其の六十五 酒とカオスと龍と蛇
ギルマス室を出て廊下を歩きながら、この後の事に頭を悩ませる。
「シオンちゃん!早速冒険行く?カード受け取ってさ!」
そう、このお気楽王族勇者についてだ。
護衛はともかく連絡もせずにダンジョンに行くのはさすがにダメだろ。そもそもさっき許可取ったとか言ってたような気がするけど何がどうしてそうなった?
「・・・行かないけど」
「え?行こうよ!きっと楽しいよ?」
「いや、ご飯食べる」
「えぇ!?さっきあんなに食べたのに?」
「いや、残してきたし…」
そもそも大して食べてない。せいぜい十人前くらいだ。
「えぇ?仕方ないなぁ~。あ、そうだ!さっきの冒険者さんいたじゃない?彼ってどのくらい強いの?」
嫌な予感がする。
「さぁ?わかんない」
「え?でも一緒にダンジョン行ったんじゃないの?」
「まぁ、そうだけど…ほとんど覚えてないし。指標がないから強いとしか言えない」
「なるほど…でもそっか。強いんだね?」
「・・・うん」
止めてくれ。頼むから。当たらないでくれ。
「じゃあさ!彼もいっしょにダンジョン行こっ!」
終わった。
「ええ!?どうしたのシオンちゃん!?急に崩れ落ちて!?」
「・・いや、うん。何でもないよ?」
「そーお?じゃあご飯食べて早速行く?」
失敗した。失敗した失敗した失敗した!体調悪いっていっときゃ良かった!ミスった!
「あ、そ…ね。うん。とりあえずジラルドにも聞かなきゃだし、あとにしようか?」
「あっ、そうだね!じゃあ行こっ!」
ああ…これであとは祈るだけか。いや、まだ大丈夫なはずだ。きっと、ジラルドなら断ってくれるさ。だってジラルドだもの。
☆☆☆☆☆☆
「ダンジョンだぁ?三人で?別にいい…あー、そういやあれだ!そろそろうちのパーティの奴らと潜るんだった!すまん!やっぱ無理だ!」
「だって。ヴィクトリア、仕方ないし今回は諦めよう?また今度、ね?」
「うーん。そっかぁ…」
あの後席で何人もの冒険者にたかられながら飲み食いしてたジラルドに話を持ち掛けた結果がこれだ。いやぁ、予定があってよかったなぁ!
「おい、あれ姫さんだよな?実は他人の空にだったりしない?」
「いや、正真正銘本物だね」
「だよなぁ?なんでまたこんなダンジョン行きたがってんだよ。どうなってんの、御宅の友人?」
「さぁ?そもそも私も知り合って数日だから…」
「はぁ?なんで姫様と数日で友達になってんだよ?」
「いや、なんか、”お姉ちゃん”って言ったら抜群だった」
「どういうことだよ…つうかお前何もんだよ…」
其れは私も知らん。私が何者かといえば龍で魔王だよ。教えないけど。
「あ!そうだ!」
「うわびっくりしたぁ」
「・・・嫌な予感」
何やら考え込んでいたヴィクトリア。それが突然ひらめいたとなればすなわち。
「ジラルドさん!パーティー!紹介してくれませんか!?」
厄介ごとである。
「・・・はぁ?」
☆☆☆☆☆☆
時は巡って現在。現場はカオスに包まれていた。
「わぁ~!ヴィクトリアちゃんってシオンちゃんのお姉ちゃんなの!?いいなぁ~!」
「でしょー?いいでしょ~?」
「うんうんいいなぁ~!私もシオンちゃんにお姉ちゃんって呼ばれた~い!」
なんて恐ろしい会話が横でされてたり。
「シオンちゃん!まだまだご飯食べる?」
「食べる」
「そっかぁ!じゃあもっと頼むからいっぱい食べてね!」
なんて私を抱きかかえながら撫でてくる天使もいれば。
「あいつら、元気すぎじゃね?」
「お~?そうだなぁ~?でもいいんじゃねぇの~?なんも気にせず酒飲めるしよぉ~?」
「おまえ飲みすぎだろ。そろそろやめとかねぇと明日地獄見るぞ?」
「大丈夫だってぇ!だってあの二人はなしにむちゅうでこっち見てねぇしよぉ!」
「馬鹿っ!声でけぇよ!ってかお前何しようとしてんだ死ぬぞ!?」
「ハッハー!夢の樽一気飲みだぜぇ!」
「死ぬぞォ!?」
なんて地獄もある。ちなみに、飲み過ぎてるのはシュリヴァン。私が初めてギルドに来た時に殺しかけたノリのいい彼である。あ、止めてる方はいつものジラルドね。
「ねぇ、フェオドーラさん」
フェオドーラさんは私を抱きかかえてご飯をくれる天使(人)だ。
「ん~?ドーラでいいよ?」
「あ、ドーラさん。あの人大丈夫なの?」
「ん~?あ~、あれね。放置でいいよ、後で絞めとくから」
怖い。一気に酔いが醒めた。私は酔ってないけど…いや?
