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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第二章:天落星壊

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其の七十五 其れは災厄

 静かになったギルマス室で、淡々と、着実に会議は進んだ。


「以上が、本踏破作戦の主要な流れになる。なにか質問はあるか?」


「はい!」


「・・・なんだ、シオン」


 うっわ、嫌そう。酷くない?私いろいろ我慢して静かにしてたんだよ?


「防衛は騎士団に任せるそうですけど、そもそも本当に逆侵攻ってされるんですか?」


「・・・される」


 なに今の間。絶対まともな質問来てびっくりした奴じゃん。


「される。絶対にな」


 なんか空気重くなった?


「どうして?」


「前回がそうだったからだ」


「前回?」


 ふーむ。これはあれだな。触れづらい話題ってやつだ。


「・・・なるほど。じゃあこっちで調べとくんでいいです」


「いや、伝えよう。言いにくいがそんなことでこの作戦を失敗させるわけにもいかん」


「別にいいですよ?こっちもそれなりの伝手あるんで」


 過去の記憶(ウード)だけど。


「構わん」


 そこから伝えられたのは前回の迷宮踏破作戦について。まとめると以下。


 前回、騎士団と冒険者を引き連れてダンジョン『深層』踏破作戦を決行。この作戦は多くの死者を出しながらも成功。しかし、その先で見つかった『真層』。本当の意味での大罪ダンジョン『フォールシグニ』を発見。その後、本隊は一度撤退し、再び踏破に向けて力や物資を蓄えた。


 そして、それからしばらく。ついに訪れた『フォールシグニ』攻略作戦。そこそこの犠牲を出しつつも無事本隊は消耗なく『真層』入口にたどり着いた。その後護衛部隊が深層で待機。そのまま数日が立ち、待機部隊は恐ろしい声を聴いた。聴くものすべての者の心を握りつぶすような、聞くだけで命を落としかねない声。明らかな異常を感じ、護衛部隊は一部地上に帰還。その訴えを聞き、残されたものは戦力を固め防衛体制を敷いた。


 しかし、それはあまり意味をなさなかった。一日が立ち国中の者がその恐ろしい声を聴いたのだ。どこからか響いたそれに民衆は驚き、恐怖し、多くの者が死んでいった。残された防衛部隊もまた、少ししてあふれ出したモンスターによって殺されていった。深層クラスのモンスターと戦えるものであっても例外なく死んでいった。モンスターたちが謎の強化を受けていたから。


 のちに、おそらくはあの恐ろしい声の影響だろうと推測されるものだが、それがわかっていたとしても結局は死んでいっただろう。あの時点で、ダンジョンからの逆侵攻と戦える者は皆全てダンジョン内にいたのだから。


 と、言ったような感じで前回は失敗したらしい。要約すれば、侵攻したら予想外の反撃受けて手薄なとこ攻められて滅びかけたってわけだ。


 そして、そんな状況を打破したのはヴィクトリアら勇者であり、王族の大半は死んだということらしい。だからあんまり話したくなかったんだね。いやな記憶だし。ヴィクトリアいるし。あと、さっきの爺さん。レオンなんかはその当時攻略に参加した数少ない生き残りなんだとか。


「ま、理解したけど、それで防衛に関してはどうするのさ?」


「それは我々王国騎士団、そして多数の銀級冒険者の力を借ります」


「できるの?」


 前回の話じゃ金級でも死んでそうだけど。


「前回と異なり、私がいますから。同じ銀級というクラスであっても、大きく違います」


「ん?」


 ヴィクトリアは確かに勇者だけど…それとほかの者の強さにいったい何の関係が…って、まさか?


「私の力で全員を強化します」


「ええと、何千人いるよね?」


「問題ありません」


 うっそぉ。冗談じゃないんだろうなぁ…。いやでも数千人規模のバフ掛けってやばくない?倍率1.1倍でも十分すぎるよね。だって数あるし。実際何倍かわからないけどあれだけ言うあたり最低でもそのくらいはありそう。


