其の六十一 後始末と秘密の会談
さて、場所は移ってギルド長室。つまりギルマスの私室だ。
ちなみに移った理由は「これ以上面倒ごとを増やして堪るか」って言ってた。いやぁいったい誰のせいだろうね?
で、気になるその内装はというと、厳しい彼女だけど実は部屋はかわいらしい飾りつけが…なんてことはなくシンプルな部屋だった。多少煌びやかな調度品はあるものの、彼女の趣味というよりはギルマスの部屋ですよっていう格の高さを見せるためだけのものだろう。
「は~、こんなんじゃだめだよギルマス。ただでさえ怖がられてんだから自分の部屋くらい可愛くしなきゃ」
「はっ?それは如何いう意味だ?」
やっべ地雷踏んだ。
「いや、ね?普段厳しい人が実は可愛いもの好きでした~っていうのはありがちだけど実際効果的だから気になっただけで…」
「・・・まあいいだろう。そもそもここは厳密には私室ではないからな」
「え?」
「・・・お前は本当に…まあいい。そんなことより話を戻すぞ」
えー、そんなぁ。ま、確かに役職によって与えられた部屋なら厳密には私室ともいえないか。ということは本当の私室は可愛いぬいぐるみでいっぱいの可能性も?
「おい、お前はいつまで変なことを考えている。いい加減話を聞け」
「あ、ごめんね。厳しくするのも大変だね」
「は?お前は本当に何を考えてるんだ?」
いやいや、隠す必要はないさ。僕にはわかる。いかにも仕事一筋ですって感じ見せながらも実は淡い恋心を持ってていつか理想の人と結婚するんだーって思ってるなんてお見通しなんだから。
「おい、その眼を止めろ。次変なこと考えたら殺すぞ」
「え、」
「え、じゃない。気色悪い。止めろ」
「・・・はい、ごめんなさい」
怖ぁ。余計なこと考えないようにしよ。この人はからかっちゃダメな人だ。
「で、なに知りたいんだっけ?」
「いろいろとあるが…まずは清掃の件からだな。これから行くでも、もう行ったでもいい。話せ」
・・・怖ぁ。目が決まってるよこの人。せっかくの美人が台無しだ、あ。
「な、なんでもないですよ?せ、清掃に関してはもう終えてあります!ちゃんと一匹残らず駆逐しておきました!」
「そうか。・・・一匹残らず?間引く、ではなくか?」
「はい!一匹残らず駆逐しました!」
・・・記憶はないけどね。でも!たぶん!きっと!おそらく!駆除し終えたはず!だって帰り道も温泉に行くまでも出会ってないもん!
「・・・ジラルド、本当か?」
「あ、はい、ほんとです。見てくればすぐわかる…し、実際マグマごと消えてるんで駆除しきったはず…です。もしどっかから湧いてても最低限大穴周辺の魔物はいないはず…です」
そういやいたなこいつ。静かすぎて忘れてた。にしても怯えすぎじゃない?なんか口調が変になってるし。
「・・・そうか。ありがとう。では、次だ。お前たち、とくにジラルド。お前が隠していた温泉についてだが…どういうつもりだ?」
「・・・えと、いや、なんつうか、忘れてたっていうか…別に話さなくてもいいかなぁ…って」
「ほう?故意に報告義務を無視したと?」
「いやだってあれ形式上のもんじゃないっすか!実際説明してんのなんて見たことないし、・・・いいかなぁって、思ったんですけどぉ…」
わかる。その気持ちはよくわかる。みんなしてないし俺もよくねってなるのはわかる。そうやって廃れてくルールを僕はよく知ってる。だけどさ、僕には君の肩を持つことはできないよ。だって見ろよあのギルマスの顔。めっちゃ怖くね?
だから、それを面と向かって言う度胸は尊敬するよ。よく言った。成仏してくれ。
「・・・はぁ。まぁいい。もともとあんなもの冒険者どもが守るだなんて期待してない。基本的には力だけ持った馬鹿共の集まりだからな」
「そうっすよね!いいっすよね!」
おい、それでいいのかお前は。間接的…間接的かこれ?もはや直接的に馬鹿にされてんぞお前。
「今回はつい最近見つけて報告をしたということにしておいてやる。いいな?」
「あ、はい。大丈夫のはず。あいつらにも言っときます」
「そうか。こちらからも言っておく。だがそうだな。このまま何もなしというのもよくはない。あとで案内しろ」
「・・・いや、え、温泉に…ですか?」
「そうだが?何か問題でも?」
「え、いや。・・・はい。それじゃあとで案内します」
「ああ、頼む」
・・・・・・・・・どっちだ?