「・・・ねぇ、ジラルド」
「あ?なんだよ。飯ならドーラに言え、つーかこいつ止めんの手伝ってくれ」
「いや、それはあとで絞められるらしいから」
「あ。そうか、これがこいつの最期の晩餐か」
そんなにやばいのかよ。
「じゃなくて、その酒ちょっと分けてくれない?」
「あぁ?自分で頼めばいいだろ」
「いや、合わなくて残したらいやじゃん?」
「まぁそれもそうか。ほらよ」
そういってジョッキごと渡されたのだが。受け取る寸前に消えた。いや、奪られた。
「あ、おい待てっ!?」
「んぐっ、んぐっ、ふふぁー!」
「バッカやろぉ!?お前は酒弱いんだろうが!?」
「え、まさか───」
いや待て待てそんなわけ!
「シオンちゃ~ん!ギュっ~!あ~好きぃ~!可愛い~!」
「あぁ。手遅れか」
うっそだろ?まだ一杯目、っていうか飲みかけで残り少なかったはずだろ!?そんな弱いの漫画の中だけじゃねぇの!?
「てっ!?力強っ!?ちょっと待て!助けて!?」
「俺には無理だ。諦めろ」
「なんでだよ!?せめて一回くらい頑張れよ!男だろ!?」
「無理だ。俺らの中で純粋に力が一番強いのはドーラだからな」
「なんで!?」
確かに妖力のおかげで女でも戦えるけどさ!それでも基礎能力は男の方が強いはずじゃない!?
「ドーラはな、ヒーラーなんだ」
「なんでアタッカーが負けてんだよ!?」
「確かに戦闘なら経験や技術の差で勝てるさ。でもな?妖力量はヒーラーが一番多いのは当然だろ?つまり、強化量も俺より格段に上なのさ」
そうだった。この世界、一番妖力あるやつがヒーラーになるんだった。
「ふざけんな!?普通に考えて魔物殺してばっかのアタッカーのが妖力手に入るだろうが!?」
「ふっ、殺して奪う妖力より、崇められて手に入る妖力のが多いのは当然だろ?日頃から病院で治療して回ってるドーラのが妖力量は高まるのさ」
「お前も人助けしろっ!?」
「ああ!?うっせぇお前だって殺してばっかの脳筋じゃねぇか!」
「いいえ!?私だって人助けくらい…してないけどそもそもが高いんで問題ないですぅ!」
よくよく考えたら確かに殺してばっかだったけど!なんなら世界の敵みたいなもんだけど!
「だったら俺だって高いんで問題ないですぅ!」
「あぁ!?どれだけあろうが結局は人なんだから私にゃ勝てないですぅ!」
私!龍なので!精霊なので!人に至れる高みじゃねぇんですぅ!
「はぁ!?やっぱお前人外かよ!種族なんだよこらぁ!」
「龍ですけどぉ!?精霊龍ですけどぉ?ひれ伏せガキィ!」
「あぁん!?龍だとぉ?龍…だとぉ?うん?うん。・・うん。うん?」
「ハッハァ。いまさら怖気づいたかこらぁ・・?」
ああ?あ、れ?なんか、急に頭ぽわぽわしてきたぁ?
「あ、そうか。俺は、俺らは・・・」
ジラルドが、なんか言ってる?
「あっぶねぇっ!堕ちるとこだった!」
「??? 何言ってぇ…?」
「っと、目ぇ覚ませ、解毒だ解毒。酔い醒ませ」
「解毒?酔い?なんでぇ?飲んでないよぉ?」
「いいから醒ませ!」
はぁーい。は、あい?
「ナニコレ!?」
急速に意識が戻っていく。まるで、酔いから覚めるように。
「お前なぁ、いや、俺も多少酔ってたから言えねぇか」
「酔った?なんで?雰囲気で?」
「酒が強すぎんだよ。お前はドーラが吐き出す呼気に混ざった分で酔っぱらったし、俺はそこで潰れてる馬鹿の飲んだ樽から漂うアルコールで酔ったってとこか?」
「えぇ?そんな馬鹿な」
「周り見てみろ、全員潰れてやがる」
「え?」
見てみれば本当にみんな潰れてる。覆いかぶさってるドーラはともかく、隣にいたヴィクトリアも、別の席の冒険者も、少し遠くで仕事中の受付の人も。
「死屍累々じゃん。なんでこんなことに」
「まぁ、馬鹿の頼んだ酒だろうな」
「その樽の中身?」
「ああ。見ろよこのマーク。水龍だぜ?」
樽の側面をよく見ると確かに水龍の絵が描かれていた。
「ナニコレ、ブランド的な?」
「ブランド?知らねぇけどこれはあれだ。対水龍用の水龍酒だな」
「水龍酒~?」
「ほら、龍って馬鹿強ぇだろ?だからこうやって酒で弱体化すんだよ。毒なんかは聞かねぇけど、酒なら聞くからな」
「へぇー」
「あのなぁ?お前も龍なら知っとけ、飲まされて死んでも知らねぇぞ?」
まぁそうだけど。私根っからの龍じゃないんで。
「そもそも私襲われるの?」
「襲われるだろ。龍はいい素材になるし」
「えぇ?上位種族なのに」
「上位種族でも敵対すんなら殺すし、そうでなくても欲に眼が眩めば殺すんだよ、人間ってのは」
「それもそっかぁ」
でも私殺しても素材獲れないと思うけどなぁ。いまだに龍形態手に入んないし。
「ま、それよりこれをどうするかってとこだな」
「面倒くさいし放置でいいんじゃない?」
「・・・それもそうだな」
それから雑談して暇をつぶしたけど、結局セバスが戻ってきて起こすまでみんな寝たままだった。
そのセバスも酒気にやられて酔ってたから改めてジラルドの蟒蛇さが際立った。こいつホントに人間か?




