其の七十 小さきものにも、三分の魂
「いいないいなぁ〜!私ももっとあんなふうに楽しみた〜い!」
「楽しいか、あれ?」
「楽しいでしょ!名も知らない仲間と協力してかつて諦めた夢を追い直す!最高に人生してない!?」
「どうだかな。つーか、あいつらからしたらマジのマジで人生の全て懸けてるっつーのに気楽なもんだな、お前は」
「そりゃあねー、冒険者なんだし、自分で戦うことを選んだなら死ぬのも含めて人生でしょ?」
それで死んだからって私は特になんとも思いません。いや、嘘。ナイストライ、とは思う。
「仮にもお前が煽って始めたんだろうが」
「いやいやいや。そんなのは私の知るところじゃないよ。ノリで決めた部分はあっても結局はアイツらが決めてるから私に責任は一切ございません!というか、ジラルドこそ何こんなとこで落ち着いてんのさ?」
「そりゃあ仕事がないからだろうが」
「どこが!?」
「救わなきゃならん奴らはもういないし、サーヴィシュナは俺が手を出すわけにもいかんし。お前は一人でなんとかなるし。俺がやることはねぇだろ」
「いや、手伝えよ。私を」
私は手伝われても一向に構わないんですが?
そもそもやる気だしてるからそのサー……クジラでいいか。クジラを殺さないのはわかる。ギリギリまであいつらを助けないのもわかる。
でもさ、私の仕事受け持ってくれてもよくない?イソギンチャクくらいは殺せや。
「いやだ。お前を手隙にしたくない」
「なんで!?」
「だってお前、何するかわかんねぇんだもん」
「ひどい!心外!最低!馬鹿!」
「おうおう、お前なぁ?普通の奴は実力不足の奴を戦場に引っ張り出してこねぇんだわ」
「いや、するでしょ」
少なくともこの状況ならする。だって冒険者だよ?
アイツラがただの戦闘に縁のない一般人だとか、ちょっと強いだけの素人集団ならともかく、銀級のプロ達だぞ?
「使わない理由がない。あとこういうのはみんなで楽しむべきだろ。それに自主性は尊重したし」
「あーはいはい。よくあるアレね。常識違い。あるあるだわ。お前ら上位存在って、お前らが思ってるほど感性人類に近くないからな?」
「え」
「普通の奴は戦闘を楽しいとか思わねぇし、死ぬのは怖い。あと、冒険者だって人だからそれは変わらん」
「え」
嘘じゃん。私元人類よ?それも平和な現代日本に生まれた。その私が、人の感性をしていない?
「割と心当たりあるな?」
「おう、だろうな」
そっかぁ、私種族変わって世界観とかも変化してたんだぁ。
「でも冒険者が命大事にしてるってのには納得いかない」
「・・・俺も自信なくなってきたわ」
「だよね」
目の前でポンポン死にかけたり食われて死んでるの見ると、ねぇ?
しかもまるで懲りないし。
「・・・銅級…はきっと命大事にだろ」
「初心者とか馬鹿みたいに自信過剰で蛮勇犯して死んでそう」
「・・・熟練の銅級とか、銀級は…おとなしい、はず」
「たぶんそれ諦めてるだけよね。本質的には目の前の奴らと同じだと思うけど」
「・・・ああ、そうだな。冒険者は馬鹿しかいねぇわ」
なんかちょっとだけ死んだ眼に見える。可哀想。現実を直視するってこういうことになるんだ。
「あ、食われた」
集団の紅一点が食われた。やはり冒険者なんて女だろうと難易度は変わらないのだと知る。
それはそれとして彼女もなんやかんやでダメージ与えてるから男女関係なく強くなれるのはいいのかもしれない。
そういやドーラもジラルドのとこで一番パワーあるらしいしね。妖力あり、かつパワーだけで見たときだけども。
「・・・そろそろ倒すか」
「そだね、イソギンチャクも終わりそうだし」
ひぃ、ふぅ、みぃ、この数え方の先は知らないけど、どうせ数え切れやしないから問題なし!
ただ殺戮圏内ってことだけわかればよろしいのだ!
