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転生魔王の私はいずれ勇者に殺される  作者: 神星海月
第二章:天落星壊

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其の六十 温泉と仲間と面倒ごと

 なんやかんやあってびしょ濡れになった服を消し去りもう一度〈シャワー〉を降らせ、体を洗う。


「あ、そうだ」


 今更だけどわざわざ洗わなくとも汚れを消し去ってしまえばいいことに気づいた。


「〈クリーン〉」


 よくある生活魔法のイメージで妖術を発動。さっぱりとした感じに包まれる。


「お、成功した」


「もう何でもありだな」


「さ、湯加減はどんなもんかなぁ」


 隣でぼそっと呟く奴のことは無視して指先を赤いお湯につけると、瞬間指先が融けるかのような感覚に包まれた。


「あっつい!?ナニコレ!?馬鹿じゃねぇの!?これ温泉じゃねぇよ!?」


「だから言ったろ?温度下げるって」


「いや普通に下げるとかそういう問題じゃ無くね!?」


 これもはや水かすら怪しいだろ。これちょっと粘性薄いだけのマグマよ!?


「まあそうなんだけどよ。一応冷やせば多少熱いくらいにはなるから大丈夫だ。まあ強化した肉体でだが…」


「それ温泉って言っていいのかよ。もはやマグマ冷やして浸かってるようなもんじゃねぇか!」


「いや、マグマは冷やしたら入れねぇだろ。だからどうあがいてもこれはめちゃくそに熱いだけの温泉だ」


「暴論過ぎる」


 僕もよく暴論言ってる自覚はあるけどこれはさすがに狂ってると思う。


「そうまでして温泉と言い張るのはなんでだよ」


「うちのメンバーが『私はマグマにつかれるほど人間やめてない!』ってうるせぇんだ。だからこれはマグマじゃねぇ」


「あ、そうすか」


 強い。その手のタイプの人間は怒らせたらダメな奴だ。ひと先ずそこについて言及するのは止めることにする。


「はぁ。じゃあとりあえず強化してはいるかぁ」


「あ?おい、まだ冷やしてねぇぞ!?」


「一番風呂だぁ。ヤッホーい!」


 簡単に身体強化して飛び込むと、全身を熱が覆った。しかし先ほどまでと異なり融けるほどではない。どころか全身が強制的にほぐされていくような快感。


「これやべぇー、とけるー」


「ばっかお前何してんだ!?今冷やしてやるから待っとけ!」


「やめろ!馬鹿!これは温度を下げて楽しむもんじゃねぇぞ!温泉ってのはなぁ!あるがままを愉しむもんなんだよぉ!」


 温度なんて下げてみろ。僕が殺す。


「は、あ?いや、え? えぇー?」


「はー。極楽~!」


 とける~。ぐでぐでになる~。


「・・・俺も試して…いや、やめとくか。あいつがおかしいだけだ」


 なんか不名誉なことを言われた気がする。


「・・・なんか言った?」


「いや、なんでも。それより本当にいいんだな?」


「うん、この温度がいいのさ~」


 はぁ~、極楽だぁ~。いやなことなんて全部消えてく~。心と体が一緒に溶け出してく~。


「あ、敵、・・・・だ」


「ふぃー、気持ちよ~」


 なんか調子いいわぁ。いつも以上によく見えるしぃ、いつも以上に殺しやしぃ。


「怖ぇよ、怖ぇよぉ。こいつ何なんだよぉ?」


「はぁ~。あと五分~」


 ぐでぐで~。今度卵持ってきたらどうなるかなぁ~?

 あとは~、お酒~?でもなぁ~。未成年だしなぁ~。

 まぁ~、細かいことはいいかぁ~。




 ☆☆☆☆☆☆


「はっ!?ここはどこ!?私は誰!?」


 目の前に見えるのはごつごつした岩肌。感じるのはとてつもない熱気。いや、これは私の体温がすごいだけ?


「起きたか。いくら何でも気絶するまで入るのは馬鹿だろ、お前。俺いなかったらどうしてたんだよ、マジで」


「その時はここに来てないし~?なんやかんや死にはしないし~、大丈夫でしょ~」


「その喋り方止めろ。沈めるぞ」


「え、いいの?」


 その場合もう一回こうなるわけだけど。


「くそがっ!」


 ふははははー。僕に勝てると思うなよぉー!


「はぁ。そろそろ帰んぞ」


 おっと、まぁそれもそうか。だいぶ時間たってるだろうし。目的だった温泉と…ついでに掃除も終えたし。


「わかったー、じゃあ帰るかー」


 ひとまず服を着てと、忘れ物は…ないな!っと指さし確認してみれば目を見開きとぼけている男の姿。


「・・・は?」


「え?」


 なにその、「は?」って。まるで予想外の事が起こったみたいじゃん。


「どした?なんかあった?」


「いや、お前今なんつった?」


「え?帰るかーって」


「・・・聞き間違いじゃ、ない?」


「え、何それどゆこと?」


「・・・いや、なんでもねぇ。帰るか」


 ・・・なるほどねぇ?


