其の八十七 其れは星を壊すが如く 肆
目を開く。
しばし明滅する視界。
「もう、逃げない。できることは全部やる」
たとえあの影が私の攻撃を全て透過するとしても、私は逃げない。もう、誰にも任せない。私は私の力で、アイツに勝つ。
「正史かどうとか、因縁がどうとか、気にしない」
それが本当に正史で、運命ならきっとそうなるから。
「・・・・・」
しかと、影を見る。
今度は、確信できる。必ず上手くいくと。
だってこれは魔力を消費するためじゃない。私の手で奴を斃すための魔法だから。
意を決して、唱える。
「形態変化 水龍」
魔力が集う。世界が揺らめき、異常なほどの圧を放つ。
「見晒せ世界。コレが私だ」
思い出すのは、かつての龍。2度戦い、2度殺されかけた。絶対的なまでの強さの象徴。恐怖の化身にして頂点捕食者にたる風貌。角を持ち、髭を持ち、牙と鱗、何より長大な体躯を持っていた。
だがしかし。
私はそんなふうにはなれないらしい。
魔力により、仮初の姿であってさえ、角はなく、髭も無く、体はそれなりの大きさで三十メートルくらい。鱗はあるが牙は体に合わせて小さい。
「何ともまぁ残念な感じ…」
だけどもこれが、これこそが今の私ということで。
成長途中、未成熟、未完、将来性がある、伸びしろの塊。
そういうことだ。
「・・・烏滸がましかったなぁ…」
成長途中の身で、魔王を語る。そりゃあ上手くいかないわけだ。
だって私の思う魔王は既に完成しているんだから。
過程があって、最強、あるいは自身を貫けるだけの強さと、信念を手に入れたあとの存在。さらなる成長をすることはあれど、既に一つの完成形。
私はまだまだ未熟で、発展途上。完成とはほど遠いなか、魔王であろうとしていたんだから。
「烏滸がましいにもほどがある。だから、改める」
私は、魔王だ。幾ら足りないと思っても、相応しくないと思っても。【聖魔】であることからは逃げられない。あいつは私を認めたのだから。
私にできるのは唯一つ。
「足りないなら、埋めればいい」
爆速で駆け上がる。それが私にできることで、すべきこと。
だからまずは…
「肩書作りに励みますかぁ!」
環境が人を作るというのはよく聞く話だ。だから私は望んで死地に赴こう。窮地を生み出そう。
【聖魔】。それが私にのしかかるように。
『史上初の大罪ダンジョン攻略者』。その称号を手にしよう。
「水龍の息吹」
大口を開け、付近の大気魔力と水を大量吸引。からの放出。
味方諸共、全て押し流す。
て言っても味方への被害はしっかり私が代わりに受け止めるんだけど。傷ついたところですぐに治るし。
「馬鹿龍ッ!てめぇそういうことすんなら先言えぇッ!!」
「うっさい!ぶっつけ本番なんだから私にもどうなるかわからんわっ!」
調子崩したのはごめんだけど被害ゼロで敵ほとんど倒したから許してほしい。
「って、あ。倒しちゃダメじゃん」
倒したらモンスターが魔力化してあっちのバフが強化され…
「頑張れセバス!負けるなセバス!ボスは私に任せんしゃい!」
いや、大丈夫。うん大丈夫。きっと必ず大丈夫。
セバスが耐えてる間に殺し切ればいいだけ。そう、そうすればいいだけ。私の手で大丈夫にすればいい。
ただちょっと弱体化路線はなくなったけど。ね?
「作戦!がんがん行こうぜ!」
短期決戦を目指して、突進。からの噛みつき。
丸ごと飲み込んで…は、お腹下しそうだし内側から殺されそうなので口の中で噛み砕くこととする。
「んんぬぬうう!!!」
が、謎のシールド的な障壁に阻まれる…ので、がりがりと削り行き、ついに口を閉じようとして、
「がっ、ったい!」
歯と歯がかみ合って激痛。すり抜けやがった!
「ばっ!?お前その体で暴れんな!?転がるな!俺を巻き込むなぁ!」
「いったぁい!!から!爪!」
不憫なジラルドはいつもの事!なので無視して左爪で切り裂く!右腕がないのもいつものこと!
「連撃ぃ!」
当たらぬなら、当たるまで当てようクソボスが!
「当たるまでやりゃ百パーあたんだよォ!」
昔にどっかのパチスロが言ってた!収支マイナスならプラスになるまで打ちゃあいいって!
私にもわかる。ダメな思考だ。
「けど!今はダメになる!べきっ!」
ひたすらに打ち込み続ける。必死に。子供が駄々をこねるように。
当たれば致命。だって私の火力で、この巨体だから。
そう信じて、ひたすらに攻撃し続ける。けど、やっぱイラつくなァ。効かない攻撃を無意味に繰り出し続けるのも、こっちの攻撃のすべてを無視して他の事されるのも!つうかいくらすり抜けるからってこっち一瞥もくれないとかふざけんな!むかつくだろうが!
