其の七十二 嵐の前の、静けさ?
宴から数日が経った。この間はなぜか空になってしまったジラルドの財布の中身を取り戻すべく依頼を手伝い暇をつぶした。
クラゲがいなくなって真っ暗闇とかした下層はしばらく環境が戻るのに時間がかかるだろうとのことで立ち入り禁止になっているため上層中層、ダンジョン外で、だが。
下層に関しては危険だし、早いとこ生態系が戻ってくれないとギルドとしても冒険者としても稼げなくて困るから入場禁止なわけだから、多少前より数は減ったくらいで入場許可が降りるんじゃないかな?
そうそう、ダンジョン外での依頼ってのは海の国周辺地域に生息する魔物の狩猟だったり素材の確保だったりだ。やることはダンジョン内とあまり変わらない。ただ、こっちはダンジョン特有の復元力はないので生態系を破壊しない程度にしないといけないのだけど。
逆を言えば、ダンジョン内は復元力があり、モンスターが絶滅しても何処からか復活するのだ。
して、なぜこんなことをつらつらと述べたかと言えば。来たのだ。深層の清掃という名の、深層モンスターの絶滅依頼が。
「ハッハァ!いいねいいねぇ!久しぶりのキルカウント千オーバー!ノってきたぁ!」
「うわぁ…お前ら!気をつけろよ!アイツはそのうち理性失って俺等まで巻き込むぞ!」
「ジラールドッ!今日は大丈夫っ!」
「今日は、なのね…」
「シオンちゃん、可愛い」
「ドーラ、アンタそんなだっけ?」
「ドーラはシオンちゃんに脳焼かれちゃったんだよ。仕方ない、可愛いもの」
「シュリヴァン…あんたが言うと変態的ね」
「早く前出てください」
「辛辣ぅ〜!まぁ言ってきますけど。バフください」
「もうかけました。行ってください」
「仕事が早い。行ってくるわ〜」
「今日は、楽できそうね」
━━━━━━
それからしばらくして、再び生物の気配の一切が消えた深層にて。
「いやぁ〜暴れた暴れた。楽しかった!」
「おう…疲れた」
最近は雑魚狩りだったからね。私に取っちゃ弱いのに代わりはないけど、不意打ち受ければダメージが通るような相手ではあるからそこそこ楽しめた。
ジラルドは体力がなさすぎだと思う。まぁ精神的にってだけで体は全然問題ないんだろうけどさ。
で、そんなことよりも気になるのはアレだよね。
「さっ帰って宴だぁ!」
「だぁー!!」
「ヴァン…お酒はほどほどにしてくださいね」
「間違っても水龍酒なんて飲んじゃだめよ!」
「はい……あ、後で酔い止めかけてね?」
「はい。それは当然します」
「良かったぁ!」
うんうん。いつものいつもの。最近は分かってきたんだ。このメンバーのノリってやつが。家族みたいな距離感なんだよね、みんな。
「さて、帰るぞ」
「はーい。あ、そういやさ、なんでこんな依頼出たんだろうね?」
「あぁ?知らん。何でもいいだろ、金入れば」
うわぁ…これはひどい。
「うわぁ、引くわぁ」
「ロゼに言われんのは嫌だわ」
「なんでよ!?」
「確かに、ロゼッタちゃんはお金好きだもんねー」
「そりゃそうでしょ!? というか、だからこそでしょ!いい依頼には裏がある!それを知らなきゃ今後に活かせないでしょ!」
えらい。さすがはこのパーティーの金銭担当。
「そうですね~、とはいえ、これがいい依頼かと言えば微妙ですけど」
「確かに。私は楽しかったけど普通なら地獄なだけだよね。難易度も高いし」
「それはそうだけど、私たちにとってはいい依頼なんだし、何でこんな依頼が出たか分かれば他に活かせるでしょ?」
それはそう。
「それに、前例のないことには絶対大きな裏がある!もしかしたらこれが私達の今後に大きく影響するかも知れないし、市場に影響するかもしれない。新鮮な情報は持ってて損ないわ!」
「お〜、パチパチパチ、かっこい〜」
「何その拍手してる風。口で言ってるだけじゃない」
「えっ?だって手は埋まってるから」
「そうだったわね…ならいいわよ」
もしかして、こういうの慣れてない?照れてる?