「そうか、なら俺ももう参加するわ」
「何言ってんの?私が行くけど」
「は?じゃあ誰がアルノルト止めんだよ」
「ジラルドだけど?」
「無理だが?」
「無理じゃない、やるんだよ。私はもう飽きたんだ。クラゲを守るだけのお仕事は」
クラゲの飽和攻撃を捌き〈傘〉で守る。あっちは私に感謝するどころか殺そうとするし、殺せないと分かると他のやつ殺しに行くのに私は守らないといけないの控えめに言ってクソゲーだと思うの。
━━━━クジラが徐に死角からこちらに迫る
報酬はもちろん、やりがいも無きゃプライスレスの笑顔も無い。ひどい環境だよホント。
「だからって俺にもできねぇよ!?なんならお前以外にアルノルト守り切るなんて無理だ!」
「ハイハイそうかいできるさきっと」
「は?オイチョットマテ。なんかスゲェ嫌な予感すんだが?やめろよ?頼むからやめろ?」
おっ、珍しく察しがいいな。いやまぁそんな長い間一緒ってわけでもないからあれなんだけども。
「なぁ、俺がすぐ終わらせっからもうちょっと我慢しようぜ、だからっ!?」
突如として、大口を開けたクジラが現れる。
「なっ!?んでここにいんだよ!?」
私のかけた〈隠密〉により存在感を消していたクジラ。そして、私がジラルド周辺の空間にかけた〈幻〉。
そして、想像だにしない突飛な行動により、
ジラルドは、私の行動を止められない!
「じゃあなジラルド!あとは任せた!」
「バッ!?何してんだお前ぇえぇぇ〜!!!」
ああ、コレが被捕食か。暗い、怖い、だけど、
「ワクワクすんなぁ!!」
口が閉じられる。暗い中、奥に奥にと運ばれる。その先で。
「おっ、次の犠牲者だ」
「おお、今度は誰だ?ガントか?コノハか?」
「いやいや、あいつらはまだ来ねぇだろ?」
「それもそうか!じゃあ、誰、だ……って………は?」
「おいどうし……はあ?」
「どうした~?お前ら早く連れて来いよ!」
「いや、は?」
「・・・どうした?誰が来たってんだよ?まさかジラルドの奴でも来やがったか?」
「・・・違う、違うんだが…こりゃぁ、どういうこった?」
「はぁ?お前ら何言って………は?」
妖術によって照らされた体内。奥でこれまた妖術で生み出したボードゲームで遊んでいた連中の視線が集う。
「来ちゃった!」
「「「・・・・・」」」
「いやぁ、にしても君ら元気だね?てっきりもっと死にかけてるかと思ったんだけど。あれかな、やっぱり食われるときに噛み砕かれなかったのが良かったのかな?あれ?どしたの君たち、お~い!死んだか~?」
返事はない、死んでいるようだ。なんて。
「ん~、じゃあ、こうしよっか」
息を吸って、吐いて、立ち位置を戻して。
「来ちゃった!」
「「「は、は、ははは、っ!はぁああああああ!!???」」」
「うっさ」
耳がキンキンするかと思った。大丈夫だけど。
「なんで来てんの!?」
「死んだ?食われた!?なんで!?」
「ジラルドの奴は何してんの!?」
「マジで!シュリヴァンもだろ!あいつは何で止めてねぇんだよ!?」
「ってか!なんで普通に食われてんの!?あんた強いじゃんか!?」
「「「ほんそれ!」」」
などなどなど。様々なご意見ご感想が寄せられてるわけですけれどもね?
「しゃあないから簡潔に説明すると、私もこのクジラと戦いたかった。だからここに来た、以上っ!」
「「「意味わかんねぇよ!?」」」
「あっれぇ?なんでぇ?」
結構わかりやすかったと思うんだけどな?
「普通に外で戦えよ!?」
「なんで食われてんの!?というか自分から来たってこと!?」
「意味わかんねぇよ!何一つ!いや戦いたいだけはわかるけど!」
「なるほどなるほど。じゃあもっかい説明するけど、簡単よ? 外じゃ戦えないのよ!私!ジラルドの奴にクラゲ守れって言われて!だから中に逃げて来た!ここならジラルドも文句言いに来ないし、クジラとも戦えるからね!」
静かになっちゃった。唖然としているってやつだね。きっと。
「んじゃあ納得いただけたところで、皆で働こうか!」
「「「は?」」」
「くくく、まさか喰われたからおしまいなんてわけないよね。むしろこっからが本番でしょ」
よくある話だよ、防御が高い、巨体である。そんなモンスターの討伐方法なんてさ。
「全員のダメージは私が引き受ける。だから!好き勝手暴れて体内滅茶苦茶にしてやろうぜいっ!!」
ふふふふふ。いいよね、こういうの。なんも考えず、脳死で馬鹿みたいにロマン技を撃ちまくる。最高でしょ!
