其の八 初めまして、人類
きっかけはただの思いつきだった。
『自分で探すのもいいけど周りに探させるほうがよくね?』
そう思って、騒ぎを起こすことにした。手始めに森を破壊した。全力で駆け回って草木をかき分け、というか吹き飛ばし、木々を薙ぎ倒した。
こんな異常があれば普通ならば街から調査隊が送られてくると思った。けれど、しばらくしても調査隊はやってこなかった。
仕方ないからもっと目立つかと倒した木を投げて遊んだ。岩を投げて遊んだ。山に穴を開けてみた。
しかしそれでも調査隊は派遣されて来なかった。次第に不貞腐れ始めて当初の通り走り回って街を探そうかと思い直した頃、ソイツは現れた。
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夜。かつて森だった空き地に生まれたクレーターの中で空を見上げる。
ポケーっと、なんにも考えてないような顔をして星を見る。
「人が、来ない」
いくら待っても、いくら騒いでも、いくらはしゃいでも人が来ない。
せっかく人に会うのに備えて葉っぱを自分の体と魔力で挟んで無理やり服代わりにしているというのに。
(疲れた…)
当然、魔力を纏って葉っぱを押さえつけているわけであるから…気を抜くと魔力が霧散して押さえがなくなり葉っぱを落ちる。つまり、これは体外での魔力制御の特訓にもなっているわけなのだけど…今のところそれ以外の効果はない。
それにしても、もしかしてここは人の住むことのできない大地だったりするのだろうか。あるいは人里からかなり離れた場所か。だとしても毎日これだけ暴れ、しかも場所を変えて試しているのだからそろそろ効果があってもいいと思う。
(……、……?)
なんだろう。いま何かが引っかかった。
この騒ぎを誰かが見たとして、その人はどうするか。おそらくは領主だとかなんとか、上の人に伝えて対応願うだろう。それを受けて領主は騎士とかを編成して送り出し、調査に向かわせるはずだ。
「………あ」
調査に向かうとして、じゃあどこへ向かうだろうか。それはもちろん要望があった場所で、おそらく最初に怪物がいただろう場所だ。そこから足跡をたどって捜索し、手に負えるかどうかを判断する。そこで手に負えそうになければ…本隊を残して一部が帰還し情報を伝達、さらに戦力を集めて出発することになるだろう。
つまりは、だ。
私がこうして毎日のように長距離を爆走している以上、彼らは軍隊としてできる限りの速度で行動し、各地に残された壊滅的な被害を確認しながら近寄ってくることになる。
「絶対帰るじゃん」
食料にだって限りはあるだろうし、荒れ果てた森の様子を見れば普通の感性をしていれば一度帰還して戦力を補強してくるはずだ。だって山を破壊する怪物とかだと人間に相手できるわけないもん。
(やって…しまった)
私の短絡的な思考が、私の思いつきが、私の楽をしたいという欲求が邪魔をした。急がば回れ。私はおとなしくこの足で街を捜索すべきだったのだ。
「仕方ない。明日は来た道を変えるか」
きっとそっちに人がいるはずだ。まぁ、その人たちとどう仲良くなる、というか街に案内してもらうかは思いつかないけど。
「とりあえず…今日は寝よ。おやすみなさい…」
それと。決して、決してこれはふて寝ではない事をここに宣言しておくことにする。
夜が明けた。太陽が顔を出し、あたりはそこそこ明るくなっている。
「ふぁ〜」
いつものように身体をほぐすようにストレッチして体を目覚めさせる。
「よし!行くか!」
今日は昨日までの道をたどっておそらくいるだろう調査隊と合流したいと思う。
幸いにも?道はできているから迷うことはないはずだ。
「それじゃ、行くか」
最初は軽く流すように、と葉っぱを押さえつける魔力に意識を向けてジョギングから始める。
「こんにちわ、お嬢さん。僕の名前は───」
はぁ、めんどくさい。本当は今日も好き勝手暴れるつもりだったのに。そんな事を思いながら走る。
「僕の名前はビューティー・ア───」
何処からか幻聴が聞こえた気がする。私はそんなに人に会いたかったのか。自分に少し呆れて、速度を少し上げる。
「僕はビューティー・アムル。この世で最も美しい男さ」
これ、幻聴なのか?
「つれないなぁ。まさか僕の存在に気づいていないとでも?」
いや、幻聴じゃない。幻聴だとしたら私がこんなバカみたいに自意識過剰な男を妄想していることになる。そんなことはない。断じてない!
いやでも今の私に平然と並走して話しかけてくるようなやつがいるのか?
「かわいそうに。この僕が話しかけているというのに気づけないとは。その耳も、目も、いったい何のためにあるというのか。それじゃあ生きている意味もないだろうに」
あ、これ絶対人だわ。私の存在否定されたし。自分で自分の存在否定する幻聴なんて聴くほど自己肯定感低くないし。
「───」
そうして口を開こうとして。
(待てよ?これ、気づかないふりしたほうがよくないか?)
