其の七十七 準備終了。反撃開始
防衛部隊の配置、決戦部隊及び護送部隊が集い、残すは号令となった頃。彼女は未だ、合流していなかった。
「シオンちゃん!」
「シオンちゃ〜ん!!」
「シオン!!」
「クソガキィ!!何処だぁ!?」
裏で王様が演説する中、多くの者がシオン捜索に動いていた。ちなみに、この演説は魔導具の力により国民全員に伝えられている。当然、彼ら捜索隊の呼びかけも薄っすらとのっている。その結果。
「よージラルド!やるかァ?」
「やらねえよ!馬鹿か!もう集合時間過ぎてんだよ!!」
「アハハ、間に合わなかったのね…」
「いいから早く来い!」
「りょーかい!じゃ、先行くね!」
「は?」
突如として現れ、一瞬にして消え去ったシオンを前にジラルドは立ち尽くす。
「あいつ、あんな早かったか?」
「ジラルド!シオンちゃん見つかった〜?」
「あ。もう向かわせた!」
「了解!じゃあ戻るね!」
「俺も戻るか」
疑問を抱えながらも、彼は再度の集結に向けて走り出した。
「あいつ、面倒なことしてねぇよな?」
ついでに、その心に一抹の不安を抱えながら。
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「よっし!着いた!」
危ない危ない。少しばかり遅れてしまったけども、ギリギリセーフだろう。きっとね。
「あ、シオンちゃん。こっちこっち」
「お、ヴィクトリア発見。どした?」
「どした、って…もう!こっちに集合しなさい!あと、許可なく動かないように!」
「え、えぇ…」
「またどっか行かれたら困るの!だからお姉ちゃんと一緒に皆が戻ってくるのを待つよ!」
そんな大人しくできないお転婆な子供みたいな扱い…
「そういや皆は?」
「お前を探しに行ってたんだよ」
「あ、・・・誰だっけ」
あの金級でソロの爺さん。名前なんだっけ?なんかかっこよかった気がするようなしないような?
「この人はレオン・バルドレル。先月の作戦会議にも参加した前回の作戦によって起こったダンジョン災害からこの国を守った英雄の一人だよ」
「ハッハ!流石に勇者に言われると照れるな。それに、『英雄』と言うには俺じゃ些か以上に格が落ちる」
「そう?」
「ああ、あんたらに比べりゃ俺はただの冒険者。それ以上でも以下でもないさ」
なるほどなるほど。つまり冒険者のレオン爺さんってことだ。理解。
「ところでヴィクトリアなんかいつもと違う?すっごい気楽というかJKと言うか。社会に縛られてない成長中の子供感が凄い」
振る舞いというか、喋り方?なんか若さを感じる。いつもは草臥れた社会人って感じしてたのに。
「あはは。今は『勇者』として立ってるからね!王女としての責務は無しにいるんからかも?」
「あー、そういう」
何となく納得。ちょっと違和感はあるけど、慣れてないからかな。そう言えば一番最初に会ったときもこんな感じだったっけ。
「お、全員集まるようだぞ」
「ん?ホントだ。皆走ってる」
「え、よく気づけるね二人とも。私には全然だよ」
「年の功って奴だな!」
「慣れればいける」
「えー、できる気しなーい」
頑張れ。きっとできる。なんたって勇者だもの。
「うっし!俺が一番!」
「アンタねぇ…レオンさんがいるでしょーが」
「えー、それは流石に相手が悪いから無しで!」
「まーいいけど。もう皆集まってる?」
「まだだね。騎士たちがまだなのと、そっちのあと二人!」
「なるほどね。ま、シオンちゃんさえ確保しとけば問題ないでしょ!王様がいい感じに時間稼いでくれてるし」
「ロゼ…」
「あはは、気にしない気にしない!騎士様たちも今日くらい大目に見てよ!」
「数時間後にはお互い死んでるかもだしね!」
うむ。それはそう。なのだが。
「ロゼッタもシュリヴァンも冒険者だからね。仕方ない」
「お、シオンちゃんいた!久しぶり!元気だった?」
「元気元気。だけど今困ってる」
「なんで?」
「はぁ…悪ガキが問題起こさないか心配してたんだが…問題児はお前らの方だったか…」
ジラルドか。ところでその悪ガキって誰のことでしょう。返答次第じゃちょっぴり痛いよ?
「ん?俺等?」
「そうだ」
「ええ?なんかした?」
「したというか、まぁ価値観の違いだな」
「「価値観の違い?」」
ハモった。そう言えばこの二人こんな息合ってたっけ?いや、パーティー組んでるしそんなもんか?
「せめてロゼッタには気づいて欲しかった。が、シュリヴァンに染まったならこれも仕方ないことか…」
んぅ?シュリヴァンに、染まった?なーんか引っかかる。
「数時間後には死んでいるかもしれない。それはそうだ。それはそうだが…今言うべきじゃなかったな。縁起が悪い」
「そうか?」
「確かに?」
「・・・それと王様の演説を時間稼ぎって言ったのも悪かったな。騎士からすりゃ自分が忠誠を使う人の言葉に対して価値が無いって言われてるようなもんだ。俺らからしちゃそうでも、あっちからしちゃ重要なんだよ。だからこんな空気になってるわけだな」
「「なるほど」」
ふむ?気になるな。この二人。なんかあったか?