「ん?どしたの君ら。早く準備しなよ?」
「え、ええと。ちょっとまだよくわかってないというか…」
「そうそう、具体的に何するのかなぁって」
「え?何って、知らないけど?」
「「「え?」」」
「そりゃそうでしょ。私君らの最大火力技知らないもん」
「最大火力?」
「そそ、あ、そういうこと?んじゃあお手本見せてあげるからそれでうまくやってよ」
「あ、はい」
なんだ。FFなしってのが信じきれてないのね。なら、問題ない。これを見れば納得するはずだし。
「いやぁ、これも久しぶりだし、なんならこの姿になってからは初めてだなぁ。なんなら、使うものすら変わってるし」
できるかなぁ?失敗するかも。でもま、失敗しても爆発する分には問題ないか。どうせ被害受けるのは私とこのクジラだけだし。
「あ、あの、何するつもりで?」
「ん?あ、そろそろ準備できるから見てのお楽しみね?あと、防御行動はとらなくていいから。何があっても私が守るからさ」
そうこうしてるうちに、イメージは固まった。後は実行、発動、即抹消ってね?
「さぁて、まずはっと。〈形態変化 龍人〉からの!〈愛、故の苦しみ〉」
フォームチェンジからのFF無効化の呪文。そしていつも通りの術名。なんやかんやでこれでなんとかなるのがあいつの?精霊の?すごいとこ。
そんで、本番はこっち。
「〈龍顎並びて龍尾、放つは咆哮。収束せよ、凝縮せよ、威光集いて玉と成せ〉」
両手を前に、上下に構え顎を形造る。そしてそれを支えるように尾を添える。いつも〈咆哮〉を放つように、魔力の代わりに妖力を集めて凝縮。通常見えないはずの妖力自体が発光しだしたら、さらに圧縮。一つの玉に見えてきたら。
「〈さぁさ世界よ気づけ、此に於いて、新たな龍玉が誕生す〉」
龍玉。それは龍の存在の証。かなりの妖力を使い、かなりの労力と時間をかけて生み出す。そしてそれは龍玉として存在を確立するまで、何百、何千の歳月がかかる。故、通常、龍は幼い頃より肌身離さず持ち続けることとなる。
しかしその効力は凄まじく、労苦に見合うだけのものである。龍が持てばその強さは五段階以上に増し、もしも、他の生物がそれを手にすることができれば、どんな願いもかなうことだろう。
と、言うのがウードの記憶から引っ張り出したこの世界の常識、的な何かなのだが。
私は思う。それ、めんどくね?
と。だから、
「〈視よ、この輝き、この玉を!我が力、我が存在の結晶なり!
なればこそ、世界よ聞け!〉」
もっと、もっと人間らしく!
傲慢に生きようじゃあないか!
「〈是は、我が龍玉であると宣言しよう!〉」
だって、私は。俺は!
「〈他ならぬ我が、『精霊龍人 シオン・セレスティン』が誓言しよう!〉」
どうしようもなく、元人間なのだから。
「〈さぁさ、世界よ知るがいい!我が力、我が存在!我が命の輝きを!〉」
龍玉が光り輝き、緑紺に染まる。球を成し、実態を得て、それを、落とした。
「「「ぇ?」」」
パリンッと、綺麗な音が響き、背後より声が漏れる。が。
「〈これぞ、我が覚悟。我が命。いと儚きものなり。されど、その魂は濃く、重い〉」
割れた玉から漏れ出す紅。それが私に纏わりついて。
「〈故に、その輝きは花雷光露、万雷の喝采を呼び起こす〉」
それはまるで、いつぞやの紅き指輪の輝きの如く。しかして魔を喰らわず。
「〈塗り替えろ! 紅穹響く絶なる咆哮!!〉」
龍尾の先、龍顎より放たれた其れが、照らされた闇を、
紅く塗り替える。




