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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第0章:幼龍転生(改稿済)

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其の七 オープンワールド

 

 ──落ちていく。


 ──落ちていく。


 ──風を切って。


 ──速度を増して。



 ──落ちていく。




「う、ぁ…!!」


 ──死にたくない!


 ──終わりたくない!


「こんなとこで、諦めてたまるかぁ!!」


 覚悟を決めて全身に魔力を巡らせる。


(足場の構築は間に合わない。なら、作戦を変える!)


 全身に身体強化を施し、反動に備える。


 落ちる速度は上がり続け、すでに雲海に突入した。


 水滴が全身にまとわりつき、不快感を覚えながらも、その時を待つ。


 雲海を抜けるとともに、身体に付着した水分が再び冷え身体の熱を急速に奪っていく。


 次にスカイダイビングするときがあれば生身ではしないようにしよう。そんなことを考えつつ、姿勢を整える。


「フンッ!」


 足を抱え込むようにして体を丸めた後、勢いよく足を真下に突き出す。


 それを連続して繰り返すこと幾度か。


「フンッ!フンッ!フンッ!」


 わずかに速度が落ち始めた…ような気がする。


 考えることを止め、無心でひたすら足を突き出し続ける。宙を蹴り、落下のエネルギーを少しづつ打ち消していく。このままうまくやれば、足場を必要としない空歩を身につけることができるかもしれない。


(残念なことに、練習には困らないなぁ!)


 できなければ地面に打ち付けられて死ぬ。そんな環境で必死こいて練習できるのだ。これ以上ない練習場所だろう?







 時は流れ、私は何時ぶりかの大地に足をつける。


「ああ!私は今地面の上に立っている!大地とはとてもいいものだ!両足を打ち付ければ確かに帰ってくるこの反発感!揺らぐことのない圧倒的なまでの存在感!気を抜いて倒れても全身を包み込むこの確かな感触。素晴らしい!大地が私に安心を与えてくれるのだ!そう!たとえ空を跳べたとしても我らには大地が必要だ!」


 思わず大地への感謝を叫び、意味もなく跳び跳ね、ゴロゴロと地面を転がり逆立ちをしながらも私は生きている。あの超超高度からの落下から確かに生還してみせたのだ!





 暫くの間を大地への賛美に費やした後、仰向けに倒れたまま次の行動を考える。


 ……次の行動といっても大地への賛美はもう終わりだ。あれは一時的に狂気に陥っていただけに過ぎない。そう、ただちょっと、長い間不安心な空の上にいたことで狂ってただけだから問題はない。


 ……問題しかない気もするが問題はない!


「さて、次は何処へ行こうか」


 始まりの島はもう抜け出した。地上へと降り立った今、私がどこへ行くかは自由だ。チュートリアルはもう終わり、ついにオープンワールドの世界に出たということだ。


「まずは、この世界の住人にでも会いたいかなぁ…」


 やはり異世界に来たのだから、異世界の文化に触れて異世界人との交流も楽しみたいところだ。


「よぉし!とりあえずその場でぐるぐる回って向いた方にでも行こう!」


 よくスイカ割りとかで最初に方向感覚を失わせようとするときにやるやつだ。


「……と?」


 上がったテンションのままに即行動をしてみたら変なものを見つけた。圧倒的な存在感と威圧感を放つそれは…


「またかよ」


 高さ数十メートルに渡る巨大な壁だった。


「調べるかぁ…」


 まずはこの牢の中がどれくらい広いのかを確かめるために外壁に沿って駆け抜ける。

 そしてすぐに気づいた。


「これ、囲まれてない?」


 目の前に再び現れた巨大な壁だが、今度はこちら側を閉ざすような形ではなくむしろこちらからの侵入を阻むものだった。つまり、これは城壁や外壁のようなもので、私はその外側にいるということだ。


「こ、これって!?」


 運が良い。とても運が良いのかもしれない私は!


「入り口は!?街の入り口は何処!?」


 さっさと見つけてさっさと入って異世界の街を満喫…したい!


「あった!」


 誰もいない堅固に閉ざされた扉に近寄り、押し開く。引いてみる。上下にしてみる。左右にしてみる。


「……開かない」


 開かない。なぜだ。なぜ開かない。そもそもなぜ見張りがいない?こんな立派な扉なのに。


「……こじ開けるか」


 中にいる人たちとの初対面は散々なものになるかもしれないけど、もうそれでもいいからこの世界の街を見たい。街に入ってみたい。人が恋しい。


「というわけで、御開帳!」


 助走をつけて突進するように殴りかかる。だがしかし。岩をも砕き、山すら壊すだろう私の拳が効かない。壊れるどころか罅すら入らず扉が歪むこともない。むしろ手が痛い。


「む…まぁいっか」


 ちょっと距離を置いてジャンプ。この程度の高さならひとっ飛びだし、なんなら空歩と言うなの多段ジャンプを使えばすれば容易く超えられる。


「よっ、と?」


 一度城壁の上から街並みを見ようと降り立とうとした時、バチンと音がして弾かれた。しかも、まるで闇に覆われたように上から内部の景色を一切見れなかった。


(ふむ…)


 試しにもう何度か挑戦すると、その度にバチバチと弾かれた。しかも挑戦する度に受ける反動と痛みが強まっている。


「結界か?」


 異世界でよくあるやつだ。街に張り巡らされた結界が予期せぬ侵入者を弾き、街を守る。


 この結界は外からの不法侵入者を防ぎ、ついでに内部の景色を見えないようにしているというわけだ。普通に考えればあの門からしか入れないよってことなんだろうけど、その門すら開かない。


(となると…私はこの街に入るための条件を満たしていない?)


