其の八十八 エンドロールはまだ先に
さて、前世のスロカスから仕入れたパチスロ知識を活かした魔法によりヴィクトリア(影)を倒したわけであるが、未だモンスターは残っている。特にセバス(影)が。
とはいえここから先は正直消化試合ではある。なにせこちらはバフあり、向こうはバフなしなのだ。
というわけで。そこらの雑魚は既に仕留め終え副将戦。
「セバスがんば~!」
「騎士の意地見せろ~!」
「正々堂々戦え~!」
「お前らっ! セバスさん頑張れ~!」
「え、お前あの執事騎士さん付けなの?なんか違和感すげぇ」
「わかる。なんなら自分より強いからって敵視してるかと思ってた」
「だよな~。最近の若い奴らってすぐ年寄りを馬鹿にするからなァ~」
「でもセバスは意外と若いんでしょ?見た目老けてるだけで」
「あ~、あいつは寿命使ってるからな。実質老人だろ」
「ひでぇ理論」
いくら寿命使おうと結局強くなって世界に認知されれば寿命伸びるんだし若いってことでいいでしょ別に。年寄りはす~ぐ仲間を増やしたがるから困る。
と、まぁそんな感じでセバス対セバス(影)の戦いを見つつ。
「おらシュリヴァン起きろ。死亡フラグ回収しようとしてんじゃねぇ」
「・・・・」
「今起きたら水龍酒チャレンジもっかいさせてくれるってよ」
「・・・むむ」
「ロゼッタ~!酒で起きたぞ~!こいつは恋人より酒だってさぁ~!」
「むっ!?おおおおうぅいおうう!!??」
「あ、まじで起きた」
「違う!?たまたま!偶然!」
「へぇー」
「信じて!?」
「・・・ねぇ。酒で起きたんだってね?」
「あっあっあぅ。違うんです。ほんと、違うんですぅ〜!!」
てな感じで瀕死のシュリヴァンをいじめつつ。
「「「「うぉぉーー!!!」」」」
「あ!セバス勝った」
史上初、【怠惰】の大罪ダンジョン攻略が成功に終わった。
「シオンちゃ〜ん!」
「んっぐぅ!?」
ばっ、バカな。私が避けれなかっただと!?
なんてことはなく普通に避けなかっただけなのだが。流石にめちゃくちゃ頑張ってたからね。今くらいは許容しないとね。
・・・あとでまた好き勝手されるのか……
「シオンちゃん…可愛い!かっこいい!けどなんかよくわからないけど最後の攻撃って良くない思考混じってなかった!?」
「ドーラ、どうどう。あとそんな事は多分ないよ…たぶん」
確変確定…どっかのスロカス知識ではあるけど内容としては超ピックアップガチャ的な感じだから…
「それより、ほら。セバスたちが帰ってくるよ挨拶でもしとけば?」
「ん〜そうだよね。じゃあ行こっ?」
「はい…」
活躍してたのでね。大人しく抱えられます。
・・・私も頑張ったのに……途中役立たずになったけど。
まぁあれは仕方ない。誰だって失敗続きなら自尊心削られますし。
「ジラルド!こっちです!」
「ん?おう」
あら、こっちに呼ぶのね。行くんじゃなくて。
「あっちは二人にしてあげないとですからね」
あぁ、そういう。確かに働いた騎士には褒美が必要か。
「んで、勝ったわけだが…シュリヴァンはどうだ?死んだか?」
「いいえ?生きてますよ。そっちで殺されかけてます」
「あぁ…死にかけで何やったんだよあいつ…」
「ただ起きただけだよ」
「はぁ?」
おいお前こっち見てからそっと合掌するな。シュリヴァンの方向いてやれ。
「ヴァンがお酒許可したら起きたんですよ。ロゼがいくら呼んでも寝てたのに。本人は偶然だって言ってますけど」
「あ〜、放置で」
可哀想に。リーダーにも見放されるとは。
「あ、てか体治ったんだな」
そうじゃん。気づかなかったけど下半身食われてたじゃん。雰囲気がいつも通りすぎて忘れてた。
「はい。ヴィクトリアちゃんのおかげで回復させられました。ただ、妖力全部使いましたけど…」
「ふ〜ん、じゃあ他の怪我人はどうしてんだ?」
「近衛騎士の方が治してくれてます。それもあって早めに回復させる決断ができたんですよ。まぁ!一番はシオンちゃんのおかげですけどね!」
「私?」
「はい!シオンちゃんが龍になって、形勢が傾いたのでじゃあいいかってなったんですよ!だからあれは実質シオンちゃんのおかげの命ですね!」
「そ、そう…」
相変わらずドーラって変。私への愛が異常だし。そういう状態異常?
・・・もしかして私なんか変なデバフ撒き散らしてる?
ヴィクトリアもそうだし。
そんなわけ無いか。無いよね…?
