其の八十二 其れは天を落とすが如く 壱
「・・・・・・んぁ?・・・う~ん? これはどういう状況?」
記憶がない。ひとまず情報を整理しよう。目が覚めた。目の前ではヴィクトリアとドーラが争っていた。そして今私は自分の足で立っていない。
「二人とも?説明が欲しいのだけど…?」
「「・・・か、」」
「か?」
「「かわい~~~~い!!!」」
「え、ちょっ、まっ!?」
なんっ!?違う。今はとりあえず逃げなくては!それだけでいい。それだけで。頭が働かん!情報の整理が追い付いていない!
「あっ!逃げないで!」
「捕まえる!」
え。私が寝てる間にこの二人に何があったの?別人レベルで変わってるけど…!
「はい。そこまで」
「そこまでです」
「ジラルドセバス!助かった!」
本当によかった。これ以上は私の正当防衛パンチが出てたよ。
「・・・なんか怖いこと考えてんな?」
「むぅ~~~~!!!ぷはっ!ジラルド!やめてください!あの可愛い生物は私のです!」
「違います!私のシオンちゃんですっ!」
「「むぅ~~~!!!」」
わぁ怖い。恐ろしいこと考えてんのは向こうだったか。
「にしても…いや、やめておこう」
「・・・なんだよ?」
「いやぁ?別にぃ?」
ただなんか年齢知らないけど見た目は少女のドーラを羽交い絞めにする外見おっさんか。
「事案では?」
「おっし、わかった。今放そう」
「ごめんね!許して!」
今ドーラを離されたら私の自由がなくなっちゃう!
「うるせぇ!今更なにいってやがる!そもそもてめぇが幼女になったのが悪いんだろうが!?」
「・・・もとから幼女ですが?」
「うっせぇ!見た目の話じゃねぇ!中身の話だ!」
一切記憶にない。何を言ってるんだこの変態は。
「人違いでしょう。病院に行くことをお勧めします」
「こ、コイツ!あぁいいだろう!お望みどおりにしてやるよ!」
「あ!馬鹿!やめろ! ・・・ってあれ?」
「まあ、さすがに今はな? ただし後で覚えてやがれ。お前がどれだけ幼児退行してたか教えてやる」
「結構です!」
嫌だ。聞きたくない。だからそのままドーラを抱えて忘れてください。できればドーラも引き取ってください。程よい距離感が大事です。彼女は近すぎます。はい。
「ジラルド。もう放してください。暴れないですしシオンちゃんを捕まえにもいきませんから」
「・・・おう。わかった」
「はい」
・・・別人? 雰囲気が変わりすぎじゃない? なんで? 怖い。ヤダよ?不意打ちとか。
「おいドーラ。大丈夫か?無理すんなよ?死にそうになったら言え。あいつ投げ飛ばすから」
「おいジラルド。消すぞ?」
「やめろ」
「ふふっ。いいんです。私はもう決めました。この戦いを生き抜いて、正式にご褒美としてシオンちゃんを甘やかします。無理やり捕まえても可愛いですけど、本心から喜んでくれたほうがいいですからね!」
・・・怖い。逃げようかな。本気で。
「はぁ。まあいいや」
どうしよっかな。いやぁでもな。う~ん。うん。うん…決めた。
「ドーラ、ついでにヴィクトリア」
これは仕方ないこと。これは受け入れるしかないのだ。どちらも発端は私ということだし、調子に乗りすぎた罰として受け入れよう。覚悟を決めろ私。頑張れ未来の私。怒るなよ未来の私。
「この戦い。私を満足させる活躍を見せたなら。それぞれ一日だけ遊んであげる」
「「ぇ」」
かかった。そして二人は今おそらく硬直状態。逃げるなら──今!
