」
鼻先に水の塊が生まれ、横に飛ぶ。
「ハハッ?」
思わず笑いが溢れた。なにせ、今の回避はたまたまだ。
「見えない速度の水弾とかずっる」
これが神獣。ただのデカいクマが翼を持って、マサカリくわえて、妖術使えて、その全てにおいて最高峰。一匹でも外でたら終わりじゃんか。あ、だから外でれないのか?
と、いうことで。横道逸れた思考で多少はスッキリした。だから、
「第3ラウンド、決着と行こうか!」
そうして、バカみたいに疲れる戦いが始まった。
「ハッハァ!騙されろぉ!?」
初手、自分の分身を十体程用意し、全員で各方向からタイミングをずらして攻撃する。全部水のレーザーで消された。残念。
今度は地面から大量の槍をタケノコみたく生やして攻撃、回避するところに的確に攻撃を入れていく。が、
「グッバァッ!?」
攻撃しかけるタイミングをミスって攻撃を食らい腹が裂け大量の血が吹き出した。
が、別に今の私にとっては致命傷には足り得ないので気にせず撤退。
追いかけてきたクマの前に不可視のカウンターシールド設置。体当たりの反動を受けてダウンする。
その間に体を直し、周囲の空間を自身の支配下に置く。
水弾が大量に迫るが、空間を拡張、ありえないくらい伸ばしてよく見て回避。
「ハハッ鬼さんコチラぁ!」
水を噴き出しながらクマが迫る。しかしそこに盾はなく、代わりに私が大嫌いなものがある。
「一名様ご案内!」
目の前のクマが私の背後に転移、即座に迫るが今度は側面に、上に、前に、後ろに。空間がぐちゃぐちゃにかき混ぜられ、暫くは私の下へとたどり着けない。
「迷いの森、目印なしバージョン。命名するなら…〈精霊の遊び場〉とか?」
さて、恐ろしいほどの殺意の波動を感じながらも手に入れた時間で準備を進めていく。
奴を倒すのに必要なのは圧倒的火力を的確に当てること。回避なんてされようものなら負けだ。たぶんアイツ腕が一本になっても襲ってくるから。そしてリソースを全部切った私じゃ勝てない。
「だから絶対に回避できない状態で最大の一撃を当てるのは確定。問題は何を当てるか」
セレスティアと名付けた切り札の一つですらノーダメだった。アレは槍を壊されたからってのもあるけど、最低でもあのレベルの威力が必要だということ。
そんな技、何がある?
まぁ、ブロッサムロアと名付けたあの核ミサイルもどきとかだけど…アレは未完成だから無理。力を一点集中できなから暴発して終わる。分散して殺しきれませんでしたじゃ困るし。
「ま、ここはシンプルに行くべきか。いつも通りね」
私は何度も火力不足に悩んだ。その度にその場にあるもので頑張った。知識とノリと工夫と思いつきで何とかしてきた。だから今回もそうする。
「題して、超でっかい斧で断頭しよう!の巻」
クマを一箇所に固定。自分は空高くに飛んで、めっちゃでかい斧を構築。ありったけの妖力注ぎ込んで〈断頭〉、それだけにリソースを傾ける。“全身”への火力上昇じゃなくて“断頭”にのみ配分することで少しでも威力を上げる。その状態で回転しながら墜ちて墜ちて墜ちて、切り落とす。
あとはそれがうまくいくように、事前準備として翼を切り落とし、足の骨を降り、できる限りの拘束をしておく。
「やることは決まった。なら動こうか!」
まず、ちょっと離れた場所に箱を用意する。地面を隆起させ、形を作る。
クマはそれを横目で見つつも突進をやめず水弾を…津波をこちらに流している。やっば。
「物量は正義だなぁ!?」
幾らここに来るために何百何千の正しい転移をしなきゃいけないとしても、津波は何れここまでたどり着く。絶対に。だって道順全通り試されるもん。
だから適当な空間に〈反射の盾〉を置いておく。ついでに自分の周りに結界代わりの〈聖域〉を張る。妖力がゴリゴリに削れるけどまだ大丈夫。まだ6割は残ってる。………6割?