仕事百パーセントか、好感度によって発生したイベントか…どっちだ!?
(おうジラルド、お前これどっちだと思う?)
(は?いやどっちって…さすがに仕事だろ。というかこれで勘違いだったら俺死ぬぞ?一生消えない恥だぞ?)
それは確かに。いやでも。
(それで違ったら向こうが恥だぞ?)
(確かに…いやだがさすがに、だってあのギルマスだぞ?俺らを恐怖させるほどの圧を放てる女だぞ?そんな遠回しにすることあるか?)
(む。確かに。でもさそれでいいのか?ここは度胸見せてくべきなん───)
「お前たち、先ほどから何をこそこそ話してる。まさかまだ悪だくみしてるんじゃないだろうな?」
やべ。
「いや!そんなことないっす!あの温泉ヤバかったなあって話してただけっす!」
「む。そんなに良かったのか?」
「はい!最高っす!でもドロドロに溶けるんで一人の時は止めた方がいいっす!行きたいときはそこのジラルド連れてくっす!」
「えっ」
「そうか、ではそうしよう」
ほっ。何とかごまかせたが思わず口調が変なことになってしまった。「っす」ってなんだよ。後輩か?
(おい!お前何勝手なことしてんだよ!?)
(いや!よかったじゃん美人なギルマスと二人で温泉デート!楽しんで来いよ!)
(馬鹿か!?楽しめる訳ねぇだろ!?怖すぎんだよ!)
なんだこいつ。悪口か?殺されるぞ?
「また悪だくみか?」
「いや!何でもないです!」
「いえ!あの温泉について情報共有してました!」
馬鹿かジラルド!
「何でもない」が通じる相手だと思うなよ!
ここは僕だけでも逃げさせて貰おう!
「…情報共有?詳しく聞かせて貰おう」
「はい!あの温泉にはたどり着くために特殊な魔物を倒す必要があります!そしてそいつは岩を背負ったエビのような見た目をしていてなかなか強いです!そこらの騎士じゃ勝てません!」
まあ騎士じゃ勝てないって言っても私の知る雑兵ならって話でこの国の騎士ならまた違うかもだけど。なんか一般兵の強さ狂ってる感じするし。なんで私の速度に追いついてこれるんですかね?
「そうか。攻撃方法はどんなものだ」
「手からビームだします。おそらく超高圧で発射された水です。あとそれのマグマバージョンもあります」
「攻撃速度は?」
「連射です。溜めはほぼゼロで十発以上連射してきます。ただしばらく打つとオーバーヒートして休みます。なんでその隙に一撃で仕留めるのがいいかと」
「・・・そうか。なら私一人だと厳しいか」
意外。結構強そうだし勝てそうとか思ってたんだけど。戦闘スタイルどんななんだろ?一撃の火力低いタイプだと厳しいもんなあいつ。倒せないことはないけど隙が短いからめんどくさい。
とか思ってたら袖を引っ張られた。
(おい、あれ言わなくていいのかよ?あの飛んだやつ)
あー、そういやそうだった。でも自分でいえばいいのに。
「あ、あとそれに加えて条件はわからないですけど空飛びだします」
「は?」
わかるはその反応。僕も驚いたもん。
「なんか、マグマ噴射して空飛びだします。ただすぐに新しい岩に収まったんで緊急離脱的な技なのかもです」
「そ、そうか。わかった。攻撃方法は以上か?」
「あ、あと口からも光線吐き出します。一発しか撃ってこなかったのと腕から出る奴より早いんでたぶん切り札的なやつです」
正しくは一発しか撃たせなかった、だから真偽は不明だけども。たぶん単発でしょ?威力的に。
「・・・わかった、情報感謝する」
「っす、んじゃこれで終わりですか?」
掃除も、温泉も終わったし、後は特にないはず…だよね?
「そうだな。ジラルドは帰っていいぞ。先程の件に関してはあとで受付で聞いてくれ」
「・・・僕は?」
「うす。失礼します」
「ああ、ご苦労」
「・・・僕は?」
行ってしまった・・・!
・・・裏切りだ!裏切りやがった!
滅ぼさなきゃ!?
「あの、僕は?」
「帰れると、思うか?」
「はい!思います!」
アイツが帰れるなら僕も帰れるはずだ。だって僕何も悪いことしてないもん!
「・・・騎士」
「へ?」
「騙り…」
「・・・」
「逃走」
「ぁ」
これは、まさか!?
「さっき来たのは、ヴィクトリア第二王女様だったな?」
ば、ばれてる~!?
ど、どうして!?私のことがばれてる!?
まさかあの騎士共が私は指名手配だとかほざきやがったのか!?