「シュリヴァン。レオンの爺さん」
「ん?」
「なんだ?」
こいつらに言葉はいらない。レオン爺さんはよく知らないけど、流れを造ればついてくる。雰囲気がそういってる。
「特攻しよ?」
「よし来た! 討伐数勝負な!!」
「ハッ!功を焦って死ぬなよ?」
「爺さんのほうこそ戦闘中に寿命でポックリ逝くなよ?」
「「はっはっは! ──合図は?」」
くくく。いいね。想像通り。いや、それ以上か。
「まあ待ちたまえ」
あと少し。次の曲がり角を曲がれば見えてくる。大量の敵に満ち溢れた空間。敵の本丸にしてこの冒険の終着点。
「合図は私が出す。よく見て、聞いとけ?」
「「おう」」
まだ。まだ。
「ヴァン」
「どした?ロゼ」
「死なないでよ?」
「死なないさ」
フラグの気配。だがしかし。
「シュリヴァン。止まるなよ?」
「当然!受けて立つ!」
決意に満ちた返事。覚悟はできてる。死んでも死なない覚悟が。いいじゃん。
「おい。お前ら。俺も行く」
「ん?俺はいいけど」
「俺も構わねぇ」
あれは…ああ。あの時の。
「隊長がいなくていいの?」
「構わん。もともと指示なんて出してない」
・・・馬鹿そうだもんね。
「一応いうけど、十中八九死ぬよ?」
「問題ねぇ。俺の仕事は後続に道を切り開くこと。つまりは特攻隊長だ。何時もの仕事をするだけだ」
ふぅん。特攻隊長ねぇ。それも良き。嫌いじゃないよ。そういうの。
「のわりにさっきの戦い全然特攻してなかったけど?」
「ビビってたんだろ。言ってやるな」
「はぁ!?ビビッてねぇし!あんたらが暴れてっから必要ないと思っただけだし!」
「残念だけど男のツンデレは需要ないよ?」
「ああ。普通に気持ち悪い」
「クソ爺!!死ね!」
おうおう元気がよろしくて。そんじゃ、最終準備と行こうかな。
「はぁ…さっき正気に戻った意味がないじゃん」
「まああいつだからな。つうか、夫の心配もいいが自分の心配もしとけ?」
「そうなのよねぇ~あんなに数が多いと相性が悪くて仕方ないわ。だからあんたが働きなさい」
「そうなるよなぁ…あ~あ、持ち武器大剣にしなきゃよかった」
なんて会話も聞きつつ。周囲の魔力を掌に集めていく。
「さてと。やっぱり開幕はこれだよねぇ?」
「ん?おいおい」
「嬢ちゃん…」
「おまっ!?お前!?」
近くの奴らは気づいたみたい。仮にも精鋭。見えないはずの魔力を平然と見破ってくる。
「おいおい。相変わらずぶっ飛んでんなァ」
「えぇ?もうシオンちゃんに守られるのが一番よくない?」
「あ、あ、あ。ああああああああ!!!!シオンちゃんッ!しおんちゃ~~ん!?」
あ、やばいのの片割れが目覚めた。まずいかも。
「あ。シオンちゃん!?さっきのってホント!?っっっって何してんの!?」
あ、もう片割れも起きた。急ぐか?いやでもこれもともと未完成だし。
「はっ!そうか!シオンちゃん! ”シオンちゃん頑張れ!シオンちゃんはできる子!”」
ん。なんかやりやすくなった。バフかな?
「ふっふっふ。これで活躍ポイントが貯まった!」
「あ!ずるい!私もやりたいのに!」
ふふ。現金な勇者。でもそれもまた良きかな。古来より勇者は勇者の大義名分をもって人の家を漁りアイテムを奪っていく存在であるからして。ヴィクトリアも間違ってはいないのである。
「さぁてさてさて!久方ぶりに派手に打ち上げましょうかねぇ!?」
曲がり角まであと三十歩!その先には広い空間大広間!さらにさらにその中には大量のモンスターが所狭しと並び、ついでに曲がった先の十数メートルほどの通路にはぎっしりと隙間なくモンスターがいるわけで。
「魔法詠唱開始」
気分よく、ノリに乗って、思うままに詠い。考えるままに魔法を放ちましょう。なぜなら魔法とは己のすべてを曝け出し、イメージを押し付けることで生まれるからして。
「”世界は知っている。その輝き。その破滅”」
存在すら知られなかったはずのそれ。
「”最も新しき魔王が一つ。大地の牢を脱すため、迫る星の根源を打ち滅ぼさんと放ちしもの”」
とある精霊と、二人の騎士。それとの命を懸けた戦い。その最中。
