其の九十一 終戦と報酬
燃えゆく海底、見るからに体に悪そうな骸骨をうんしょ、こらしょ、と運搬することしばし。
「どうしてこうなった……」
私は一人、嘆いていた。
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時を遡ること少し、大盾を構えて突撃をかましてすぐのこと。
『ダンジョンまで運ぶから手伝え!』
私は近場にいる騎士たちに念話し、即時行動を始めた。
・・・最初は良かったんだ。一番最初は。
「道作れ〜!」
無残になった瓦礫の山を騎士たちに消し去らせながら餓者髑髏の巨体をうまいこと押し出していった。攻撃は全部盾で防げてるし、コイツは見かけより強くないのかなぁとか思ってた。
問題はそこで起こった。
「シオン殿!申し訳ないですが少し離れさせていただきます! ッ!もうあまり余裕がないのか…!失礼します!」
なんか凄い強そうだった騎士団長が離脱した。病気の関係で。あ、持病じゃないよ?
それから少しして、ついにセバスも去った。
「これ以上は厳しいですね…シオン様!身体が治り次第戻りますので後を頼みます!」
やはりこちらも同様、病に負けた。
「この国来てからバフデバフがえげつなすぎる」
バフはもう言わずもがな。何百人を超えての超々極大強化。
そしてこのガシャドクロのデバフは存在格の高さからしてかなりの耐性があるはずの騎士二人を簡単に死に至らしめるほどの汚染。
「いくら戦闘より捕獲にリソース割いてるからってずるいと思うな私」
私が無事なのは私が龍で、かつ精霊、作り出した盾で距離をとっているからであって、盾自体はすごい勢いで汚染されてくし、直接触れたらその部分平気で汚染されそう。
そういう意味じゃあのチョウチンアンコウも頑張ってたんだろうなぁ。もともとの見た目的にあんまり違和感なかったけど普通に汚染喰らってたし。
「強さよりもめんどくささとウザさが勝つボスは嫌いなんだよなぁ」
最初は楽しめるけどさぁ、何度も周回するには向いてないよね。金策ばっかしてた私としてはどうしたって周回性能っていうのは気になってくるところで。こういう要求ステータスというか必須特性・必須アイテムが多い奴はそんなに好きじゃない。もちろんたまに戦う分にはいいんだけどね?
ただ、運がなかったんだよ。このガシャドクロは。本当に。
「こちとらラスボス。超えて裏ボス的なの倒してきてるんじゃい。そのあとにストーリーギミック中ボスが出てきたって冷めるだけなのよ」
これが先に出てきてたら違ったかもしれない。いや、だとしてもこの見た目でデバフ特化なのは期待に応えられてないか。この手の巨大アンデットでデバフをメインにするのはよくないと思うの。種族特性としてのデバフはいいけどさぁ、メインは再生能力とか既死特性による脳筋戦法だとか自分の肉体を取り外して戦う倫理観終わってる攻撃がいいと思うのよ。強くなりすぎだとかバランス調整ミスだとかは置いといて。
そもそも現状のデバフだけでバランスなんてぶっ壊してんだからそんなもん気にするなって話。あと戦闘対象が上位種族なんだからそんなの気にせんでいいだろの精神。
と、うだうだと不満と愚痴を連ねつつようやく到着。ダンジョン大穴前。
「さて、切り分けるか」
如何せんこいつは体がでかいから穴に入りきらないのよね。まっすぐ落とせば入るんだろうけど当然向こうも暴れるだろうしでちょっと・・・。
「んじゃ、よろしく」
「了解」
「承知しました」
両脇から斬撃が飛び出し、骸骨は一瞬にして切り分けられる。
ま、そうだよね。あいつは別にそこまで強くない。いやまあそれは嘘か。多少は強いんだけどね。せいぜいがこの世界における上の下なのよね。ここにいるのって上の中面子だからさ…
屍骸という名の汚染物質を町に振りまく心配がなければこんなもんよ。
「シオン殿、この後はどうなさるおつもりで?」
「ん~、ちょっといろいろ試してくるから先戻ってていいよ?」
「いえ、でしたら私はこちらで待機しておきます。セバス、町のほうを頼む」
「了解しました」
「はいよ~。んじゃそういうことで行ってくるわー」
「お願いします」
ん。
さてと、都合何度目かになるフリフォールに身を投げ、周囲を確認。
「うーわ、ひっでぇ」
足場を作成して着地。おどろおどろしい様子の洞窟内を確認すれば切り分けられた骨どもがうごめき再生しようとしているのがわかる。
「地面も壁もすでに汚染されてる当たり、こりゃ髄液のがやばかったな」
下手に地上で切り分けてたらそこだけ死の大地と化してたかも。放射線みたいだなそれ。
「あんまり長いすると私にも影響でそうだしさっさと帰るか」
・・・ちょっとだけ、ちょっとだけ此処で長居することで新しい進化先とか解放されないかなと思ったのは内緒。
「で、アンデットには聖水だとか光属性神聖属性が効くというのが鉄板だけども」
そんなものを持っているわけもなく。
「魔法・・・はダメそうだよね」
見るからに魔のモノですって感じだし。魔力ビンビン感じるし。下手に魔力で刺激したら強化だとかされそうだし。
「となると妖術」
だけどどんなイメージでやればいい?