「私としても、面倒ごとは嫌なんだがなぁ?昨夜、お前たちが逃げ出した後近衛隊が来てこう言ったんだ。『ここにいるはずの精霊龍を差し出せ、蒼髪赤目の幼い少女の見た目をしている奴だ。』と。それはもうすぐにピンときたさ。だがこちらとしてもあんな奴らの言いなりになるのは嫌だったから追い返したんだが…なんて言ったと思う?」
「ハハ、なんでしょうね?いやぁ私にはわからないなぁ?」
「『断るのは自由だが、犯罪者までかくまうとはギルドもずいぶん懐が広いものだなぁ?』あのいけ好かないガキが言った言葉だ。さて、説明してもらおうか?犯罪者って、お前、何をした?」
は、ははは。全部バレテーラ。
「どうして、どうしてだよー!?私はただ、ただ冒険者としてダンジョンに潜りたかっただけなのに!」
「ああ、言い忘れてたがお前、どこでギルド登録した?お前ほどの強さならどこで登録しようが上方が回されるはずだが?」
「・・・太陽の国」
「あそこか。なら猶更おかしい。なぜうちまで龍が登録したと情報が来ない?」
「滅んだから」
「・・・・・・・は?」
「情報が伝わる前に滅んだから」
「は?」
「あの国はもう存在しない。全部、全部溶けて無くなった。人も、建物も、大地も、全部」
「は?」
たしか、吹き飛ばされた時に見た限りでは残っていたのは三つだけ。
「ダンジョンと、魔王と、神以外はもう残ってない。私の知る限りでは、だけど」
あの日ダンジョンに逃げ込んだはずのあいつらがどうなったのかもわからない。眷属ネットワーク的なのは作ってなかったし、そもそも逃げ込めたかも知らない。
「おい、ちょっとまて、それが本当なら、お前は何でそれを知っている?」
───ぁ。
いいこと思いついちゃった。
けどこれ、いや、いいや。
───面白いし。
「・・・知りたい?」
「・・・お前、何を」
「知りたいなら、教えてあげてもいいよ?でも、その場合。もう戻れないよ」
悪魔の取引。対価とか、具体的にどう戻れないかなんてわかんないし決めてないけど、これってすっごい、
───魔王っぽくない?
「・・・わかった。今は聞かないでおこう。だが、必要になれば聞こう。どちらにしても、結論はそう遠くないうちに出るはずだ」
「そう。ならいいけど。その時は、よろしくね?それじゃ、戻っていい?」
「・・・ええ。いいわ。でも最後に、これだけは言わせて」
「なに?」
「あなたが人に味方しようが敵対しようが、この国はそう簡単に壊れない。少なくとも、このギルド内ではね」
あはっ!いいね。そういうの大好き!
「そう、なら、私も敵対しないことを願っておくわ」
実際、この後どうなるかわかんないしね?
だって、与するも対するも、結局はその時の気分次第だからね。
「それじゃ、またね」
「ああ、また」
執務室を離れて廊下を歩きながら考える。
久しぶりに魔王っぽいことした…って思ったけど実際は眠ってるとき除けば割とすぐなのか。
「ま、いいや。でも、騙り…か。実はそれも、面白いかもね」
「何が面白いんだ?」
「あ、いたんだ?」
「おう、せっかくだし飯行こうぜ。そこで何話してたか聞かせてくれよ。いい肴になりそうだ」
「・・・そっちが奢ってよ?」
「なんでだよ!?」
「だって私、お金ないもん!」
「胸張って言うことかそれ!?」
ははは。やっぱりこういうのも悪くない。
仲間だと思っていた勇者が、実は魔王でしたってのは。ありふれた話ではあるけど、やっぱり面白いかもね?
「さ、皆聞いてくれ!このジラルドが今日はおごりだってよ!冒険前に懸けつけ一杯!どうだ!?」
「マジで!?」
「あざす!」
「先輩最高―!」
うんうん。いい返事だ。やっぱり冒険者はこうでないと。
「はぁ!?お前ら正気か!?死ぬぞ!?ってか自分で飲め!」
「なーに言ってんすか!死んだらそのときゃその時っすよ!」
「そうだそうだー!そもそも他人の金で飲む酒がうまいのであって自分で飲んだら意味ねぇよ!」
「正論はんたーい!!」
うんうん。さてと、私ものんびり食べながらこの国で何するか考えるとしますかねぇ。
「すいませーん!今日のおすすめ十個!お金はそこのジラルドに請求してくださ~い!」
あ、あとで食べ損ねた寿司食べ行かなきゃ。ついでに王城にも顔出さないと。いやぁ、忙しい忙しい!
「てめぇら!?勝手に俺のおごりにすんじゃねーーー!!!」