「シオン。お前1回騎士に追われたことあったろ」


「え、うん」


「あいつら、予想以上に強かったろ?」


「うん。意味分かんなかった…ってまさか!?」


「この王国内の騎士で私の強化を受けてないものは居ませんので。それと、その節は申し訳ありません」


 あ、う〜ん。狂ってる。ゲームバランスぶっ壊してるでしょそれ。たかが一兵卒がついてこれる時点でおかしい気はしてたんだ。でもさ、流石にそんなバグみたいなことすると思わないじゃん。何倍レベルのバフ掛けしてんの?しかも永続。それかめちゃ長い。


「ちなみに、そのバフって永続なの?」


「永続…だとは思います。私が切ろうとしない限り切れることは在りませんので」


「バグじゃん」


 いよいよもってバグだよ。私だって自分のことバグではあると思ってたけどさ、こういうの見ると可愛く見えるよね。勇者はバグである、そういうことだね。あれ、そういやバグな魔王に心当たりがある…


「勇者も魔王もバグである。そういうことだね」


「お前も似たようなもんだろ…」


「私がバグならアンタもバグだよ」


「違うが?」


 私に勝っといてそれは無い。


「あれ?もしかして…冒険者にも既にバフ掛けしてたりする?」


「そう、ですね。騎士と比べれば弱いですが、一応は」  


「マジかよ」


 この感じ民衆にも掛かってそう。というか王国内の味方存在全部に掛かってそう。


「まぁわかった。じゃあ、守りはいいとして。改めて確認したいんだけどさ」


「はい」  


「ダンジョン踏破はなんのため?別になんでも━━」


「ダンジョンブレイクを防ぐため。あのモンスターたちを外に出さないためです」


「・・・そ。なら、失敗は許されないわけだ」 


「はい。絶対に。これがラストチャンス、もう二度と、次は訪れませんから」


「りょーかい。私からは以上よー」


 その後は特に問題もなく、他の面子が細かいことを取り決めていった。聞きはした。から和を乱すことはない、はず。




 ━━━━━━━━━━━━━━━━



 時は流れ、夜。私は久々に地上の景色を見ていた。


「ダンジョンブレイク、か」


 水面に揺られながら月を見ることしばし、もの思いにふけってみる。


 ダンジョンブレイクはスタンピード、モンスターパレードとも言い換えられる。つまり、放置されたダンジョンから外にモンスターが出てくることである。


 そう、私は見たことないけど、この世界には大罪ダンジョン以外にもダンジョンがある。そして、そいつらはちょくちょく放置してはダンジョンブレイクを起こし、野にモンスターを放っている。そうしてしばらくして環境に適応したものが魔物として生態系に組み込まれるわけだ。


 一応、呼び名としてはダンジョン産がモンスター、自然産が魔物、らしい。ただ、地上にも無からモンスターが生まれることがあるらしいので厳密には決まってないとこ。フィーリングだ。


 そして本題だが、今まで、大罪ダンジョンがブレイクしたことは無い。それは聞いた話でも、確認した記憶でも存在しない。でも、何やら最近この付近のダンジョン発生量、モンスター発生量が増えているらしい。ダンジョン内もそうだし、ダンジョン外もそう。


「ダンジョンブレイクの兆しと見ないわけにもいかない、か」


 なにせ大罪ダンジョンは何億年も前からあるのだ。限界が来て壊れない保証なんてそりゃあ存在しない。むしろ壊れるべきですらある。だって億年だし。


「にしても、肩が凝るわぁ〜。私はただ面白そうだで、気になるからダンジョン攻略したいわけで」


 ラストチャンスだとか、私を当てにされてもって感じ。そもそも片腕無いんだぞこっちは。しかもメイン装備(魔力)ロスト中だし。そもそもその魔力を取り戻すための休暇期間なわけで。


