其の八十四 其れは星を壊すが如く 壱
視界に輝きが戻り、目が覚める。
「ん、ぁあ〜?」
軽く喉を震わせ、調子を確かめる。
「…戻った」
そして周囲に敵はいない。結果はどうなったのだろう。そんなことを思えば。
「よぉ〜っすシオンちゃん!元気か〜?」
「シュリヴァン…元気だけど、どうなった?」
「ん〜?あ〜、意識無かった系?結構破茶滅茶にやってたもんね〜……」
………シュリヴァンが笑えないくらいには破茶滅茶だったってこと?なにそれ怖〜。
「で、決着だけど…まぁ見たほうが早いよねってことで」
シュリヴァンに従って見てみればそこには少し呆れを含んだ意味を浮かべたヴィクトリアの姿。
「なるほど。いいじゃん」
「なぁ〜。いいよなぁ〜あの二人」
うん。ほんとにそう。っと?
「ん?どうしたのシオンちゃん」
「いや、なんか…んぅ〜?」
「まさか新手とか言わないよね?俺やだよそれ」
新手…と言えば…新手…のような気も…?
「ダメだ。寝起きでなんにも分からん」
「えぇ…?」
いっち、に、いっち、に。とストレッチを一つして。
「お目々パッチリ!元気いっぱい!私!完全復活っ!」
「テンションの差がすごいね!?」
「まあそりゃあそうでしょ。テンションなんて高くてなんぼよ?」
「そう、かなぁ?」
そういうものです。だって気分は悪いより良いほうが良いからね。
「んっんぅ!それよりっ!もしかしてこれで終わり?もう終っちゃった!?」
「お、お~う。終わるんじゃない?もう敵もいなくなったし」
「ええ~~?つまんないの~~~!」
未だかつて未攻略とかいうからには第二第三の形態というかなんというか。フィールドを変えて再戦とかボスだと思ってたのが実は中ボスでした~、みたいな展開会ってもいいというかあってしかるべきだと思うの。私!
「そんなこと言われてもなぁ…俺もう結構きついよ?ドーラの回復で何とかなってるけどさっき普通に大量出血したし手足の数本飛んでってたからね?」
「へぇ~ドーラの回復ってそんな効力高いんだぁ~」
「そっち!?俺の頑張りは!?俺の活躍は!?」
「それはどうでも…んっぅ!褒めてくれる相手がいるでしょ?そっち行きなさい。私の記憶にはありません」
「くっ!これが、シオンちゃん!流石だよ。俺の心はもうぼろぼろだ」
「馬鹿なこと言ってないで早く行ってきなさい」
「はい」
・・・行ったか。私としては褒めてもいいのだけど、なんかこう、シュリヴァンの場合はからかいたくなるのよね。なんだろうね。でも精神面のサポート担当がいるので問題ないと思います。はい。
ま、それはともかくとして。
・・・アイツも生き残ってんだなぁ。これ、もしかしなくても全員生存なのでは?
「う~ん、う~ん?う~~~!!!」
「何を唸ってんだお前は?」
「あ、ジラルド」
「おう」
・・・ジラルドなら…いいか?不謹慎とか何も気にしなさそうだし。
「いやさ、あの自称特攻隊長が生き残ってるじゃん?」
「ああ、そうだな」
「だからもしかして死亡者ほぼゼロなのではとか思って」
「ああ…少しは出たが、まあそうだな。ほとんど死んでないか」
「やっぱり?」
「ああ。・・・で?」
「ん?」
「どうせお前のことだ。なんかろくでもねぇこと考えてるんだろ?」
ハハハ。ばれてら。なんてこった。何がどうしてばれたんだ。
「そんなことを言われるのは心外だけども。ただな~んか変だなぁ~。と」
「まあ、そうだろうな」
「ん?ジラルドも?」
「ああ。そりゃそうだろ」
「へぇ~?ってことは皆もそう考えてたり?」
「は、しないだろうな」
「・・・確かに」
ヴィクトリア達結構リラックスしてるもん。いやまあ近くの敵を殲滅したわけだし?ラスボス倒したっぽいし?余力もあるし?そうなるのは何らおかしいことでもないんだけど。ないんだけど…
「やっぱこれで終わる気しないよなぁ?」
「あぁ」
なにせ、ここは大罪ダンジョン。前人未到。数億の歴史を経て未だ未攻略。
「さ~て、気合い入れなおして…?」
「・・・」
「何か、来る?」
僅かな振動。地に着けた足から伝わる極めて小さな存在感。精霊的に世界を見れば、やはり何かが在る。
ウナギ、ウミヘビ、チンアナゴ、今まで地中から襲ってきてたアイツラじゃない。新手…だとしても今更?一体で?
・・・!!
「ハハッ。ようやくのお出ましか」
「おい、なんかすげぇ親な予感がするんだが?」
誰の顔見て言ってんだ、お前。と思ったけど実際私悪い顔してるからね、しょうがないしょうがない。ま、そんなことより。
「そこ、退いたほうが良いよ?」
「は? ッ!?」
「お~、ナイス反応!」
うんうん。いくら私の声掛けがあったとはいえよく避けたよ。
「ぜんっぜん感知できなかったんだが?」
あ。ここ血がかかる。避けとこ。
「まあそうでしょ。実際何もなかったし」
「は?」
敵がどこかから突然襲ってきたんじゃなくて、そこに突然生み出された。というより、転移してきたっていうのが正しいのかな?