「ヤバくなーい?足らなくなーい?まぁ?やるしかないんだけどさー!」
さっき作った〈土の牢獄〉の防御力を固めつつ、その内部をクマ一体分のサイズに圧縮。
〈罠〉として幾つもの〈土槍〉を仮設置。敵を検知したら起動するようにしておく。
内部空間とその周辺空間を支配下に置き、私の決めたルールを強制させる〈絶対領域〉に設定しておく。
さぁ、あとは締めだ。
〈土の牢獄〉外部の空中に大量の〈種〉を植えておく。
宙に生える植物はナルシストがやってたのを知っている。なら私にもできるはず。
と、言ったとこで準備はここまで、残り妖力は…げっ、もう3割くらいじゃん!?
「足りるか…?何とかする!」
ということで、二足歩行でマサカリぶん回してるクマをごあんな…
「もうお前クマじゃないだろ」
何度目かになるそんな事を思いつつ、クマの足元に〈転移罠〉を設置!即発動!
〈土の牢獄〉内部に転移したのを確認して空に転移。
と同時に〈罠〉と〈絶対領域〉の効果発動。
「〈クマに翼はない、マサカリも扱えないし妖術も使えない〉」
〈絶対領域〉に定めたルールはシンプル。その程度のルールしか付けられないが、それで十分だろう?
今のアイツはただのクマだ。ちょっとフィジカルとサイズがおかしいだけの。
だったら、今なら殺れる。
「〈巨大斧〉〈断頭〉〈断頭〉〈断頭〉」
イメージしろ。イメージ。
「〈この斧はクマの首を落とすためだけの斧。それ以外の何も切れはしない〉」
「〈これは処刑人の斧、首を落とすためだけの斧〉」
「〈首刈りの斧、その始まりは神獣の首を落とすことで始まる〉」
さぁ、やろう。
「〈大回転斬〉」
宙を蹴り、地上に向けて大回転。ぐるぐると勢いを増して墜ちていく。
(ヤバい、吐きそう。三半規管終わる)
意識を空に、精霊視覚でもって世界を見る。情報として与えられた世界の全てに従い回転を続け、
「グォォォォォ!!!!」
怒りがマックスになったクマが〈土の牢獄〉を破壊する。〈脱獄〉だ。
〈土の牢獄〉は“牢獄”だ。だから、もし仮に“脱獄犯”がでたなら、そいつに対する特効を“看守”はもつ。そしてその“看守”はもちろん私。
(ははっ、予想通り!)
“脱獄犯”たる“ただのクマ”の暴れる姿は獣そのもの。妖術なんてないし、当然マサカリも使っていない。
仕込んでおいた〈種〉は既に起動して“ただのクマ”を縛り付けている。
本来ならどうとでも逃げれただろう。マサカリで切るなり、水レーザーで切るなり。だが、そんな技はもう使えない。その上その体は〈土槍〉によりボロボロだ。
クマに迫る、迫る、迫る。ぐんぐん加速してあと数秒ですれ違う。しかし、クマの首は未だ暴れていて狙いづらい。
だから。
〈絶対領域〉━〈ルール追加〉
━〈動くな〉
もともと動きの鈍い状態。それに加えて奴は“脱獄犯”
だから“看守”の命令効果も相まって、数秒だけなら止められる。
〈精霊の悪戯〉
空間が歪む。クマの肩から先、ちょうど首に当たる部分だけが空間を超え、私の斧の軌道に並べられた。
(サヨナラだ、強敵よ)
ひどくあっさりと、刹那のすれ違いとともにクマの首が飛んだ。
首刈り斧、初めての〈断頭〉がここに為った。
“翼付きマサカリ熊”
───神代では樵人のとても頼れる相棒であった。木を伐り、害獣を食い、荷物を運搬する。時には山火事の消火をすることもあり、その背に乗って空も飛べるのでとても優秀であった。しかし残念ながら神にとっては無用の長物。故に置いてかれた悲しき過去を持つ。