「ま、理解したみたいだしもう良いでしょ。そんなことより私は二人の関係が気になる。なんか変わった?」
「あ、気づいた?」
「気付いた気付いた。もしかして?」
「うん。俺達結婚しました」
「ひゃー!おめっと!おめっと!めでたいねぇ!」
「でしょー?」
「じゃあ尚更死ねないねぇ」
「そだね!死ねない。絶対ね」
うむうむ。善き哉善き哉。幸せな家庭が築けることを願いましょう。
「おい、どうすんだよこの空気」
「ん?どうするって?」
「だから、この空気だよ!あちらさんも怒りで体震えてんぞ?」
「あー、ダイジョブダイジョブ。私に考えがある」
「ホントかよ…」
ホントホント。私ウソつかない。
「ねぇヴィクトリア、チョットだけ飛び入り参加しよ?」
「え、だめだよ?」
「なんで!?」
「絶対やらかすでしょ?」
「ソンナコトナイヨ?」
「だーめ!」
「じゃ、じゃあ最後に顔出しだけ!全員で並んで、彼らが勇気ある決戦部隊です!って」
「うーん、それくらい、なら?」
「やった!じゃあ最後によろしく!」
さて、仕込みは完了だね。あとは上手くやるだけ。
「おい、何頼んだんだよ?」
「ん〜?私たちの存在証明」
「はぁ?」
「ま、その時になればわかるよ。大丈夫。絶対この空気は壊せるから」
その確信だけはある。
「あ、シオンちゃん!!久しぶり!」
「あ、ドーラ…!? く、苦しいっ!?」
「会いたかったよぉ!何処言ってたの!?」
や、ばい。苦しい。首、締まって。
「おい、ドーラ、離してやれ。戦力が減る」
「えっ?あ!ごめん!」
「ハッ、ハッ、コヒュッ………ハァ。死ぬかと思った」
敵意が無いし、殺すわけにもいかないせいで逃げ出しにくい。物凄く。結果死にかけてちゃ世話無いけど。
「ごめんね?」
「いや、大丈夫。それより、行こ?」
「え?」
ヴィクトリアが呼んでる。行かなきゃ。そんでこの空気壊さなきゃ。
「・・・なぁ、ほんとに大丈夫だよな?」
「ダイジョブダイジョブ。ちゃんとこの冒険者と騎士で壁がある状態はどうにかするよ」
「そうか。・・・おい今『この状態は』って言ったよな?状態は、って! お前何する気だ!?」
ハハハ。勘がいいなぁ?
「だけど、チョットだけ、遅かったね?」
王様へと歩く列を飛び出し先頭へ躍り出す。そして、手に生み出した"鈴"を鳴らせば。ほぉ~ら!この通り!
「ハッハァ!昨日ぶりだなぁ!『衛兵』!!」
龍宮城を守る『衛兵』こと、
「クソデカチョウチンアンコウ!!お前のその灯りで道を照らしてみせろ!」
海竜。アトラシア様のお出ましだ。
歓声が聞こえる。士気が昇る。見やがれジラルド!仕事はしたぞ?
「馬鹿か、空気は変わったが…これじゃさらに混沌になったじゃねぇか!?」
ククク。私に全てまるっと収められるようなコミュ力なんてあるわけないよなぁ?
カオスにはカオスを。現状が嫌だ?ならさらなる混沌で上書きしてやんよ!なぁに安心し給え。状況は、絶対変わるからさ!
「つーわけで、悪いな王様!注目は奪っちまった」
「あ、ああ」
「だからさ、いい感じに奪い返してくれ。できるだろ?」
テンションMax。本音を言えば今すぐに飛び込みたいところだが、それはできない。それをしてしまえば理性が戻った時に騎士どもに批判される。不和の種はできるだけ減らしたい。連携できずに勝てる相手でもないし、なにより。
レイドバトルは全員が楽しめなきゃダメだろう?
だからさ、王様。アンタがやることは、やらなきゃいけないことは何か。よく考えて、正解を引いてくれ。
「・・・・・」
士気は十分。熱量もある。裏に神にも近い存在が応援に来てくれた。縁起も十分だろ。成功祈願だって、私が来るまでに何度もしたはずだ。話すことも、話すだけ話したはずだ。
だからさ、アンタが今やることは。
「我等はかつての惨劇を乗り越えた。ならば、今すべきことは一つ。我等の悲願を今、叶えよう。総員に告ぐ!突撃せよ!!必ずや!我等に吉報を持ち帰れ!!」
そう。それで、いい。そうすりゃ、あとは全部。俺等がやるさ。
「全員!行きます!!"之は勇者の道、なれば我等は死してなお進むだろう"!!」
「"勇者"、"英雄"、"人類"」
大盤振る舞いだ。ヴィクトリアみたく、国民全員にバフを掛けるなんて私にはできない。けど、決戦部隊だけなら、掛けられる!
なぁに、永続バフじゃなくとも、切れたらまた掛ければいいだけの話だ。精霊龍なら、それができる。
人類は止まらない。その知恵で、その頭で思考し、挑戦し、乗り越えてきた。なればこそ、人類は歩むものである。災害も、災厄も、神話すら、彼らの歩みを止めることはできなかったのだから。