「ま、それはいいわ。で、いつになったら帰還するんだろうな」
「さぁ?もうちょい喜ばせてあげれば?」
「そうですよ!なにせ世界初の大罪ダンジョン攻略!その上自分の可能性に気づいて、被害は軽微で終わったんですよ!もうちょっと幼馴染と喜びを分かち合わせてあげましょうよ!」
「お、おう…」
テンションたか〜。なんやかんやでヴィクトリアのことも好きだよね、ドーラって。
「まぁでもそろそろ帰んないとまずいんじゃない?」
「え?」
「だってなんか変だもん」
「変…ですか?」
「うん。具体的に何処が変とか言えないけどね〜」
ただ、何となく。何とな〜く。まだ終わってない。そんな感じがする。何でだろうね?
「ま、帰るまでが遠足。凱旋するまでが戦争って言うでしょ?本当に安心するなら帰ってからのがいいでしょ」
これで国が滅びてました。とか、戻ったら何百年経ってました、とかだったら喜べないしね。
「後半は聞いたことねぇよ」
あら?地域差かな?
「ですけど、それもそうですね!ちょっとヴィクトリアちゃんに伝えてきます!」
「え、」
「・・・・・」
だから合掌ヤメロって言ってんだろうが!
「あぁ…神さ、仏様助けてください」
「ん?珍しいね〜。シオンちゃんが神様呼ぶの。今度一緒に神殿巡りする?楽しいよ?」
たま〜に神様が御力分けてくれたりするんだ〜。とか言うドーラだけど…
「や、私一神教なんで」
ソラ一推しです。私をこの世界に呼んだ神?そんなのは神じゃありません、ソラを虐めたので。
「神を語る偽物め、いつか滅ぼしたろか」
あぁ、でもこの世界に呼んだことだけは感謝できるから、顔面十発で勘弁しよう。できるかな?原型なくなりそう。大丈夫か。神だし。
「私、何も聞いてない。シオンちゃんは可愛いだけの龍。あれ…龍って神と仲悪かったような?」
あぁ、ドーラが可哀想なことになってる。にしても龍って神と仲悪いんだ…まぁでも確かにそんな感じはするかも。とか思ってたら。
「ヴィクトリアちゃ〜ん!おつかれ〜!」
目の前でヴィクトリアがセバスに抱きついてた。
「ドドーラちゃん!?」
「??? ドーラだよ?」
「あ、うん。そうなんだけど…」
・・・ふ〜ん。
「大胆、だね?」
「シ、シオンちゃん!?な何を言って!?」
「何でもな〜い」
わかる。わかるよ。いろいろあって、やりきって。達成感から感情爆発して抱きついちゃってでも離れたくなくなったんだよね。わかる。なぜかわかる。これは前世の記憶、なのか…?
それはそれとしてドーラって何考えてるか全然わからん。さっきは二人にしてあげようとか言ってたのに今は邪魔して…いや、もしかしてただ抱きついてるだけとか思ってる?
抱きつくくらいなんでもないこととか思ってる?あり得る…私も常に抱かれてるし…
「あ、それでね!できるだけ早く帰ろうって言いに来たの!地上が無事か早く確かめたいし、できるだけ早く応援に行ったほうがいいでしょ?」
「あ、うん…そう、だね…ありがとう」
「ううん。じゃあ、私戻るね!」
「あっ、うん…」
・・・・・う〜ん。コミュニケーション能力の低さがでたかもしれない。ドーラって通常まともでちゃんと丁寧でいい子なのに私とかが絡むと知力下がるよね。
いや、悪い子じゃないんだけどちょっと苛つく感じになる。
さっきのも「まだ全部終わってないのに何満足してイチャついてんだ早くしろ」って感じに聞こえるもん。これって私の感じ過ぎなのかな?
と、言ったところでジラルドのもとへ帰還。憐みの目はやめろ。
「戻ったか、それで、どうするって?」
「多分もう戻ると思います」
「多分なのかよ…」
「言うだけ言って帰って来ちゃいましたから…」
それはそう。でも実際帰ると思うけどね。そうしたほうが良いのは納得してたから。
「ま、そろそろあの二人を止めに行くか」
「そうですね」
「・・・どうやって?」
あの二人結構暴れてるよ?わーわー騒いで修羅場してる。ラブコメならこの後お互い言いたいこと言いまくって愛が深まる感じするよ?
「・・・ジラルドが割って入って落ち着かせるのはどうですか?」
「俺死にたくねぇよ」
「私もヤダ」
あの中入ってたら殺されるよ。物理的というよりかは社会的に?
ほら、百合の間に挟まる男は殺されるみたいな。仲睦ましい二人の間に割って入る奴は八つ裂きにされて火あぶりにされるんだよきっと。
「・・・やっぱ放置で。子供じゃねぇし、帰るってなったら付いて来るだろ」
「さんせ~い」
「それもそうですね~」
ところで。ドーラがやけにおとなしいのがちょっと怖い。さっきまであんなテンションだったのに何があった?
