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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
幕間1

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其の九十四 《幕間》伝説の裏側、或いは神話の始まり その一

実は3章が全然進みません。なので幕間でお茶を濁します。全3話、毎週1話日曜日に三週間に渡って投稿します。

では、ナルシストこと、【幻星】ビューティー・アムル視点をどうぞ。



 快晴、雲一つない青空の下、生物の生存できない環境に二人はいた。


「──────!!」


 一つは少女のような。


「ッ!クッ!」


 一つは青年のような。


 もはや意識もなく暴れる少女を前に、【幻星】と呼ばれる魔王は追い詰められているように見える。


「チィッ!」


 少女が駄々をこねるように腕をふる。それだけで焔が吹き荒れ空間が燃え尽きる。

 しかし男の姿は既にそこにはなく、少女の背後から剣を振るう。


「─────」


 剣が体にあたり、するりとすり抜け、何事もなかったかのように男が燃やされる。


「・・・」


 一瞬にして鎮火し、冷たい眼差しを向けながら呟く。


「いつ、終わるのか」


 少女の周囲に突如大量の水が現れ、瞬時に蒸発。側面から伸びてきた手が彼女に触れると同時に燃え尽きる。


「・・・」


 灰すら残らず消えた右腕を男は何も言わずに治し、肩を竦める。


「もう十分か」


 『太陽神』を相手に【幻星】の攻撃は通らない。だが、今の『太陽神』に【幻星】を殺しきることもできない。


 いくら燃やされようが、距離を取り、もとに戻る。殺意を持った攻撃ならばいざ知らず、無意識の衝動程度では殺せない。そも、どうしようもなくなれば即座に逃げるだけの話である。


 では、なぜこの男がこうして未だ争っているのかと言えば…それは単に義理とプライド故である。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 数ヶ月前、『月の国』。建物が整然と並ぶ城下をみながら、男は酒を飲んでいた。


(この国も成長したものだな…)


 この景色を見る度に、男、【魔王】が一人、ビューティー・アムルはそう思わずにはいられなかった。


 それも当然だろう。かつては文字通り何もなく、未開拓に等しかったこの地で王となったのは、ただの少年に過ぎなかった、他ならぬ自分であったのだから。


「それもこれも『終古』の助けがあったから、か…」


 一人であるが故に、普段の自己崇拝とも言える姿は鳴りを潜め、どこか胡乱げな様子で片手に持つ手帳を見る。


『至急、太陽の国へ向かえ。周囲の異常を調査せよ』


 それは間違いなく今書き足されたものであり、『終古』と呼ばれる勇者からの指令である。


(めんどくさいな、無視するか…?)


 そう思い手帳を閉じようとした時、不意に新しく文字が書き足されていく。


『このままではお前は死ぬ。国も滅ぶ。避けたければ行け』


「・・・そうか」


 ビューティー・アムルは【魔王】である。利己的に敵を滅ぼし、生きる者。当然、博愛を掲げるだろう【勇者】とは敵対する運命にある。


 のだが。


「・・・支度するか」


 そう言うと、燕尾服に身を包み身だしなみを整え、酔いを覚まし喉を開く。


「あ、あー。僕は。「僕はビューティー・アムル。この世で最も美しい魔王だ」、・・・問題ない。行くとしよう」


 少しの発声練習を経て、意識を切り替え、扉に手をかける。それは『終古』、()()()()()()勇者からの指示をこなすためであり、もう二度と、仲間を失わないためである。





 数日後、アムルは休み無く動き続け太陽の国に辿り着いた。


(祭りが近い以外に特段変わった様子はないようだが…?)


