其の七十九 大罪ダンジョン『フォールシグニ』
視線の先、大量のピラニアどもに貪られる私の体を見ながら考える。
これ、如何しよう?
正直、今生きてることさえおかしいレベルの大けがではあるのだが、現に私はまだ死んでいないわけで。なら、まだ生き残れるということでもあるわけで。
魔法”爆血”
大量に流れ出ている血を爆発させ、ついでに妖術で以て”再生”させておく。したらば頭の周囲に風を起こしいい感じに頭をもとの場所つまり頸の上まで運び、魔法”回復”。
「ア~、ヨシ!直った!」
我ながらあの状態から完全再生するのは恐ろしいと思う。けどこのくらいできなきゃ死んでいたという怖さもある。
「怖がらせてくれやがって!危なかっただろうが!」
周囲の魔力はまだまだ残っている。どんどん反撃していこう。
「妖術”嵐天”からの魔法”旋風”」
まずもって妖力を使用して環境を嵐に変更。そこから魔法で以て風の刃を生み出す。最近ファンタジーに触れたおかげかこういう『魔法』らしい魔法も使えるようになったのだ。ちなみに正直に言えば妖術で使っても魔法で使っても似たようなことを似たような労力で起こせたりする。
「さあてさてさて。せっかく選んでもらえたわけだし、ほかのメンツが来るまでは私と遊んでもらおうか?」
ヴィクトリアたちが来るのが早いか、私が狩りつくすのが早いか。あるいは…
「私が死ぬのか」
久しぶりでもない死闘と行こうか。
──────────────
「──シオンちゃん!?」
目の前で、私のせいでシオンちゃんが!
「姫様、落ち着いてください!」
「セバス!でも!?」
「落ち着いてください!冷静さを失ってはいけません!あなたは勇者なのですよ!」
勇者…そうだ。私は、勇者だ。皆の命を預かってて、この国の未来もかかってる。絶対に失敗できない。長く、長く息を吐く。頭がすっきりした。落ち着いて一手一手考えよう。
まず、最終目標は何?
──このダンジョンの攻略。
そのために必要なのは?
──ダンジョンボスの討伐。
敵の強さと数は?
──不明。ただし私じゃ反応できなかった隠密性能と速度、そしておそらくは長期間出待ちするだけの知能。あるいは性質。
制限時間はある?
──明確にはない。けど防衛部隊のことを考えたら二日程度。
ダンジョンの広さは?
──不明。
大体は分かった。なら今私がすべきことは何か。それは、
「シオンちゃんを助けに行きます」
目標を一つ、定めた。
「おいおい、いいのか?全員死ぬかもしれないぞ?」
ジラルドさんが軽く私を咎める。軽く、なのは彼もわかっているのだろう。自分たちだけでは決して最終目標は果たされないと。
「もしかしたらすでにシオンちゃんは死んでいて、私たちの捜索は徒に数を減らすだけの行動になるかもしれない。いや、むしろその可能性のほうが高いです。けど、探さなくてはならない。先ほどの攻撃で分かりました。この階層の敵は強い。私たちだけではボスを倒すことはできない」
「なるほど。ま、姫様がそうなら俺は異論ねえよ。もともとボスの居所もわかってないんだ、大して変わんねえだろ?」
「俺も問題ない。あの嬢さんの力は必要になるだろうしな」
「我ら騎士は姫様の決断に従うまでです」
みんな。ありがとう。ジラルドさんが代表しているけど、その奥を見ればロゼッタさんもドーラちゃんも頷いてくれている。シュリヴァンさんは何処かを気にしてる様子だけど、特に否定はしていないみたい。
「それじゃあ──」
「待ってくださいよ姫様」
「エリオット、何かあるの?」
「なにかも何も俺は反対ですよ。あの龍は確かに強かったみたいですけど、俺にはもう死んでるとしか思えないんで」
エリオット。近衛騎士になれるだけの実力はあるのだけど、どうしても騎士として表に立つには素行が悪い者たちの集まりである近衛騎士隊の隊長。素行が悪いといっても犯罪を犯すわけではなくて、独断専行があったり言葉遣いが悪かったりするという意味。
ちなみに最初シオンちゃんを追いかけ回したのもエリオット率いる近衛騎士隊なんだよね。
「エリオットはシオンちゃんと会ったことあったよね」
「はい。ありますけど。・・・でもいっても俺が捕まえられそうな程度でしたよ? わざわざ探し出して助けるほどじゃないと思うんですけど」
なるほど。あの時は寝起きで弱体化してたのかな? ならそう思うのも無理はない、かな。
エリオットは態度はともかくちゃんと騎士だから。いざとなれば自分も、仲間の命も捨てて行動できる。だからこそシオンちゃんにそれだけの価値があるか疑問なんだ。
「シオンちゃんは強いよ〜?君じゃ、というか俺等じゃ勝てないくらい」
「だから? 金級のお前も、近衛騎士も勝てないとして、それだけのやつに何人の命が減る?結果的に戦力が落ちるようなら無駄死にだろ?」
シュリヴァンさんが説得しようとしてくれてるけど…厳しいかな。こういう時こそ私が何とかしなきゃ。
「エリオット。命令です。ダンジョンボスを捜索する道程でシオンちゃんのことも捜します。もし見つけたら全力で救出にあたります。納得できないようなら地上に戻り防衛部隊と合流してください」
「ッ!?姫様!?それはいくら何でも!」
「納得できないのも分かります。ですが彼女の力は必要です。絶対に」
「しかし!」
「戦力は減りますが仕方ありません。ここから先は死地、迷う暇などありませんから」