やっぱり浄化?でもなぁ。こんなに呪いが濃いと大変そう。
「・・・・・・」
あ~。うん。いや~、っと。
「私は馬鹿だ。バカすぎる」
自覚した。とっても自覚した。私は馬鹿です。それを知って、知ったうえでこう言おう。
「存在吸収 怨念集合体、餓者髑髏」
ハハ。ハハハ。
「ハッハ~!!!てめえの呪い全部よこしやがれぇ!全部。全部寄越せ。恨みも、嫉みも、辛みも、苦しみも、怒りも!全部寄越せ。その骨動かす激情を全部、私に預けて死にやがれ」
魔力とは。人の感情と深く関係する力である。
呪いとは。人の感情から生まれるものである。
で、あるならば。
「呪いとは、魔力の形の一つ。ふふふ、大気から魔力を取り出せたなら、呪いから魔力を取り出せない道理はない!」
そう、私は”確信”する!
「フハハ。これでまた、魔王に近づいた…」
あ、やばい。量多い。耐えられん。あれこれやばくね?・・・まっずい!?
「やっばい許容量超えるッ!私のお腹パ~ンッ!なる!?」
圧縮、圧縮、圧縮、あ、やばい。この圧力じゃ全部固めても入りきらんのでは?
「Oh , I'm dead!?」
マジかよ、私こんなので死ぬの?
「あ、鼻血出てきた」
あ。マジでやばい。これマジで死ぬ。
「ここは一時離脱!?」
う、で?
「な~んッ!そういうのはもっと早く出せよ!?」
何本も何本も絡まり合って地面から、壁から生えてくる手足。そして頭蓋。
そいつらが、いま一斉に私の足を引っ張りに来て。
「キショイッ!」
あ、きも~。って、これあれか?私が逃げようとしたから?全部受け止めるとか言いながら逃げようとした私への罰ですか?
「逃げねぇから動くなぁ!?」
マジで止まった。そうですか。そうですか。
「命賭け、男の最大魔力量アップチャレンジ十連ちゃん行くか…」
そう、最大保有魔力量とは増やすことができる。方法はシンプル。自分の魔力袋があり、その中に魔力を貯め、圧縮し、貯め、圧縮しを繰り返す。ただそれだけ。だがここで問題があるとすればそれは。
魔力だって当然ただで圧縮されてくれるわけではないということ。
伸ばしたゴムのようにもとに戻ろうとするせいで、気を抜くと圧縮した魔力が一挙に解放され…許容限界を超えた魔力は爆発するように体外へと流れ出る。
つまり、超高密度圧縮を、今、ここで、連続して、ミス無く、成功させなくてはならないということ。だがそれを成せば、私は無事に生き残ることができる!
・・・無理だろ。
「しぃっ~~~~~!!!やるんだよォ!」
泣き事言っても始まらない!ということでまず一勝!良かった。けどいつもならここでやめれるわけだが…
「・・・休み、ないが?」
二勝。三勝。気合で連続三勝を獲得し、次の戦いへと進み…
「これで、四、勝ッ!?」
シクッタ。
「咆こっ!!」
空へと叫びを届かせ、爆散。
「ぁ・・ば・・・ぃ・」
今更ながら気づいた。魔力欠乏による症状は知ってる。精神負荷に始まり、肉体的負荷、感覚欠損を通じておそらく死に至る。
「・・ぉ・・ぇ・・ろ」
じゃあ、魔力供給過多は?
時に、肉体における過剰再生というものがある。その名の通り肉体が過剰に再生し、崩壊するというものだ。
では、魔力過剰供給の場合どうなるか。それはシンプルだ。
「ぁ、ゃ…」
精神が崩壊する。
呪が魔力であるならば、魔力とは呪である。意識は次第に失われ、理性が消えていき最後には…理性なき獣としてその本質を体現することになる。つまり、魔堕ちである。
現状、魔力を溜め込む体は崩壊済み。しかし、呪いという名の魔力は未だ止まっていない。
このままでは、終わる?
「・・・ぁ」
龍という再生能力、そして妖力による常時リジェネ。それでもって腹の、魔力袋だと認識する場所の再生を第一に。
袋の穴がふさがるとともに呪いはまた貯まりだし、そして、
「・・・・・」
再度爆散。
それを幾度も、幾度も繰り返す。対症療法的な応急処置で意識を保つ。身体は既に幾度もの爆発でボロボロで、四肢は別たれ、腹を境に上下が分断されている。
それでもなお、根性で意識を保ち、溢れる呪いが体をかろうじて繋ぎ、最後の爆発を経て、私は気絶した。
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目が覚めると何か布のようなものを頭に被せられている感覚に包まれる。目を開けば一面白でいっぱいだ。1ミリたりとも動かすことのできない体で思考して、気づく。これ、私死人扱いされてね?