 旅出の服装はどこへやら、完璧に変装し、美しいだけの一般人の姿で街を練り歩く。


 時に買い物し、時に人を助け、時に冒険者としてダンジョンに入る。


「・・・強制転移か…この僕が抵抗できないとはな」


 六十層目にして強制転移の罠を踏み一階へと戻され、再び街を練り歩く。  




 そうして調査すること数日。未だ異変は見られず、着々と祭りの準備が進んでいく。


()()()か…」


 この国も変わったものだと思い、気紛れに、ひっそりと佇む神殿へと足を運ぶ。

 かつては国教として信仰されていた太陽神教も今では精霊信仰へと変わり果てた。


「誰のおかげで、何のためにこの国ができたのかすら忘れて、薄情なものだ…それを言う資格など、僕にはないのかもしれないが…」


 精霊など、信仰する意味もない。そう思いながら、何とは無しに供物をささげ、神殿を出る。

 再び街を練り歩き、異常を調査する。しかしやはり特に何事もない。


「祭りは…観ていくか」


 夜、白光亭へと戻り、自室で周囲の様子を知覚する。


 宿内に不自然に知覚できない部屋があることに気付きながら、ほかの異変を探していく。

 徐々に感知範囲を広げていき、王都内には異常がないとわかった後、王都へと伝令が走るのを見つけた。


 と、そこで背後に違和感を感じた。


「誰だ?」


「・・・・・」


「ああ、なるほど。そこまで弱っていたか。ならば話す必要はない」


 空間の揺らめき、確かにそこには何かがいる。しかしその姿をとらえることはできない。


「供物は捧げた。時機に取り込まれ、延命程度なら出来るだろう。あるいは、実態を手にすることも」


 男は一人話す。傍から見ればひとりごとで、理解などできない様相。しかし当事者二人にはわかっていた。


「何故、か? 意味などない。気紛れだ。だが強いて言うなら、同情か。勝手に期待しておきながら、勝手に失望して捨てる。それが気に喰わなかった。それだけのことだ」


 振り返ることもなくそういう彼の姿は何処か、悔し気に見えた。


「さぁ、戻るといい。僕も暇ではないのでね」


 それっきり、男はしゃべることをやめた。話す気がないことに気付いたのだろう。見えない誰かは忽然と消えた。


 しばらくして、男は立ち上がる。王都へたどり着いた伝令の切迫した姿を確認して。


「・・・異変はこれか。そして…」


 胸元にしまわれた手帳を取り出し、中を見る。


「ハッ、言うのが遅いな。・・・いや、これでいいのか?」


『神を殺せ』。たった今、そう書き込まれた手帳を見て、瞳を閉じる。


「しかし、人使いが荒すぎるな。大きな貸しになりそうだ」


 男は立ち上がり、多少の荷物を家へと転移させて空を飛ぶ。

 目的地は王都より西、生活者のいない、未開拓の地。

 山を越え、川を越え、何処までも続く耕作地帯を抜け、そこへと向かう。


「魔物か、狂人か、精霊か。あるいは、龍か。どれもありえるが、【魔王】でなければ、何でもいいか」


 魔物であろうと、狂人であろうと、殺せばいい。それだけでこの異変の調査は完了し、解決する。

 たとえ精霊でも、龍でも。如何とでもなる。むしろ満足するまで放っておけばいい。僕が命じられたのは調査であり、解決ではないのだから。


 彼は後の神殺しに憂鬱となりながらも、その足取りは軽かった。何が起ころうと、問題はない。そう、思うことができていた。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 その先で、一人の少女と出会った。