「私は妖力の流れと言うか、転移の予兆的なのを精霊的視覚で分かったけど、人間じゃそううまくいかないからねぇ?」
あっち見れば死屍累々。ちゃんと死んでる。そりゃそうだ。油断してるところに感知不能の攻撃が全員に対して同時にドン。対応なんてできないよねぇ?
「あ、でも隊長格というか、もともと強かった連中はちゃんと生き残ってるんだ。今の初見殺し」
「・・・シュリヴァンは…しばらくだめそうだな」
ほんとだ。下半身ガッツリいかれてる。多分ドーラ達を守ったんだろうな。不自然に他は無事だし。
「でもあれで死なないのもおかしいよね」
「お前が言うな。つうか、ちゃんと治療しないとそんな保たねぇ」
「ふ~ん。ならちょっとまずいかもね?」
「・・・おい、まさかじゃねえだろうな?」
「ふふ、どうだろうねぇ?まさかもまさか、かもしれないね?」
「はぁ~、マジかよ…お前、本気でやれよ?」
「うん。それはもちろん。というか、そうしないとまずそうだし」
割とガチ目に。理不尽さで言えばさすがにソラ、神には劣るだろうけど、勝利難易度で言えば【幻星】アムル並みかそれ以上な気がする。そもそもそうじゃなかったらすでに攻略されてるだろうし…
「さて。ヴィクトリア!開戦するよ!!」
驚愕と喪失で呆けているお姫様に号令を一つ。いつの間にやら戦列を組んでいた敵軍と向かい合う。
「前線にはサメたち、後列には海蛇だのなんだののでかいやつ、側面と天井にはイソギンチャクなんかの生成系モンス。さらには小魚系統も所狭しと並び、地面にはヒラメだのなんだのが潜む。最奥には人影が一つに周辺を囲む触手。タコとイカかな?あと気になるのは…って、やっば。この空洞の壁あれじゃん。温泉に行くときに出てくるヤドカリ隠れてんじゃん。ヤバ」
「説明ご苦労。んで…ご丁寧にまだ襲ってこないみたいだが、如何する」
「え、私が考えるの?そういうのはそっちの仕事じゃない?」
「うっせぇ、お前とあの執事騎士が未知数すぎて作戦も何も立てらんねぇんだよ」
「あ~ね?」
とはいっても私もセバスの強さはあんまり知らないわけで。
「・・・戦線の指揮はヴィクトリアがうまくやるだろうし、私たちは遊撃で。いい感じに奴らの装甲剝がしてこ~ぜい」
「・・・それ俺死なねぇ?」
「知らない。な~に、わたしから何度も生き残ってんだから今回も大丈夫っしょ。ダメでもまぁ、よく頑張りましたってことで。あ、死体は貰うね。もしかしたら使えるかもだし」
「ひでぇ」
いやぁ、この前の死霊術やりたかったんだよね。あれ以降使ってないし、使える気もしなかったけど死体があって死んだ直後なら使えそう。死者蘇生?それはできそうなら試そうじゃないか。
「ま、そんなわけだけど。死ぬなよ?この作戦終ったら飯奢らせる予定だったんだから」
「またかよ…つーか宴開かれんだろ。……ま、死なねぇが」
「あ、これフラグっぽいね?さっきシュリヴァンも回収してたし死ぬかもよ?」
「そんなもん捨てとけ。いや、粉にしてから食わせてやれ」
「そだね~、捨てといたら拾われて押し付けられるもんね~」
「・・・おう」
あ、見抜かれてちょっと気まずいやつだ。よくあるよくある。っと、
「初撃は任せるか」
「そのあと特攻か?」
「いんや、決闘かな?」
「・・・まあ、合わせる」
「それでよし」
集中。脱力。落ち着いて、リラックス。いつも通りの体で、いつも通りの思考。よし、スッキリ爽快。思考は快晴。
「最終決戦も元気に笑顔で参りましょう」
やや不自然なくらいに頬を吊り上げ笑みを見せる。わぁぷにぷに。
「総員に告ぐ!」
妖術によるものか、やけに通る声が背後で響く。
「これが最後!真に最後の決戦である!」
プロパガンダ。本当に最後かなんて誰にも分らない。けどそう言う。けど騙される。
「セバス!道を切り拓け!」
「はっ!」
一人、ただ一人昔から信用され、信頼され、託され続けてきた男が一人。
「総員はセバスに続け!」
「「「はっ!」」」
王に付き従い、今は王女にその命を託す者たち。
「我が命を聴け!我が望みを叶えろ!」
張り裂けんばかりに放たれる想い。
「””私に、圧倒的な勝利を捧げなさい!!””」
望は圧勝ただ一つ。
「一閃」
端的な言葉と伴に剣が振るわれる。その一撃で再び敵陣は壊滅するかに思われた。
が、
しかし。
「ハハッ!そうなるか!」
響いたのは音。言葉にならない声。
返されたのは衝撃。紡がれた剣戟。
暴風。世界が揺れると伴に告げられた開戦の合図。その始まりは。
両者無傷で始まった。
ファイナルラウンド開始。勝利とは、星を壊すが如き挑戦である。