だってコイツ明らかにおかしいやつじゃん。関わっちゃいけないタイプのやつじゃん。何も聞こえないふりして逃げたほうが今後のためになるでしょ。いくら人に飢えていても人付き合いを選ぶ権利くらいはあると思うんだ。
「ねぇ、なんか言ったらどうだい?君は自分を僕と話す価値もない存在だと思っているのかな?でもね、僕の方から君に話しかけているんだよ?だったら返事くらいすべきだろう?」
ヤバい、急にまともだ。だけど惑わされてはいけない。こういうナルシストは一度関わりを持ったが最後、妙に気に入られて距離を置くこともできなくなるんだ。
「ふ、ふふふふふ。君はこれでもまだ無視をするというのか」
だからできれば早く逃げてしまいたい。のだが…
「もしかして君、僕から逃げようとしているのかい?」
あ、ヤバい。完全に目をつけられた。失敗した。適当に挨拶してこら逃げるべきだった。どうして、どうして私はこんなミスをしてしまったんだ。
「怖いので離れてくれます?」
「ようやく声を出したと思ったらいきなりそれかい?」
「不審者への対応はこれでいいかと」
だって今ほとんど裸の幼女につきまとっている状況だぞお前。変質者だろ。いや私もだけどさ。
「そうかい。なるほどね?」
あ!ヤバい。これ。あれだ。
「決めたよ。君には消えてもらおう。別にいいだろう?僕のことを無視するような君なら」
全身に魔力を流す。外に出していた魔力を取り込んだことで葉っぱが落ちるが仕方がない。そうしなければ…
「サヨナラ」
───死ぬ。
瞬間足元が爆発した。
(なんつー威力だ。体ぶっ飛ぶかと思った)
全身に魔力を流して防御力が上がってなかったらおそらく弾け死んでいた。あっぶな。
「おや?」
土埃を抜け出し逃げの一手を打つと、目の前には並走していたはずの男がいた。
赤い瞳に、白髪。私の中の中二心をくすぐる見た目に思わず胸が躍る。
(しかもまじで美形じゃんか!?)
あながち世界一美しいというのも間違いでないような気さえしてくるほどだ。
しかも私が全力で逃げ出したのに既に前にいるとか…天はこいつに何を与えなかったんだ!?
男、アムルが迫る。まるで歩いているかのように自然と。しかしその速度は早く、ぬるりと、攻撃を意識させない動きだ。
(ヤッバ…!?)
驚きながらもアムルの拳を回避する。いや、したはずだった。
「ッ!?」
「おや、仕留められなかったか」
何故だ、何故私の肩から血が出ている。攻撃は確かに回避したはずだ。
(というか拳で殴られたんだから普通打撲とかになるだろ!なんで切られてんだよ!)
異質だ。コイツは何処かおかしい。強さも、性格も!ビジュも。全部。
「君、早く消えない?おとなしく楽になろうよ。今なら優しく葬るよ?」
「はぁ?誰がそんな事───」
「あっそ」
再びの爆発。今度はしっかりと防御した。したのに、障壁が一撃で割られた。威力が高すぎる!最低でも私の殴りと同等か!
(だがしかし、これならまだなんとか…!?)
「もういいよ、君」
熱い。熱い。全身が燃える。肉が焦げている。なぜ?いや、早く逃げなければ!水、水を!?
───あ?冷たい。凍えるほどに。炎が消えた。ここは水中?
「───グァッ!?」
苦、しい。息が、肺が、全身が、軋む?暗い、何も、見えない。ここは、どこ───
「───ハァッ!ァ、ァア!」
胸が、爆発した。体の内側から突き破るような、そう、まるで魔力の限界突破に失敗したときのような…頭が痛い。吐き気がす───
「───がぁッ!?」
痛い、痺れる。これは、雷。でも、威力が強すぎる!
「ッゥ!?」
───重い。いきなり重力が上がった。潰れる、動けない。立ち上がれない。
(えっ?これで終わり?私、死ぬの?)
「ひゅ!?あがっ!?がっ!ぎゃッ!?」
ヤバい、ヤバいヤバい。終わる。死ぬ。風の刃が体を切り裂く、細かく切り刻まれる。首でも足でも腕でも、その気になればいくらでも落とせるはずなのに、無駄に威力を弱めて切り傷を作られてる。どころか、あいつはもう動いてすらいない。
(クソッ、クソッ!なんで、なんで!?)
痛い。苦しい。防御できない。回復が追いつかない。緩やかに、死ぬ。
(頭…痛い)
感覚が鈍くなる。意識がふわふわと、現実味を失ってきている。自分の体が自分の体じゃないような。自分のことを自分として見れないような。まるで、幽体離脱したような…。
(なんだかもう、全部どうでもいい)
あれ?私ってこんなだったっけ?こんな、やられっぱなしで諦めるような、そんなダサい奴だっけ。何のためでもなく、死にたくないからと粘るような奴だっけ。
(あぁ、魔力枯渇…か)
無気力に。私が、私でなくなっていく。