「ローゼッタさん!それで、なんでこの依頼出たと思う?」
「ローゼッタって…まぁ、いいけど。それで、この依頼だけど、わからないわ」
「えっ?確証じゃなくていいよ?」
「そう言われても、そもそも前例がないし、わざわざ狩場を減らす理由も思い浮かばないのよ。良くも悪くも、この国はこのダンジョンから手に入る素材で回ってるから」
ダンジョンと共に生きる国、かぁ。確かにいろんなとこで魔物素材は使われてたなぁ…。
「ふーん。でもこの深さの素材ならあんまり影響ないんじゃない?」
「そうかも知れないけど…わざわざ殲滅する必要ないじゃない?一時的に大量の素材が必要でも、数日に分けて回収したほうが結果的には効率もいいしね。そもそも、そんな話聞いてないし」
「なるほど。じゃあ何も分かんないねー」
「そうよ。これじゃ予想はしても妄想にしかならないわ」
妄想かぁ。それはそれで楽しいんだけどね。でも、やっぱり理由は気になるなぁ。
「そういえば、依頼主って誰だっけ?」
「そう言えばそうね。もしかしたらそこからなにかわかるかも知れないし…ジラルド!教えなさい」
あれ?ロゼッタさんは知らないんだ。結構お金管理しっかりしてるから依頼関係もやってるかと思ってた。いや、それならもっと情報仕入れてるか。
「・・・ギルド、名目上はな」
「「名目上?」」
「はぁ〜。こんなこと言うのもあれだがな。俺も多少は調べたんだよ」
「流石はリーダー。いくら叱られても仕事はちゃんとするんだね!」
「うっせぇシュリヴァン。お前も働け」
「そんなことよりも名目上ってどういうことよ?」
「そんなこと…」
そうそ、今はその問題よりこっちのが大事だよね。シュリヴァンは…
「ヴァン…大人しく後ろにいましょうね。聞いたって分からないんですから」
「ドーラ…止め刺さないで欲しかった」
大丈夫そう。
「んで、この依頼ってのはもともと俺とそこの馬鹿力への仕置きってことで拒否権なく受けさせられたんだが…」
「何したのよ…」
「後で話聞きますからね」
「・・・で、そんな感じでギルマスから直接の指名依頼って形で受けたんだがな?これ、他にもあと3個あんだよ」
「「「は?」」」
あと、3個?これが?この依頼が?それともこの系統が?
「ちょ、ちょっと待って!確認だけど、この依頼があと3回?それとも」
「この依頼があと1回と、似た依頼がもう二個、だな」
「「「???」」」
わからん。似た依頼ってのはこのダンジョンの他の階層だろ?
ならなんであと2つ?上中下深で3つじゃないの?
「それって、ここと下層?」
「そうだな、なんでも、上層中層は他のやつに頼むってよ」
「あ〜、そういうこと」
つまり、下層以下は私たちくらいしか無事に帰ってこれそうなのがいなかったってことね。
「余計わかんないわね。で、なんでその依頼がギルドじゃな……いや、そうね確かにおかしいわね」
「だろ?」
「どゆこと?」
「前提として、ギルドってそんなにお金無いのよ」
「ふむ?」
それはよくある話だからわかる。
「手に入れた利益とかも依頼の報酬の嵩増しに使ってるし、福利厚生に力入れてるしでね。だからこそああやって酒場を併設して稼いでるわけだけど」
なるほど。謎が解けた。なんで酒場がギルドにあるのかと思ってたらそういう理由か。同じ建物なのは…冒険者が暴れたら冒険者に捕らえさせるためか。
「だからこそ、こんな依頼を出せるほどの金銭的余裕はないはずなのよ」
「確かに。てことは、裏に何かがいて援助してる?」
「そういうことだろうな」
「じゃ、後でヴィクトリアにでも聞いてみる。なんか知ってそうだし」
私なら王城直で会えるだろうし。アポ無し突撃かまそう。
と、思ったのだけれど。
「確かにそうね。王女様ならいろいろ知ってそうだし、いいわね!ちょうど遊びの約束もあるし、私も行くわ!」
「あ、私も行きます!」
「え、じゃあ私はいいかな」
「「ダメ!」」
「えぇ…」
女子会はもうこりごりだよ……疲れるし……。
「逃さないわよ」
「一緒に行こうね、シオンちゃん!」
「はい…」
断れない自分が憎い。
「頑張れー」
「楽しんできな」
ジラルドは処す。
ちょっと短いから、今日は、2話投稿!