 ここに入るためには何かを持っていけないのか、特定の種族や血筋じゃなきゃダメなのか、何もわからないが…今入ることができないなら仕方ない。大人しく回れ右して他の場所に行こう。


「なんて、言えたらいいけどさ」


 私には無理だ。この世界に来てから数年。私はまだ異世界らしさというのをあまり経験していなかった。しかし、あの亡霊に出会い、魔力を手に入れ、ファンタジーへの渇望が日に日に強くなった。だから…


「もう、我慢できないっての」


 これが結界だってなら、そんなもんぶっ壊してでも中には入ってやる。


(勇者だって不法侵入に窃盗を繰り返すんだ。魔王なら、何したっていいだろう?)


「それに、絶対防衛の結界とか、破られるのはお約束ってもんでしょ」







 そうして結界を破ってでも中に入ろうとすることしばらく。結界からの反発はとてつもないことになった。


 空歩で壁の上へと駆け上がり、内側へと侵入すべく全身に魔力を巡らせる。空中に足場を置き、全力で蹴り出す。壁の真上を越えた瞬間、全身に落雷が落ちる。

 体が焼け焦げ、痺れが走り体をうまく動かせなくなるのを気合で無視して突き進む。


 直角に曲がるようにして頭を下に向け、足元に作った足場を蹴り真っ逆さまに落ちる。


 結界を突き破ろうとする愚か者に罰を与えるように防衛機能がどんどん増えていく。連続して落ちる雷に始まり、無色透明な風の刃や風の矢が迫る。


(キッツ…) 


 それら全てを気合いで堪えつつ、どうしてもヤバそうなのを魔力を集めて障壁にすることで耐える。


 時間にすれば数秒にも満たない間に幾度も致命の一撃を堪え着地に備える。


 四肢を付けて獣のように着地すると同時に攻撃が止み、終に私の勝ちかと思った時。


「う〜ん…」


 目の前に見えるのは高さ数十メートルの漆黒の壁。まぁつまるところ…強制転移させられたということだ。


「う〜わぁぁぁぁああー!!!もうっ!むりだぁぁぁあああ〜〜〜!」


 この強制転移を受けるのも今回で三度目。今よりもっと攻撃が優しかったころに二回程こうして絶望されていた。


(ほんっとにクソですわあの強制転移。侵入者を排除するならもっと早く、それこそ最初から痛めつけるんじゃなくて転移させればいいだけのことなのに無駄に痛めつけて、無駄に希望を持たせてから潰してくるのこれを作ったやつは本当にいい性格してると思う)


 というのはまぁそれとしてだ。3度目の正直と言うか、仏の顔も三度までと言うか。もう一度挑戦してももう突破するのすら無理な気もするしどうせ強制転移されるだろうしで今回の挑戦はここまでにすることとする。


「今回は私の負けにしといてやるけど!次来た時こそ入ってみせるからなぁ〜!」







 ・・・負け犬の遠吠えをあげてから数日。私は当てもなく彷徨い歩き続け、入り江にやってきた。現在時刻は夜。この世界初めての海は星々の光を反射し、水面に揺らぐ緑月が綺麗だ。


 漣が砂とともに私の足元を濡らす。


「海、か…」


 海といえば…水着。


「なんで私裸なんだろ…」


 せめてボロ服、できれば水着が欲しかった。


 それもこれもあのトラップが悪い。私はただ壁の向こう側に無理やり入ろうとしただけなのに雷で私の服を燃やして風の刃で切り刻んで、挙句の果てには強制転移で何もなかったことにしやがった。


「ハァ〜、ふざけんなぁぁーー!!!」


 思い出したらまた腹が立ってきた。思わず叫んでしまったが、なかなか悪くない。


 波のせせらぎが心地よく、荒んだ心を落ち着かせる。


(自然とはかくも美しいものなのか……)


 大自然を前にすれば人間の悩みなんてちっぽけだとわかる。そしてそのちっぽけな悩みに振り回される人間の弱さも。


「やはり殲滅しなくては」


 煩悩まみれで、弱くて馬鹿で愚かな人間を。


 きっと、人類存続の危機ともなれば煩悩なんてものを失うはずだから。




 そうして、私は何をするでもなく美しい景色を見ていた。魔力を扱う私にとっては精神状態というのはとても大事なものだから。いつもなら眠ることで回復させるのだけど、今はただ、そうしていたかった。




 朝日が昇る。

 ゆっくりと太陽が顔を出し、光が夜空を侵食しだす。

 水平線が紅く染まり、水面がキラキラと陽光を反射しだした。足にぶつかる漣が心地良い。


 私はこの世界を守りたい。そう思った。前世では失われようとしていたこの美しさを、人間の傲慢さによって失われたかつての世界を守りたい。


 この世界の人間がどうなのかは知らないが、人間を駆逐する理由が、また一つ増えたような気がする。


「ま、特に理由なくても世界は滅ぼすんだけど」


 だってそれが私の夢ですし。


「さぁて、気分もスッキリしたし!今日も元気に彷徨ってこう!」


 あぁ、いつ人に会ってもいいようになるだけ早く服用意しなくちゃ。



 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━



 そうして自然の偉大さと人間の愚かさを感じてから数週間後。私はこの世界で初めて人類と出会うことになったのだが。



 初めて出会った人類は、



 ナルシストだった。



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