「ふーん。そっかぁ。もしかしてまだ帰りたくなかった?」


「ちげぇよ!?そんなわけあるか!?ただお前が素直に帰るが意外だっただけだ!・・・あ…」


 予想通りだけど、そんなこと言われちゃあねぇ?僕も黙ってられないよねぇ?


「よっしゃ、お前帰ったら飯奢りなぁ!」


「噓だろぉ!?ずるくねぇ!?」


「はっはっは。こんなんに引っかかる方がわりぃんだよぉ!」


「クソガァ!!!」


 クハハハハァ!これだから人をからかうのはやめらんねぇんだ。


「悔しかったら捕まえてみー!ゴールはギルドなぁ!」


 勢いよく地面を蹴って走り出す。若干のフライングはよくあることぉ!


「おっしゃ受けて立つ! って!お前速すぎだろ!?」


「鍛え方が違うんだよぉ!鍛え方がぁ!」


 噓です。たぶん種族の差。人間…魚人といえども龍にはかなわんよなぁ。しかも精霊龍だぞこちとら。


「おー、もうずいぶん離れたなぁ!そんなんでダイジョブそ?」


「くそがっ!馬鹿にしやがってぇ!」


 って、あれ?分かれ道だ。


「これ、帰り道どっちぃ!?」


「はっはっー!お先ィ!」


「なっ!?」


 なんだとぉ!?あいつ速すぎだろ!?あんな距離あったんだぞ!?


「くそ!こうなったらぁ!案内よろしくぅ!〈守護精霊(ウード)!〉」


 正しい道に緑のエフェクトが輝きだす!


「これが最短!これが最速!僕の勝ちは揺るがなーい!」


 見えた!やっぱり単純な速度ならこっちの方が上!あとは、


「コーナーで差をつけるぅ!」


「なぁ!?早すぎんだろぉ!?」


 空中を足場に、一切のロスなく直角に曲がる!


「くっくっく!ベクトル変換はお手の物ってなぁ!」


 こちとら魔力アリのさらに早い状態で補助されてきたんだ、私がは知らなくとも体は覚えてんだよぉ!


「お!砂の地面!終わりはすぐそこぉ!」


 確か砂だったのは僕らが下りてきたあの穴付近だけ!つまり!


「僕の勝ちぃ!」


 さっさと、登ってギルドまで一直線!


「ホイホイホイッと!」


 空中機動もずいぶんこなれたもんよ!今ならもっと複雑でも問題ないかも!


「・・・いややっぱやめとこ」


 っと、大穴の終わりが見えてきた。あとちょっとで地上だが…


「・・・違和感。なにか、違う気がする?」


 いくら僕が速くても、ここまで追いつかれないことがあるか?

 確かに差はあったけど、この大穴を上っていれば下に見えるくらいの距離しか離れてなかったはず…


「・・・待てよ?・・・まさかっ!?」


 失敗したっ!


「ゴールはギルド!ダンジョンの入り口がほかにもあれば、こっちは遠回りになりかねない!?」


 ああくそ!こんな時に!


「邪魔だくそ騎士ぃ!!!」


 入り口で待ち構えるように囲む騎士たちの姿が視界に映る。ならば、もっかい!


「〈転移ィィィ〉!!!」


 全ての移動エネルギーを強制的に体に引き留め、視点が移る。


 視界に修復されたギルドと、奥から現れるジラルドの姿を見ると同時、


「お、おっぇぇぇぇーーー」


 吐いた。種族柄か何もでないけど、吐いた。間違いなく吐いた。


 気持ち悪い。内臓がぐちゃぐちゃにかき混ぜられた気分だ。


「はぁ、はぁ、はぁ。無茶…し過ぎた…!」


 体内が滅茶苦茶だ。肋骨は折れてるし、やっぱり内臓の位置狂ってるし。


「人間なら、死んでたぞ!」


 今すぐに寝たい。あぁ、王城のベッドが恋しい。あれはいい寝床だった。


「思えばまともに寝たのなんてあそこしか無い気がする……あれもマトモとは言い難いけど…」


「なーに独り言言ってんだお前は」


 あっ、ジラルド。


「へへっ、今回も僕の勝ちだね」


「あ?ギリ俺のが早かったろ?」


「は?僕のが先です〜!」


「ああ!?俺だっての!俺が来た時点じゃまだいなかったろうが!」


「ハァ?同時ですぅ!?・・・あ、」


 やっば間違えた。


「ハッ!んじゃ嘘ついたってことで今回は俺の勝ちな!」


「そ、そんな、そんな馬鹿なぁ!?」


 く、クソぉ!やられた!やり返された!なんてこった!