声が聞こえた。セバスと、ヴィクトリアの声だ。耳を澄ませてみればドーラ含め冒険者たちがざわついているのも聞こえる。
「シオンちゃん…ごめんね。私が、私のせいで…」
どうやらかなり思い詰めているようで心苦しい。なにせ私がこうなった理由にヴィクトリアは一切関係ないのだから。ただ私が思いつきで行動した結果である。
「なんで?何で目を覚ましてくれないの?ねぇ、シオンちゃん?傷はもうないでしょ?右腕以外は全部、全部直したよ?血だって足りてる。どうして?」
怖い…ドーラ…本当に怖いからやめてほしい。直してくれたのはありがとうだけど。というかよく直せたな。アレ。軽く四肢切断と胴体分離、内臓破裂に出血多量、全身呪まみれのグロすぎる呪物だったよね私。
「落ち着けよ。そんな風にいるとアイツも起きるに起きれねぇだろ。主に恐怖で」
ナイスだジラルド。ところでお前何かこっち見てない?チラチラさぁ。なんか気づいてるよなお前?
「セバス…お願い、シオンちゃんのこと休ませて、あげて…」
「……、そう、ですね…」
あの、休ませるってなんですか?物騒な気配するんですけど。
あれ、これまじでやばいやつ?剣抜く音聞こえるなぁ…?
「シオン様、失礼します」
え、剣振られて、え?気づいてないの?ならジラルド動けよ。伝えるか助けるかしろよ。つうか逆にお前はなんで気づいてんだよ?
「・・・」
剣が止まった。首元、スレスレで止まった。薄皮1枚切れるか切れないかくらいのところで止まったけど、これは?
「いつ、お目覚めに?」
布が取られた。視界に色が映る。眩しい。あと声が出ない。あっ、念話できるじゃん…
『何分か前から?』
「そう、でしたか。気づかず失礼しました。身の危険を感じれば起きるかも、と…思いまして」
なるほど。一理ある。一理だけだけど。
『その割に楽にしようとしてなかった?』
「既に何度か試していまして、今回反応が無ければ諦めようかと言う話になっていましたので」
えぇ?
『もうちょい生かしてくれません?』
「そうしたいのは山々なのですが…残念ながらそれほどまでに濃い呪を纏われていられると…その、世話をするのも一苦労でして…」
あぁ…なるほど。
『ということは既に結構時間経ってたり?』
「あれから一ヶ月ほど眠られてましたね」
『一ヶ月…まぁそんなもんか』
「はい…或いは、元凶になった『喜悦の国』へと送るへきかとも考えましたが…その場合口に出すのも憚られるような扱いになってしまいますので…」
あぁ、実験動物ね。私に毎日毎日劇毒投与して反応を確かめたり、薬漬けにして気を狂わせたり、枷を着けて戦わせたり、キメラにしたり、細胞取ったり、この体でできるか知らないけど子供産ませたり。
『死んだほうがマシではあるか?絶対一日二日で脱獄するけど』
「ですね…」
まぁ、いいや。理解した。納得もした。特に問題もなかった死別に対して気にすることでもない、か。
『オーケー許そう』
「ありがとうございます」
『ただしジラルド、てめぇは駄目だ』
「は?なんて俺?」
『お前絶対気づいてたろ?』
「はぁ?そんなことないが?」
嘘つけ。じゃなかったら私の首が刎ねられる時に、わざわざドーラ押さえつけねぇだろ。あとヴィクトリアの動きをなんやかんやして拘束してたのも見えてんだよ。精霊の眼なめんな。
「そんな事言うならこっちにも考えがあるぞ?」
『・・・おい待て。やめろ、わかった。許してやるからはやまるな』
「・・・」
『ヤメロまじで。許すから。それ離されたら私死ぬ。今度こそ死ぬ。何のために精神崩壊免れたのかわかんないって…!』
「・・・」
『無言やめよ?せめてなんか反応欲しっ!?』
「ワリィ、俺じゃ拘束しきれなかったわ」
はっ?
「「シオンちゃん!」」
あっわ、や、死ぬこれ。
「生きてて良かった…」
「ありがと、ありがと〜!」
あ、れ?思ったよりまと、も?
「でも、心配させたからには…覚悟して、ね?」
「デート、忘れてないから」
あ…死刑宣告。
「シオンちゃん。一緒に寝ようね?」
え…予想よりまとも…
「シオンちゃん。また呪われても良いようにいっぱいいっぱい神様に祈ろうね?あと、首輪とか、いる?」
こっちは予想通り…というか神様はちょっと…
「「デート、楽しみにしててね?」」
あ、もっかい気絶したい、なぁ…?