「こんにちはお嬢さん。僕の名前はビューティ・アムル。この世で最も美しい男さ!」


 何を考えているかはわからない。なぜか周囲を破壊しながら走り回っている少女。自分には遠く及ばないが、強者であることは間違いない。

 だからこそ、丁寧に話しかけた。


 しかし、その言葉に返事はなく。仕方なく普段部下たちとの交流で鍛え上げたコミュニケーションスキルを使ってさらに話しかけた。

 だがしかし、それにすら反応はなかった。


 だから、


「決めたよ。君には消えてもらおう。この僕を否定する存在なんていらない。君が悪いんだよ?この僕が話しかけてるのに、無視し続ける君が。ハハハッ、死ね」


 殺そうとした。


 いや、確かに一度殺した。はずだった。故に男は部下から教え込まれた去り際の態度を実践した。

 自分を過剰に上げ、相手を過剰に下げるのは不満ではあったが、確かに演じきった。そして自身の演技を評価するうちに、背後から殺気を感じた。

 普段ならば、対応できただろう。しかしほかのことを考えていたうえ、殺したはずの少女が生き返り、先ほど以上の速度で迫ることに動揺し、一撃を喰らった。


 異常事態に動揺しつつも、心のどこかで安堵が浮かぶのを感じながら、それはそれとして【魔王】を演じた。


「お前、まだ死んでいなかったのか」


 無傷で立つ僕の姿を見て少女の目が曇るのを感じた。悲しみも覚えたが、徹底して【魔王】を演じた。演じようとした。だが、少し、興味が湧いた。死してなお、執念で生き返り、逃げることもせずに襲ってきた彼女のプライドに。全力の一撃が通らず、勝ち目のなくなった状況でさえ光を取り戻したその瞳に。


「自己紹介をしよう。僕の名前はビューティー・アムル、この世で最も美しい存在だ。君は、なんだい?」


 一度だけ、チャンスをあげようと思った。ただの気まぐれだ。『終古』から告げられたのは調査。解決ではない。そして、奴は僕に神殺しをなさせようとした。そして彼女は神ではない。

 であるなら、この程度の気まぐれは構わないだろう。そもそも、僕がこうすることすらすら奴には見えているだろう。だから、チャンスを与えた。その結果。


「シオン・セレスティン。この世界で、いつか魔王になるものだ」


 彼女はそう言い放った。


 思わず、思考が停止した。当然だろう?


 僕は、【魔王】だ。この世界に現状実質二人とされる【魔王】の一人にして、たった今殺された相手だ。

 それなのに、なぜ堂々と【魔王】になる等と言えるのか。分からなかった。しかし、日頃より飄々と、余裕あれと努めてきたために、動揺を表に出すことはなかった。


 のだが。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そういわずにはいられなかった。


 別に悪意があったわけじゃない。そもそもそんなこと彼女は既にわかっているだろう。でも、()()として、忠告したくなったのだ。


 ああ、そうだとも。僕は既に彼女を殺す気はない。どころか、期待している。別にいいだろう?

 必要に迫られて【魔王】になった僕とも、自分の望みを叶えようとして結果として【魔王】になった彼。


 そのどちらとも違う。


 自ら望んで【魔王】を目指す。そんな彼女の在り方がどうしてもうつくしく見えた。


 だから、まるで後輩に接するように、軽口をたたくようにして扱った。その結果、もしや彼女は僕のことを知らないのかもしれないとも気づいたが、些細なことだろう。


 そうして、久々に殴られた意向返しと、試練を与えるつもりで、多少の嘘をついて永久氷土の山へと転移させた。ざっくりな転移ではあるが、彼女なら寒さで死ぬことはないだろうし、少し離れてはいるが僕の拠点もある。無事にたどり着いてうまく生き残るだろう。


「シオン・セレスティン」


 その名と、あの耐久性。間違いなく、龍族の少女。


「【魔王】への最終試練まで、死ぬなよ」


 おそらくは問題はないと思いつつ、ふと歩き出した足を止める。


「・・・まあ、生き残るか?」


 数日後には太陽神との殺し合いをすることを思い出し、太陽の国近くへ転移させたことを再度不安に思うのであった。





ナルシストこと、【幻星】ビューティー・アムルに焦点を当てた裏話。今度もう一話出します。

ちなみに、彼がシオンを転移させたのはあくまで永久氷土(絶対に融けない氷)の山です。つまり氷の中に行ったのは本当にたまたま。ざっくり転移の結果として「氷の中にいる」になっただけです。可哀そう。

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