本当なら、この作戦の準備段階でシオンちゃん含め全員と模擬戦をしてもらう予定だった。互いの実力を知り連係力を高めるために。それがあれば今こうして問答をする必要も無かっただろうけど仕方ない。
「時間がありません。今決めてください。私を信じるか否かを」
「それ…は…」
我ながら酷い質問だ。こんなこと、答えは確定しているのに。本心を無視して従わせるのだから。多分だけど、私のバフの強化倍率も下がってると思う。あれは相手との親密度で最大倍率が変わるから。
「わかりました。姫様に従います」
「ありがとう。それじゃあ改めて、大罪ダンジョン『フォールシグニ』攻略を初めます」
前方。先程と異なり既に開かれた扉。その先は闇で隠されて何があるかも分からない。
「セバス。先頭をお願いします」
「承知しました」
さっきは扉を開けて入った瞬間に襲われた。だから今回もそうなると仮定して挑む。
「まずは、入口のモンスターを片付けましょう」
意を決して入ると同時に襲い掛かる魚の群れ。全方位から襲い来るそれを全て落とし切るのは不可能。そう思った時。
「助かりました。セバス」
「いえ、それよりも早く隊列を整えましょう。予想以上に数が多いです」
一匹一匹が弱いわけではない。当然のように下層に出現できる強さであるにもかかわらず、剣の一振りで死に絶えたのだ。
「えぇ?俺ら要るぅ?」
あまりの強さにジラルドさんたちが驚いているものの、正直私も引いている。だって昨日確認したときは
こんなに強くなかったんだもん。・・・予想外とはいえ、強くなるほうになら大歓迎ではあるのだけど。
・・・ちょっとだけ妬ましい。
「皆様お気を付けください。何やら穏やかではない様子。大群が来ます」
「ん?あー、そうだな。じゃ、俺らもやるかぁ」
「そうだな。俺も暴れさせてもらおう」
こういうこと言うのもなんだけど、ジラルドさんは随分と気楽に感じる。強さゆえの余裕、なのかな?ただ、そのせいで騎士隊の面々が少し…
「はい。冒険者の皆様はいつも通り、各々の判断でよろしくお願いします。ただ、どうしてもの時以外は下がらないでいただけると助かります」
「了解了解」
「わかってるよ。つっても、俺は突撃するからジラルド達しか関係ないかもだけどな」
「うへぇ。ま、突撃よりましか」
「そうか?俺は前でもいいけど」
「ならシュリヴァンはレオンの爺さんと前行くか?」
「う~ん。爺さんが人手欲しければ行くぞ?」
「そうか。なら貰おうか。さすがにあの数は俺も不安でな?」
「え? ・・・やっぱやめていい?」
「「ダメだ」」
「ええ?」
仲がいい…のかな?
「では、お二人と、セバスで切り込んで貰うということで。目標はあの大群の殲滅でお願いします」
「「了解」」
本当は無視するのがいいのだけど…あの大群がそのまま地上に言ったらと考えるとそれはできない。全部倒し切らないと。
「残りの面々は耐久を優先して戦う形でお願いします」
「「「承知しました」」」
私は皆の援護。バフを掛けてキツそうな場所があればそこを手伝う。
「じゃあ、生き延びましょう」
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「ようやく終わったぁ!!」
少し離れたところでシュリヴァンさんが叫ぶのが聞こえる。ちょっと不注意な気もするけどそういいたくなる気持ちもよく分かる。
だって数が多すぎたから。皆が全力で戦っているのにまるで終わりが見えなくて、多分数時間は戦ってた。
「おい馬鹿騒ぐな!?敵の追加が来たらどうする!?」
「うっ!でも爺さんも十分うるさいだろ」
「ぬぐっ!?」
あ、また騒いでる。戦闘中もあの二人は凄い叫んでたからもしかしたら相性がいいのかもしれない。たぶん嫌いあってるわけじゃないから。
「ハイハイ。そこまでだ」
「「む」」
静かになった。ジラルドさんってシオンちゃんにも言うこと聞かせてたしあの手の人たちの相手が得意なのかもしれない。
「そんで姫様次の指示は何だ?」
「そうですね。少し休憩にしましょう。その後に周辺の探索ですね」
できれば早くボスかシオンちゃんを捜したいところだけど…無理は禁物だよね。捜索で無理して本番戦えませんじゃ話にならないし。
「そうか。ならロゼッタ!シュリヴァンと周辺探索行って来い」
「え? それは助かりますけど…いいんですか?」
「まぁ。どうせ疲れてないだろうし」
疲れてない…確かに怪我はしてないみたいだし…セバスもレオンさんも疲れてないけど…これが冒険者?
騎士たちは…死人はいないけどそこそこ怪我してるし、やっぱり冒険者って凄い。
「えぇ〜?私も休みたいんだけど」
「肉体的にはともかく精神的には疲れてるんですけど?」
「そうか、ならシュリヴァンとちょっくらデートして来い」
えっ。
「はぁ?」
「俺はいいけど。敵にバレたらここに連れてくるぞ?二人で相手するには数多いし」
「いいだろ。どうせバレん」
「・・・わかったわよ。行ってくるわ」
「んじゃ、そういうことで」
え、ええと。いろいろびっくりだけどとりあえず…
「・・・ここでデートって大丈夫なんです?」
「知らん。死にはしないだろ」
えぇ…?
「信頼…なのか?」
困惑気味に呟かれたレオンさんの言葉に私も完全同意です。仲はわるくない…はず。