「こんなん絶対いくけども。あんなバグキャラいて失敗なんてさせるわけ無いけども」


 それでも、つい最近。一対一で負けたばっかなわけですし。


「・・・頑張ってみるか」


 この程度で止まってたら、ソラを迎えになんて行けないもんね。それに。魔王も勇者も、あの神を前にしたらたぶんそこでようやく最低ラインだもん。


「ソラに向かって全力疾走ってわけにもいかないけどさ、待っててよ。次はまた、お月見でもしよう。きっと、太陽には飽きてるだろうしさ」


 最短最速が最良なわけじゃない。最善最良が最高なわけじゃない。焦りは人を間違えさせる。一歩ずつ、進むんだ。できることをできるだけ。

 全ステータス全スキルをカンストして、転生(経験を引き継いでレベル1に戻して)しまくって、それで初めて土俵に立てる。そんな相手。

 どうせ神の時間間隔は長いんだ。一年も百年も五十歩百歩。確実に救えるようになったら行くのだ。そんで。


「家に招待して、眷属といっぱい遊んで、寂しくなくなって初めてハッピーエンドだ」


 私、トゥルーエンドは嫌いじゃない。けど、ハッピーエンドが好きだ。だからハッピーでトゥルーなエンドを目指すのだ。


 ソラは家に帰って、私は勇者に殺される。残された眷属のことはわからないけど、きっと上手くやるさ。


「御生憎様、私は私が幸せと思えるならそれでいい。全てを救うなんてことは勇者がすればいい」


 だって、私は魔王なんだから。


 月が蒼い。ブルームーン。地球のブルームーンとは違ってこの世界では珍しくないかもだけど、幸運が訪れたら、いいな。



 ━━━━━━━━━━━━



 月を見上げ、未来に思いを馳せる若者がいる一方。


 陽の下、過去を思いって現在を願う者がいた。


「ぐ、くっ、はぁ。ほんっっっとうに!!俺は自分が嫌になる!!!」


 その独白に返事はない。返されるのは、熱という名の存在の否定だけ。


「チィ!」


 壁を生み出し、熱を防ぐ。"断熱"を籠めて作ったそれだが大して意味はない。一瞬にして自身の身体が焼け焦げる。それでも建てないわけにはいかなかった。焼け焦げるだけで済んでいるのだから。無しに受ければ溶けるどころか蒸発しかねない。


 自身の肉が焼ける匂いを感じながら、男は一人その美貌を歪ませる。弱った心が、脳裏に過ぎる死が、過去を想起させるのだ。


「俺、違う。僕は死なない。それが理だ。僕は負けない。逃げる必要などありはしない。約束通り、神はここに封じ込める。それが、僕だ。あの日決めた僕の在り方だ」


 まるで自身に言い聞かせるように男は告げる。煤だらけで汚れた体。もう何日も何ヶ月と戦い続けたその体はボロボロだ。

 しかし、次の瞬間にはそれを感じさせない立ち振舞を取り戻す。


「はぁ。君はいつになったら意識を取り戻す?僕はいつまでこうして君と━━」


 熱の波動が訪れる。綺麗になった服を着て、傷一つ、汚れ一つ見えない彼は消える。


「━━ダンスしていればいい?」


 言いかけた言葉と共に彼は再び現れる。先ほど同様の装いで、何処か不機嫌さを感じさせるように。ソコにはもう弱さは残っていなかった。


「アァ、ア」


 対する彼女は幾度となく現れる彼に苛ついていた。邪魔だ。一人にさせろ。消えろ。いなくなれ。どっかいけ。駄々をこねる子どものように、彼女は焔を暴れさせる。


「ッ!あぁ!こちらとしてもね!君のような奴の子守なんて好きじゃないんだよ!そんなことをして何になる?思考放棄をしてどうなる?現実に目を背けるな、現在を観ろ!やはり、僕はお前が嫌いだ」


 怒りの爆発。我慢の限界。それも当然だろう。常人ならば一秒と持たない環境で、彼は既に一月を超えて活動し、戦い、声をかけ続けているのだから。それでもなお、彼がそれをやめないのは約束があり、プライドに反するから。


「『太陽神』!お前は何故、諦める?何故、信じない!アレは『魔王』だ!僕が認めた!この、僕が!他の誰でもないこの僕が!『魔王』である僕が、同族に足ると認めた、その意味を、理解しろ」 


 彼は叫ぶ。届けと。いい加減目を覚ませと。


「ア、アァ」


 しかし、届かない。固く心を閉ざした彼女には、唯一の友を、約束を誓い合った友を自分の手で殺したと、そう考える彼女には。


「そうかい」


 男は。『幻星』ビューティー・アムルは告げる。


「言葉が通じないのなら、仕方ない。僕としてもあまりしたくはなかった。これは美しくないのでね」


 幾度となく熱に融かされ、無傷で生まれ直しながら彼は。


「知っているかな?壊れたものは、叩くと直るんだよ」


 そうして、自称世界で最も美しい男の、世界で最も派手で危険な泥仕合が始まった。

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