「あ、俺が勝ったから奢りは無しな!自分の分は自分で頼めよ?」


「あ、あ、わぁぁぁぁあ!?」


 目の前が真っ暗になった。

 これが、敗北…?


「はぁ…何バカなことやってんですか貴方達は?掃除はどうしたんですか?」


「あっ、ギルマスぅ〜!助けて!このおじさんが僕をいじめるぅ!」


「あっ!?このクソガキ!?それはずるだろ!?」


「離れてください。私に子供趣味はありません」


 べー、だ。戦いに卑怯も何もないのだよっ!?


「そ、そんなバカな!?お姉さんはショタ好きってどこの世界でも常識じゃないの!?」


「何いってんだお前は」


「・・・離れてください。気持ち悪いです」


 うっ、わぁ…。これが、いわゆる絶対零度の視線か。だが、まだだ。まだ終わらぬ!


「なら!これならどうだ!」


「・・・何か変わりましたか?」


「ふふん!今の僕は女!私は性別を自由に変えられるのさ!因みに元は…女…?いや、男?どっちだこれ?」


 前世含めりゃ男だし…、今世だったら女だし…。


「と、ともかく!今の私は女!つまり私は━━━」


「シオンちゃん!?」


 って、誰………あ、ヤバ。


「ど、どどど、どちら様でしょうか!?」


「・・・ぇ…私です、ほらお姉ちゃんですよ?」


 んぐ!?これ、破壊力ヤバ!?

 不安そうな眼に恥じらいを持ちながらもこれは事実なのだと自分に言い聞かせて告げる「お姉ちゃん」はまさに天使!


「い、いやー?私、僕にお姉ちゃんはいないはずなんですけどぉ?」


「え、そんな、嘘…でも、昨日は…」


 うぅ…心が痛い。あんなにキャラ崩してたあたり本気でお姉ちゃんであることが嬉しかったんだろうに、こっちからお姉ちゃんを求めた昨日と異なり今の僕はそれを否定する、まさに悪魔的所業!


「って、昨日?ギルマス、今何時?」


「ふむ、午前九時だな」


「僕らが騒ぎ起こしたのは?」


「昨日の夜だ」


 あれ…そういや迷子になってから夜にギルド来て、面倒事起こして、ダンジョン行って、暴れて、今。


「時間に対して内容濃くない?」


「だよなぁ?2日くらい経ってそうな内容だぞ普通に」


 そうだよね、実はダンジョンで半日も過ごしてないとか驚きよ?


「……えっと、どういう状況です?」


 おっと、ヴィクトリアが置いてきぼりになってる。助けてあげたいとこではあるけど…う〜ん。


「失礼、私はこのギルドのギルドマスターを務めているミリテル・ツニアと言う。貴方はいったい何用でここに?」


「あっ、えっと……そこのシオンちゃんに会いに…?」


 やっぱり?あの騎士もそうだけど、僕のこと捕らえようと頑張ってるのね。でもごめんよ。僕はまだ遊びたいんだ。


「ふむ。しかし本人は否定しているようだが?こちらとしてもギルド員に表立って迷惑がかかるようなことがあれば対応せざるを得ない。お引き取り願おう」


 こ、怖ぇ…。てかこれあれでしょ?やるならもっと秘密裏にやれよってことでしょ?それなら何も関与しないからって。


 いや、いいんだけどね?表向きでも王女兼勇者相手に一歩も引かないで要求通すだけで十分だと思うし。でもなんか釈然としないよねぇ…。


「あ、ごめんなさい。・・・じゃあ、またね。シオンちゃん」


「え、いや、僕はそちらの探してるシオンではないと思うんですが!」


「えっ?」


「僕は見ての通り男ですし!尻尾生えてますし!探しているのは別人じゃないかなぁって思います!はい!」


「あ、あれ?そういえば尻尾なんて生えてなかったような?いや、でも…」


 うん。確かそう。尻尾は生やしてなかったはず!魔力切れてたからね!


 いやぁ、後でつけ直すの面倒くさくて消さないでおいた尻尾がこんなとこで役立つとは!こういうの、人間万事塞翁が馬って言うんだよね!


「それじゃ、見つかるといいね!妹さん!」


「…うん!ありがとね!じゃあ、またね」


「またね!」


 さて…こんなもんでいいか。


「よし、で、何の話ししてたっけ?」


「怖っ!お前酷くね!?」

「私も彼女が些か可哀想に思えるぞ」


 え、僕なんかした?

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