「こんのクソボスがぁ!」
毎度毎度言ってんだろ!死にゲー前提の難易度を現実に持ってくんなって!これはちょっと違うけどさぁ、生まれだの種族特性だのでクリア可能かどうかが分かれるなら先言え!注意書きしろ!諦めらんねぇだろうが!
「嗚呼全く本当にイライラする!現実はクソゲーよ!」
殴ってたらハイになってきた。けどこれはきっといいハイだ。逃避のためじゃなくて、夢中になった結果のハイテンション。そう考えれば。
「私もまだまだ折れてない!」
精神的に追い詰められはした。間違いなく思考は負に偏った。けど今はもう大丈夫だ。こうして笑える。夢中になれる。理不尽に期待し、反抗できる!
イイじゃん。難しく考えすぎてたのかもね。
私が何者かなんて考えるまでもないじゃんか。
「【魔王見習い】シオン・セレスティン!それが私で!私の生き方よ!」
何時だってそうだ。この世界に来た時も、来る前も。【魔王】と認められた後だって。
私は魔王に憧れた。満足なんてして無かった。きっと、それは死ぬまでそうだ。ううん、死んだ後だって。
私が私の崇める彼らに追いつくなんて不可能だ。だって現実はいつだって厳しくて、何処まで行っても夢は夢。信仰補正の入った憧れはそもそも現実に存在なんてできないんだから。
だったら、私は永遠に【見習い】だ。他ならぬ自分自身が自身を彼らと同列に並べることを許さないんだからさ。
「【見習い】に終わりはない。その極致にたどり着けるとしたら、神にでもならなきゃ無理だ」
だって、神殺しをできるのは神だけでしょ?
【魔王】は【勇者】に殺される。その運命は変わらない。けどそもそも、【勇者】は【神】に呼ばれたり、託されたりして存在する。
つまり、【魔王】の最大の敵は【神】だ。【勇者】じゃない。【勇者】は最大のライバルで強敵だけど、最後の敵じゃない。
「【神】がいる限り【魔王】に安寧は訪れない。そも【魔王】が安寧を欲するかは置いといて、【魔王】がその目的を。願いを叶えようとするなら、最後に邪魔をするのは【神】だ」
だから私が【憧れ】を超えるなら、あるいは同列に並ぶなら。
「【神】になるしかない。【神】になって、敵の全てを無視できるだけの力を手にしなくちゃならない」
けど、現実にそれはほぼ不可能で。少なくとも今はまだ不可能で。
「この命が尽きるその瞬間まで、私はきっと【見習い】だ」
わかった。ようやくわかった。私が魔王を目指し、魔王であるための中核。それは。
「尽きることのない『憧憬』。な~んだ、何一つ変わってないじゃん」
【魔王】と認められても、私の想う【魔王】には程遠い。だから目指す。
【魔王】になる為に【魔王】として生きるのだ。
【魔王】になる為に世界と対峙するのだ。
・・・ほんと、子供だなぁ。
他の奴らが大人になる為に捨てるものを、何もかも変わり果てた異世界で、全てを敵にしても叶えようとするんだから。
「けど、仕方ないよね。憧れは止められないんだからさ」
夢は叶えるものだ。捨てるものじゃない。
「さぁ、そろそろ終わりにしよう」
結論は出た。迷いは消えた。納得は確信に。枷は外された。
「【魔法】。それはこの世で最も自由な技だ。なにせそれを使うのが、この世で最も自由な【魔王】なんだから」
【魔王】が世界に刻む【法】。故の、【魔法】。
「お前がいくら攻撃をすり抜けようと、無効化しようと関係ない。必ず当てる」
そう、決めた。
「【魔法】確変確定」
次の攻撃の命中確率を大幅に上げる。さらに、この【魔法】発動以前に空ぶっていればいるほどに確率は上昇し、ある一定を超えた時天井が訪れ、その命中率は百パーセントとなる。
そして、現状私はどれだけの攻撃を空ぶったか。答えは一つだ。
「確率は!収束するんだよォ!」
これまでに無意味になったと思われた攻撃たち。だけどそれは、今こうして役に立った。
「今更!後悔しても!もう遅い!」
慌ててこちらを振り向き、防ごうとするヴィクトリア(影)だがしかし。その身に張られた障壁は遠くより飛来した斬撃に叩き割られ、
「ありがとう、『k』。お前のスロカス知識が役立ったよ」
私の手によって切り割かれた。
これにて、大罪ダンジョン攻略作戦、最終戦のラスボス討伐がここに成ったのである。