「ところでドーラ、そろそろ放してくれない?」
「ん~?ダメです」
「え、」
「なんて、冗談ですよ。さすがに。まだ何があるかわかりませんからね。ははは」
怖い。目が笑ってないしそもそも表情が一切変わってない。めちゃ怖い。
「ド、ドーラ、さん?」
「はい、なんですか、シオンちゃん?」
「やっぱり………いや、何でもない…」
危なかった。もし仮に今「やっぱり抱えとく?」とか言ってたら最後、もう二度と離れられなくなってた気がする。
「…そうですか」
怖い。表情は真顔。そのくせ手はずっとこっちに延びかけては止められてる。感情の制御で精いっぱいなんだろうけど、怖い。
「おい、帰るみたいだぞ。俺は後ろで警戒しとくから先行っとけ」
「あ、じゃあ私も」
「必要ない」
・・・・・こいつ…。
「いやいやいや、何を言ってる?疲れてるんでしょ?大人しくこの手を取りなさい?」
「ハハハ、お前ならどこいようと一瞬だろうが、ちょっと耐えるくらいなら余裕だ」
「ならやっぱり後ろでいいのでは?」
「ダメだろ、大人しく前いろや」
「はぁ?」
こいつ…完全にそうだ。完全に私と離れようとしてやがる。一人だけで逃がすかよ。
「じゃあ私は前行ってくるから、二人は後ろ警戒しててよ。ドーラがいればジラルドも私がいなくても大丈夫でしょ?」
「チッ!」
舌打ちなんてひどいなぁ。ドーラがかわいそうじゃないか。
「じゃ、そういうことで」
「あ、おい待てっ!」
待ちません。反撃の隙は与えません!
は〜、危なかった。あのドーラは怖かったから上手く離れられてよかった。
「あれ、シオンちゃん?」
「あ」
「シオンちゃんも前に来たの?」
「うん。何があるかわかんないから、念の為ね…」
言えない。ドーラから逃げるために来ましただなんて。
「そっか!そしたら…う〜ん…」
「どうしたの?」
「・・・シオンちゃん。先行して地上の様子を見てきてくれないかな?」
「えっ?」
「その、もし地上でモンスターに押されてたら助けてあげてほしいの。本当は騎士を送るべきなんだけど…」
「私のほうが早い、と」
「うん。セバスももう送ったんだけど…一応ね」
・・・セバスを送った?なのに私まで?
「別に私は要らなそうだけど?それにこっちの防衛が薄くなるよ?」
「あはは、シオンちゃんからしたらそうだよね。でも大丈夫。みんなちゃんと強いから」
そういえばそうだった。ここにいるのは仮にも精鋭。近衛騎士に選ばれる程度には強い。なんならバフありならそのほとんどが太陽の国の騎士団長並みの強さだった。それも精霊付きの。もちろん厄介さで言ったら精霊特有のチート級世界改変術を持つアダルウィンなんだけどさ。
「・・・それもそっか。じゃ、行ってくるね」
「うん。いってらっしゃい」
「行ってきます!」
なんて初々しい感じを出しながらも赴くのは推定激戦区。私の第六感が言ってる。地上は死地だと。
「は~~~。今日だけで何回死にかけるんだろうね。いっつも死にかけてばっかの私だけどここまで続くとそういう運命でしかないよね」
きっとこうやって私が死にかけてるのを見て愉悦してるクソ神がいるんだ。そしてそいつはきっと人類は滅亡の危機に立たされてからが本番の、起死回生と下剋上の生き物だとか思ってるんだよ。私知ってるもん。
「俄然やる気出てきた。あのクソ神殴るまで死ねないわ」
あ、もちろんソラも助けるし魔王にもなるよ?そのあと、殺されてから天国行ったときにぶん殴るだけで。
「・・・私、天国行けなくね?」
え、どうしよ。殴れないじゃん。いやいやいや、あの神だぞ。正確最悪の愉悦部所属だぞ?
「きっと地獄在住に決まってる。そうじゃなくても地獄に落とす」
あるいはこっちから赴くか。閻魔様とか倒していうこと聞かせれば行けるかな?
・・・そもそも閻魔様がいるかわかないけど。
とか何とか。どうでもいいこと考えながら地面と空中を駆け抜けまして。いやどうでもよくはないけども。見る人が見れば気持ち悪いといいたくなるような三次元軌道の末たどり着きましたのは大孔。ダンジョンと海底をつなぐ、かつて逃亡のために飛び降りたあそこである。
ぴょんぴょんと宙を蹴り、途中からは周囲の魔力を使用して羽を生やして飛ぶ。なんでか地上には魔力ほとんどないからなぁ。妖力だけで何とかなるといいなぁ。妖力も、心もとないんだけどね…騎士どもにバフかけすぎた。
と、またも思考が横道にそれつつも。目に飛び込んできた光景に意識を覚醒させる。
「わ~お燃え行く海底っ!流石のファンタジーだね!?」
海に沈められた王都。その街々が燃えていた。赤く、青く、黄色く、緑に。色とりどりに染められて、王都を代表する巨大サンゴが美しく照らされていた。
そして。それと比類されるように並び立つのは。
「怪獣大決戦かよ」
一体のチョウチンアンコウと、おそらくは何千何万の軍勢が集まって形を成した餓者髑髏。
有象無象を足元に、戦火で二つが吠えるのだった。