「”異なる世界。異なる法則。異なる理、その先で生まれたその事象。世界の秩序を生み出し、世界を滅ぼすかの力”」
科学の果てに生み出されたかの武力。核という名の抑止力。
「”収束せよ、吸収せよ”」
二度目だから。工夫を凝らしてみましょうや。
「”収斂せよ、圧縮せよ”」
魔力を集め、内に内にと圧力をかける。小さく、より小さく。粒を成してさらに小さく圧縮する。
「”鎧を纏え、硬く閉ざせ”」
集めた粒状の魔力を妖力で閉じ込める。カプセルのように、錠剤のように。
「”さぁさ反発せよ、反抗せよ”」
動け。駆けろ。
「”暴走せよ、衝突せよ”」
派手に動け。もっと、もっと。輝きは止まらない。爆発してなお進め。
「”蠱毒の果てに己を証明して見せよ。その内なる炎を解放せよ”」
プラズマが漏れ出し、太陽のごとく明滅する。
「”之は未完。何一つ生み出さず、全てを破壊するものである”」
時を経て二度目の発動。然れど、未完。
「”人は神に非ず。龍は神に非ず。然れど神の御業、その一端をお見せしよう”」
永遠に完成することなき御業。
「”特と観よ”」
曲がり角を曲がり、現れた壁に向けて。
「”開闢の咆哮”」
魔力を覆う檻が壊れ、幾つもの光が一帯を覆いつくす。当然のように自身の側へも牙をむく光はしかし。
────常時発動 『不滅の愛鏡』
緑色の鏡に映り、光量を増して跳ね返る。宙を粒子が駆け巡り、ぶつかり合い、幾度となく爆発が継続する。次第に粒子は消え尽きて、数秒の後、そこには何も存在しなかった。
「馬鹿ども。行くぞ?」
「「おう!」」
立ちふさがる者のいない廊下を進み、ずいぶんと視界の開けた宴会場に躍りだす影が三つ。それから遅れること数秒。
「っだぁぁああああ!!!!やってやろうじゃねぇか!?俺はビビッてねぇし!?」
新たな影が飛び出し、大量のモンスターに飲み込まれる。
「クッ!大丈夫かぁ?」
「オイオイ死んだぞアイツ」
「あーらら。サヨナラ」
可哀想に。餌だと思われたんだよ。私たちより弱いから。
・・・と思ったら。
「っだぁ!? お前ら程度じゃ俺は止められねぇ!!」
「おー!生きてた!」
「初戦敗退は恥ずいからな」
「もう既に満身創痍だけど頑張れよー」
「うるせぇっ!俺はまだまだやれるわぁ!?」
おっ、回復だ。これはドーラだな。
「ふふん。私も頑張りますよぉ!ポイント稼ぎ!」
「あんたねぇ…ま、いいけど」
「ガス欠にならないなら何でもいい。あ、俺等優先な?」
「わかってますよ!ふふふ。ヴィクトリアちゃんの強化で力が湧いてますからね!死んでなければいくらでも回復させますよ!」
現金なやつ。昔は天使だとかまとも枠だとか思ってたのに。
「ふふ。私も負けてられんなぁ!」
魔王の私があんまり目立ちすぎるのもなんかなぁだから、しばらくは支援がてら雑魚処理に徹しようかな?
「っと、本命のお出ましだ」
ヴィクトリアの晴れ姿。ちゃんと見とこ。どうせ後々見れなくなるし。
「全体号令!目標地点到着!””全身全霊を賭して最終目標を討伐せよ!汝等が命は!我とともにある!””」
「「「オオォーーー!!!」」」
大地が揺れる。騎士たちの圧が世界を揺らす。
「ふふん。やっぱり勇者っていいよねぇ…The希望の象徴って感じで」
っと、ようやく敵が来たか。けど、もうちょっとまってね。君等の相手は後でするから。最初の一撃は見ておきたいんだ。
「・・・セバス。前へ」
「はっ」
「剣を」
セバスがヴィクトリアに膝をつき、剣を捧げる。
「命令します。””私の道を切り拓きなさい””」
「了解しました」
ヴィクトリアが剣とセバスに何かを行うと、空気が変わった。
・・・ふ〜ん…強いじゃん。
「『勇者』ヴィクトリア・レイグラーフが一の騎士、セバスティアン=エルワン・タルデュ。参ります」
宣告と同時、一陣の風が吹き抜ける。
「この命、尽き果てるまで戦いましょう」
前方、味方以外の存在が消え去った。正しくは、一瞬にして塵と化す。
パフォーマンスとさえ言えるそれにより、戦場の士気は跳ね上がる。
会場のボルテージが今、限界を超えて上昇した。




